契約書

契約書って、です・ます調でよい?縦書きじゃないとダメなの??

~自由に選んで良い文体・書式

ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。
日頃は、ビジネス契約書専門(特にIT系に強い)の行政書士として、中小・ベンチャー企業様の成長発展のお手伝いをしております。

契約書の文体を、
・甲は、乙に対して、代金を請求することができる。
と常体(だ・である)とした方がよいのか?
・甲は、乙に対して代金を請求することができます。
と敬体(です・ます)とした方がよいのか?

あるいは、書式について、
・縦書きがよいのか?
・横書きがよいのか?

といった、契約書「書き方」についての基本的なご質問をいただくことがあります。

結論を先に申し上げれば、「常体」「敬体」「縦書き」「横書き」
どれも正解!です。

こちらは「契約自由の原則」という大原則があるためです。
ここで改めて確認します。

契約自由の原則
個人の契約関係は、契約当事者の自由な意思によって決定されるのであって、国家はこれに干渉せずこれを尊重しなければならないという近代私法の原則。
契約を締結するかどうかについての自由(締結の自由)、
どのような相手方と契約をするかについての自由(相手方選択の自由)、
どのような内容の契約をするかについての自由(内容の自由)、
どのような方式による契約をするかの自由(方式の自由)
がその内容であるとされる。
債権法改正案によって明文化された。

法律学小辞典(第5版)』有斐閣

上述の通り、「契約書」に対する法律のスタンスは、公序良俗に反しない限り基本的には自由!なのです(一部例外はありますが)。
文体のことや書式・レイアウトに関する規制は特にありませんので、上記のように「どれも正解!」となります。

「どれも正解!と言われても…」ケースに応じてどう使い分けた方がよいのか、基準くらい教えてよ~とお思いの読者の皆さんもいらっしゃるかと思いますので、以下、弊所としての考え方をまとめておきたいと思います。

ビジネス契約書に限っていえば、契約書の文体は敬体(です・ます)がオススメです。
というのも、契約書は法的な文書でありかつ「お客様に提出するビジネス文書」でもあります。
会社案内、商品パンフレットなどの、契約書以外の「お客様に提出するビジネス文書」は、皆、敬体なのだから、揃えた方が統一感があってよいのでは?というのが一番の理由です。
お客様にとっては、お金絡みのことが一番書いてある「ビジネス文書」が契約書。
しっかり読み込むお客様も増えてきています。

あるいは、お客様との間で、商談のクロージング時にしっかりと契約条件の「読み合わせ」をして、お客様に権利と義務をきちんと確認していただいてから、ハンコを押していただく、サインをしていただくというプロセスを踏む、これがトラブル防止の観点からは非常に有用です。

その「読み合わせ」の際に、敬体(です・ます)で、かつわかりやすい内容で書かれていた方が、「契約書では固い書きぶりになっちゃってますが…」などと、いちいち言わなく済むのでやりやすいというご意見もよく聞きます。

10年前くらいまでは、常体(だ・である)の契約書が圧倒的多数でしたが、近年は、敬体(です・ます)の契約書が半分くらいにまで勢力を拡大している印象です。
「お客様を大事にする姿勢を契約書でもあらわしたい」
という、企業が多くなってきたからなのかもしれません。

近ごろは「お客様が読みやすいように」との配慮から、
・略称を「甲」「乙」ではなく「当社」「お客様」などと分かりやすくする
・伝統的な「契約文法」にとらわれることなく、口語表現に近い形で書かれた契約書
・契約書の要約版を別紙で付けている

こういったケースも増えてきています。

日常の業務で見かける契約書のほとんどが横書きで、契約書に関する仕事をはじめて20年。「縦書きで契約書を作ってくれ」というご依頼をいただいたことがほとんどないので、「契約書は横書きがスタンダード」だと思います。
ちょっと気になったので、専門書を紐解いてみました。

(ア)縦書きの長所
 ①日本語の伝統的な書き方である。
 ②多くの契約書が縦書きとなっている場合に契約書綴りが右綴じであり、同じ綴り方ができる。
 ③組織内での書式が縦書きであり、縦書きだとほかの書類と整合性が確保される。
 ④国の法制執務の考え方は縦書きを基本としているため、従前の法制執務の考え方で統一
  できる。
(イ)横書きの長所
 ①外国との契約は、横書きしかない。どの分野でも外国との契約が多い時代となっているため、
  契約書綴りそのものが左綴じとなっている場合が多く、横書きが便利となっている。
 ②金額、記号等の数字及び記号を記載する場合に、横書きのほうが算用数字及び記号を使いや
  すい。
 ③アルファベットの表記をそのまま記載することができる。

契約書式実務全書第1巻』大村=佐瀬=良永(ぎょうせい)p.50

「縦書きは日本語の伝統的な書き方」
説得力ありますよね。
とはいえ公文書もほとんどが横書きですので、特段の理由がない限り、あえて縦書きにする必要はないのでは?と考えられます。

stand.fm「契約書に強くなる!ラジオ」では上記についての音声解説をしております。
文字だけでは表せない微妙なニュアンスを気取らずにお伝えできるのが音声配信の魅力です。
「ながら視聴」でも知識を得ていただけるようにお話ししておりますので、一度お聴きいただければ幸いです。

上述の契約自由の原則のところで「債権法改正案によって明文化された」との記載がありました。
「案」となっているのは、引用した『法律学小辞典(第5版)』の発行2016年3月のため。

2020年4月1日施行の改正民法での明文化箇所を備忘録も兼ねてこちらに掲載しておきます。

(契約の締結及び内容の自由)
第五百二十一条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

最後まで、お読みくださりありがとうございました。

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