契約書

理不尽で不合理な内容の契約書への対策

~契約は絶対に守らなければならないもの。だからこその対策

ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。日頃は、ビジネス契約書専門(特にIT系に強い)の行政書士として、中小・ベンチャー企業様の成長発展のお手伝いをしております。

1.はじめに

「相手(大企業であることが多い)から、取引開始にあたって契約書類一式が送られてきたのだけれど、ぱっと見、自社にとって不合理で理不尽なことが書いてある。このままハンコを押しても(サインをしても)よいのだろうか?」
といったご相談をいただくことがあります。

読者の皆さんがよくご承知の通り
「契約書はハンコを押したら絶対に守らなければならないもの」
です。仮に契約書に書いてあることが守れなかったら、行き着く先に待っているのは多額の損害賠償請求ケースもあり得ます。

ビジネスに関する契約に関していえば「自己責任が徹底」されています。どんなに不合理で理不尽なことが書いてあったとしても「悪法も方なり」のことわざのごとく、当事者間では効力のある取引ルールとなります。

特に起業されたばかりの方や、契約書に不慣れな方は、これを知らずにハンコを押してしまい、後悔をする方が後をたちません。

とりわけ「取引基本契約書」のような継続的取引の基本となる契約書(4,000円の印紙を貼る契約書と言った方が分かりやすいでしょうか?)に一度ハンコを押してしまうと、リニューアルするのは困難を極めますので、経営への悪影響が長期間に及んでしまいます。

後悔先に立たず。しなくともよい後悔をしないための知識をまとめておきます。

2.「契約条件を修正してもらう」対策

「不合理で理不尽なことが書いてある契約書」に対する対策として、まず考えたいのが、相手と交渉して契約書に書いてあることを修正、変更、削除してもらうということです。
ただ、こちらの記事にもまとめました通り、契約交渉では先制攻撃が圧倒的に有利ですから、相手から出されてしまった契約内容について修正等をかけるのは困難なことが多いのも事実です。

ただ、何もせずにハンコを押してしまうよりも、経営上、しっかりと契約交渉をしておくべきです。その際のポイントとしては、
・修正理由と修正案を明確に示す
・書面にて「公式ルート」で申し入れる(当社契約当事者から相手方契約当事者へ;原則的には当社代表取締役→相手方代表取締役)

等が考えられます。

その際、相手から「契約内容は当社雛形からの変更は一切できない」と門前払いされても諦めないことです。
相手が大企業の場合特に、単に相手の担当者が本社の法務担当部門にお伺いを立てるのが面倒なだけというケースもあります。
当社雛形からの変更が不可能だとしても、その雛形に「変更覚書」を付す形であれば、柔軟に対応してくれる会社も結構ありますので、形式的なことではありますが「変更覚書を付して実質的に変更する」という対応を含め検討していくことが大切です。

3.「契約書を取り交わさない」対策

契約書を取り合わすことの重要性を説くブログとしては、やや逆説的ではあるのですが、
「不合理で理不尽なことが書いてある契約書にはハンコを押さない」
つまり「契約書の取り交わしをしない」というのも有力な対策になり得ます。これは「契約自由の原則」なる法律の世界での大原則によるものです。

【契約自由の原則】
私人の契約による法律関係については私人自らの自由な意思に任されるべきであって、国家は一般的にこれに干渉すべきではない、とする近代私法の原則。契約締結の自由、相手方選択の自由、契約内容の自由、方式の自由がその内容とされる。現在では、経済的に弱い立場にある者を保護するための労働契約、賃貸借契約、消費者契約などの内容に国家が介入し、あるいは公益事業において契約の締結を強制するなど、この自由を制限することが行われている

『法律用語辞典(第5版)』有斐閣

「困ったときは原理原則に帰れ」

この格言?は私が大学生の時の民事訴訟法の先生がよくおっしゃっていたことですが、上記の契約自由の原則から「契約締結の自由」を引っ張り出して「契約書の取り交わしを断る」も重要な選択肢になります。

契約書を取り交わしていないとどうなるか。もし取引においてトラブルが発生してしまった場合には、最終的には民法や商取引法などの法律に基づき解決されることとなります。
法律の定めはビジネス的には八方美人的です(その八方美人さがトラブルを増幅させる原因になりかねないので、上記「契約自由の原則」を使って、契約条件という取引ルールとして上書きするためにも契約書は重要なのではありますが…)

一方、法律の定めは、良いように捉えれば、バランス感覚に優れていますので、「不合理で理不尽なことが書いてある契約書」にハンコを押してしまうよりは、よっぽど自社にとって「有利」となります。

契約書の取り交わしを断った場合で、相手から「何らかの契約書面がないと取引ができない」と言われた場合には、「その取引だけのスポット契約書」(一般的には注文書・注文請書のやり取りをすることが多い)の取り交わしを相手に提案することも視野に入れてください。

4.音声解説

上記については、stand.fm「契約書に強くなる!ラジオ」にて音声で解説しております。
テキストでは中々残せないことにつきましても、カジュアルに話せるのが音声配信の良いところだと感じております。こちらもご参照いただければ幸いです。

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