契約書

タイトルに惑わされない!「覚書」「契約書」「仮発注書」の正しい理解

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)/ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

契約実務の場では、「契約書」「覚書」「協定書」など、さまざまなタイトルの文書を目にします。
また、「仮契約書」や「仮発注書」といったタイトルの文書もしばしば登場します。

こうした文書のタイトルによって、効力に違いがあると思われがちですが、実際には契約としての効力は、タイトルではなく中身と合意の有無によって決まるのです。

この記事では、タイトルに惑わされないための基礎知識と、実務で役立つ覚書の雛形もあわせてご紹介します。

「契約書が一番正式で、覚書はサブ的なもの」といったイメージを持たれている方も多いですが、契約書・覚書・協定書の間に法的効力の優劣はありません

これらはすべて、当事者間の合意を文書化したものであり、署名や押印があれば、同等の効力を持つ契約文書です。

✔ 例:どのタイトルでも効力は同じ

たとえば次のような内容が書かれた文書があるとします。

A社は、B社に対し、報酬20万円(税込)でWebサイトの制作を委託する。納品日は〇月〇日とする。

この文書のタイトルが「契約書」でも「覚書」でも「協定書」でも、
当事者が合意して署名していれば、法的には契約として成立しているとみなされます。

もうひとつよくある誤解が、「覚書というタイトルにすれば印紙を貼らなくてよいのでは?」というものです。

しかし、印紙税の判断はタイトルではなく中身で行われます。

✔ 内容が請負契約なら印紙が必要なことも

たとえば、具体的な報酬額が記載された請負契約の内容が書かれていれば、
それが「契約書」でも「覚書」でも、印紙を貼る必要があります(※2025年4月現在)。

タイトルを変えただけでは、印紙税の回避にはなりません。

税務調査で「印紙を貼るべき契約書類」と認定されると、最大で3倍の過怠税が課されることもあるため、十分に注意が必要です。

詳しくは、国税庁のホームページ内の「印紙税の手引」「印紙税額一覧表」をご参照ください。

契約は、「申込」と「承諾」によって成立します(民法522条)。
これは口頭であっても有効です。

しかし実務では、口約束だけではリスクが高いと言わざるを得ません。

✔ 人間の記憶は、意外とあいまいです

たとえば「3日前の昼食のメニュー」を、すぐに正確に思い出せるでしょうか?

多くの人は記憶が曖昧で、「たしかそんなことを言った(気がする)」というレベルになってしまいます。

このような記憶違いが、契約トラブルの原因になります。

だからこそ、ビジネスでは「記憶ではなく、記録で残す」ことが重要なのです。

覚書は、すでに締結された契約書に対して、

  • 内容の一部を変更したい
  • 条件を補足したい

といったときに、A4一枚程度で簡潔に合意内容をまとめられる形式としてよく使われます。

✔ 具体例:納期の変更を覚書で対応

たとえば、納品日が「10月31日」となっていた契約を、双方合意のうえで「11月7日」に変更する場合。

このようなケースでは、契約書をまるごと書き直さず、納期変更のみを記載した覚書を作成することで十分です。

「仮契約書」や「仮発注書」といったタイトルがついた文書は、一見すると「まだ正式ではない」と思われるかもしれませんが、内容次第では契約としての効力を持ちうるため注意が必要です。

✔ 認識のズレがトラブルを招く

たとえば発注側は「これは仮だからまだ正式ではない」と考えていたとしても、
受注側は「書面を受け取ったので準備に入ってよい」と解釈している可能性もあります。

こうした認識のズレが、ビジネス上の深刻なトラブルに発展するリスクがあるのです。

文書のタイトルに「仮」などの曖昧な表現を用いるのは避けましょう。

以下に、実務で使いやすい覚書の雛形をご用意しました。
Word形式で作成してありますので、契約変更の際にそのままカスタマイズしてご活用いただけます。

契約書・覚書・協定書など、文書のタイトルにとらわれるのではなく、
その中に書かれている内容が明確であること、合意が適切に記録されていることこそが重要です。

✔ 本記事のポイント

  • タイトルの違いで契約の効力に差はない
  • 印紙税の判断は「中身」で行われる
  • 合意内容は必ず文書で記録する
  • 覚書は、契約変更や補足を簡潔に残す手段として有効
  • 「仮契約書」等はトラブルを招きやすいため慎重に扱う

契約書類に関する疑問や不安がある場合は、お気軽にご相談ください。
貴社の実務に即した、バランスの取れた契約対応をご提案いたします。

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