~ビジネスに勝てる「強い契約書」をつくるには
ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。日頃は、ビジネス契約書専門(特にIT系に強い)の行政書士として、中小・ベンチャー企業様の成長発展のお手伝いをしております。
1.はじめに
先日の日本経済新聞朝刊に、同志社大学のコリン・P・A・ジョーンズ教授のコラム、『「ロボット戸籍」導入のすすめ』の中にこんな記述がありました。
定義づけることは法律の基本機能だ。人間なら「未成年」などの客観的な定義がなければ関係法令の作成や執行が困難となる。
日本経済新聞2022年4月21日朝刊「試験卓見」
これは契約書においても同様です。
明確で客観的な定義がなければ「執行が困難」、つまり、現場が回らないというのは、法律においても、ビジネスにおいても同じことです。
以前、当ブログで、契約書の文章構成・文章表現(契約書文法)は「ハッキリしていない箇所」を潰し、誰が読んでも同じ解釈となるよう(難しい言葉で「疑義が生じないようにする」)していく必要があるのではないかと、解説しました。
2.契約書の肝「定義付け」
契約書が活躍するのは、残念ながら、契約トラブル発生時などネガティブな状況。
そんな時に「疑義が生じない」ようにしておくためには、文章構成・文章構成一つ一つについて、研ぎ澄ませておく必要があります。
その中でも一番の肝は用語の定義付けです。
契約書における用語の定義とは、例えば、
甲及び乙は、本契約に関連して双方が開示する営業上又は技術上その他一切の情報のうち、相手方に対して秘密である旨明示して開示した情報及び性質等に鑑みて通常秘密情報として取扱われるべき情報(以下「秘密情報」という。)を、善良な管理者の注意をもって保管・管理するものとする。
にあるような。(以下「秘密情報」という。)のような丸カッコで囲まれている箇所(あるいは第2条あたりの最初の方に、まとめて定義されている契約書もあり)を指します。
上記の条文では秘密情報について、
「相手方に対して秘密である旨明示して開示した情報及び性質等に鑑みて通常秘密情報として取扱われるべき情報」
となっています。
要は、相手に秘密情報として第三者に漏えいされないようにするためには、開示をする際に「極秘」「CONFIDENTIAL」など、文書やメディア等に明確におきなさい!そんな条文です。
これを例えば、バッサリと削って以下のようなシンプルな条文にしたとします。
甲及び乙は、本契約に関連して双方が開示する営業上又は技術上その他一切の情報(以下「秘密情報」という。)を、善良な管理者の注意をもって保管・管理するものとする。
「一切合切の情報が秘密情報となる」とも読み取れ、情報を開示する側にとっては有利ですが、情報を受け取る側にとっては相手から開示された情報について、幅広く漏えい対策を取らなくてはならなくなり、実務上大変な苦労を伴います。
上記のように、用語の定義付けいかんによって「有利」「不利」を自由自在にコントロールできますので、
用語の定義付けの良し悪し=契約書の良し悪し
と言っても何ら言い過ぎではないことは読者の皆さまになら、お分かりいただけると思います。
3.頼れる「パートナー」
ビジネスは戦いと例えられることもありますが、契約書においても言葉による戦いが行われています。
私にとって、その言葉の戦いの力強いパートナーが、事務所に常備しているこの辞書群。
これらの「パートナー」について、私自身は次のような使い方をしています。
①『判例六法』
毎日時間を決めて(15分程度)適当に開いたページの法律で、その法律に使われている用語がどう定義付けられているのか、確認しています。
②『契約用語使い分け辞典』
ほぼ毎日使います。
契約書によく出てくる基本的な用語がコンパクトにまとまっています。
③『法律用語辞典』
基本的な法律用語がコンパクトにまとまっています。契約書においては、法律の基本用語の正確な理解が必要なことが多く、これもほぼ毎日開きます。
④『法律学小辞典』
上記『法律用語辞典』の語釈からさらに深掘りして、概念的な部分まで確認したいときに使います。
4.さいごに
契約書を「つくる」仕事について20年(法務部11年+行政書士9年)になります。
スキルは一朝一夕には向上しないことは実体験から言えます。また、ビジネスは日進月歩で進化しており、それに合わせて契約書の内容を変化させていかなければならないことも多いです。
最新の情報はネット上にありますが、正確性と明確性の料率が求められる契約書づくりにおいては、上述の辞書群のような、学問を修めた方が書かれている出所が明確な書籍に触れ続けることが何よりも重要と考えております。
最後まで、お読みくださりありがとうございました。
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