ビジネス法務

【契約書のトリセツ】振込手数料って、どっちが負担するの?(2026年版:フリーランス保護法、中小受託取引適正化法の論点追記)

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


「請求金額どおりに入金されていない」と経理担当が気づいたとき、
その差額が振込手数料だった──。

こうしたケースは、業種を問わずよく見られます。ところが、契約書に振込手数料の負担について明記されていないと、
思わぬ誤解やトラブルを招くことも。

今回は、振込手数料の負担をめぐる法律上の原則と、契約実務における対応策を整理します。


金銭支払に関する法的ルールは、民法第484条および第485条に規定されています。

民法第484条(弁済の場所)

弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、
特定物の引渡しは債権発生当時にその物が存在した場所で、
その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
法令または慣習により取引時間の定めがあるときは、その時間内に限り弁済または請求ができる。

つまり、金銭の支払いは原則として「債権者の住所=受取側」で行う必要があるため、
銀行振込という手段は支払者への便宜によるものとされます。

民法第485条(弁済の費用)

弁済の費用について別段の意思表示がないときは、
その費用は債務者が負担する。
ただし、債権者の住所移転などにより費用が増えた場合には、
その増加分は債権者が負担する。

この条文により、弁済(代金の支払)のために発生する振込手数料は、原則として支払者(債務者)が負担すべきこととなっています。


取引実務では「請求額から手数料を引いて振り込む」運用も少なくありません。その背景には以下のような事情があります:

  • 契約書や請求書に明記がない
  • 前任者の慣習をそのまま引き継いでいる
  • インターネットバンキングの初期設定が「受取人負担」になっている
  • 昔の“集金文化”の名残がある

とくに集金文化が根強かった業界では、「受領者(売手側)が手数料を負担するのが当然」とされる認識が残っているケースも見受けられます。


こうしたモヤモヤやトラブルを防ぐには、契約書で明確に「振込手数料の負担者」を記載しておくのが基本です。

<条文例:支払者負担>

本契約に基づく支払に係る振込手数料は、支払者の負担とする。

<条文例:受領者負担>

本契約に基づく支払に係る振込手数料は、受領者の負担とする。

契約書に明記がない場合は、上記の民法の原則に従い「支払者負担」と判断されます。
想定と異なる負担を避けるためにも、明記が望ましいのです。


契約書だけでなく、請求書の備考欄や、事前のメール・チャットなどでも一言添えておくと安心です。

<請求書記載例>

※振込手数料は貴社ご負担にてお願いいたします。

<メール文例>

念のためですが、振込手数料は貴社ご負担でよろしいでしょうか?

こうした「丁寧な合意の積み重ね」が、後のトラブル防止になります。


振込手数料について、法律上は「支払者が負担する」のが原則です。
しかし、慣習や業界の“空気”に基づいて、
「当然に受領者が負担するもの」と誤解されがちな項目でもあります。

だからこそ、

  • 契約書にルールを明記する
  • 請求書や業務連絡でも確認する
  • 社内での運用ルールを統一する

この三段構えが、誠実でリスクの少ない契約実務につながります。


【追加情報】フリーランス保護法(2024年)・取適法(2026年)と振込手数料の考え方

※2026年1月7日追記

近年、発注側と受注側の力関係を背景とした
不合理な取引慣行を見直す動きが進んでいます。

その流れの中で、
振込手数料を受注側に負担させる行為についても、
法的な考え方が大きく変わりつつあります。

フリーランス保護法(2024年11月施行)

2024年11月から施行された
フリーランス保護法は、
主にフリーランス(個人事業主等)との取引を対象に、
発注側による不当な条件の押し付けを防ぐことを目的としています。

この法律では、
報酬の減額や、不利益となる取引条件の設定について、
契約書の記載といった形式だけでなく、実質的な影響が重視されます。

そのため、
報酬から振込手数料を差し引くといった行為についても、
実質的に報酬を減額していると評価される場合には、
問題となる可能性があります。

中小受託取引適正化法(取適法/2026年1月施行)

さらに、2026年1月1日からは、
中小受託取引適正化法(いわゆる取適法/改正下請法)が施行されています。

この法律では、
発注事業者が振込手数料を中小受託事業者に負担させ、
代金から差し引く行為が、合意の有無にかかわらず明確に禁止されます。

共通する考え方(重要)

フリーランス保護法と取適法は、
対象となる取引や施行時期は異なりますが、
共通している考え方は同じです。

それは、

「契約書に書いてあるかどうか」ではなく、
立場の強い側が、実質的な減額や負担転嫁をしていないか

という視点です。

今後は、
「合意しているから大丈夫」
「これまで問題にならなかったから大丈夫」
という理由だけでは、
正当化できないケースが増えていくと考えられます。

振込手数料の扱いについても、
契約書の文言だけでなく、現在の法制度に適合しているか
という観点で、あらためて確認しておくことが重要です。

※具体的な適用の可否は、取引内容や当事者の規模等によって判断されます。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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