※本記事は、実務でのご相談内容や取引環境の変化を踏まえ、
2025年12月31日に内容を見直し、実務視点で加筆修正した【2026年版】です。
ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.この契約書、理不尽だけど…ハンコを押すしかない?
- 2.「不合理でも有効」なのが契約書の怖さ
- 3.「よく分からないけど取引したいから…」は危険
- 4.対策① 契約条件を修正してもらう
- 5.対策② あえて「契約書を取り交わさない」
- 6.契約書を断った場合、その後どうなる?
- 7.「契約書に押さない勇気」も経営判断
1.この契約書、理不尽だけど…ハンコを押すしかない?
「相手(大企業であることが多い)から、取引開始にあたって契約書類一式が送られてきた。
ぱっと見、自社にとって不合理で理不尽なことが書いてある。
このままハンコを押しても(サインをしても)よいのだろうか?」
このようなご相談を、日々数多くいただきます。
読者の皆さんもよくご承知の通り、
契約書は一度ハンコを押したら、原則として絶対に守らなければならないものです。
仮に、契約書に書いてある内容を守れなかった場合、
その先に待っているのは 多額の損害賠償請求 というケースも珍しくありません。
ビジネス契約の世界では、
「自己責任」が徹底されているのが現実です。
2.「不合理でも有効」なのが契約書の怖さ
どんなに不合理で、理不尽な内容が書いてあったとしても、
当事者間で合意が成立していれば、その契約書は 有効な取引ルール になります。
いわゆる
「悪法も法なり」
という言葉が、まさに当てはまる世界です。
特に注意が必要なのが、
取引基本契約書 のような継続的取引のベースとなる契約書です。
(4,000円の印紙を貼る契約書、と言った方がイメージしやすいかもしれません)
この種の契約書は、
一度締結してしまうと 内容を見直すことが極めて困難 で、
その不利な条件が 長期間にわたって経営に影響 することになります。
だからこそ、
ハンコを押す前の判断が決定的に重要なのです。
3.「よく分からないけど取引したいから…」は危険
起業されたばかりの方や、契約書に不慣れな方ほど、
- 相手が大企業だから逆らえない
- 取引を逃したくない
- ここで揉めるのは面倒
といった心理から、
内容を十分に理解しないままハンコを押してしまうケースが後を絶ちません。
そして後になって、
「こんな条件だとは思わなかった」
「こんな責任まで負うとは知らなかった」
と後悔することになります。
しかし残念ながら、
契約書の世界では「知らなかった」は通用しません。
4.対策① 契約条件を修正してもらう
不合理で理不尽な内容の契約書に対する、
最初に検討すべき王道の対策は、
相手と交渉して、
契約書の内容を修正・変更・削除してもらう
という方法です。
もっとも、契約交渉の実務では、
先に契約書を出した側が圧倒的に有利です。
相手から提示された契約書に対して、
後から修正を求めるのは簡単ではありません。
それでも、
何もせずにハンコを押すことだけは避けるべきです。
交渉に臨む際のポイントとしては、次の点が挙げられます。
- 修正理由と修正案を明確に示す
- 書面で「公式ルート」により申し入れる
(原則:当社代表者 → 相手方代表者)
仮に相手から
「当社雛形からの変更は一切できない」
と門前払いされても、そこで諦めないでください。
特に大企業の場合、
単に 担当者が法務部(本社)に確認するのが面倒 という理由で
断っているケースも少なくありません。
雛形自体が変更不可であっても、
- 変更覚書を付す
- 特約条項として実質的に調整する
といった形で、
実務的な落としどころが見つかることも多いのです。
5.対策② あえて「契約書を取り交わさない」
やや逆説的ですが、
極めて有力な対策として、
不合理で理不尽な契約書には、そもそもハンコを押さない
=契約書を取り交わさない
という選択肢もあります。
これは、法律の大原則である
「契約自由の原則」 に基づく判断です。
契約自由の原則とは
契約をするかどうか、
誰と契約するか、
どんな内容で契約するか――
これらは原則として 当事者の自由 に委ねられています。
つまり、
契約書の締結自体を断る自由もあるということです。
「困ったときは原理原則に帰れ」
大学時代の民事訴訟法の先生の言葉ですが、
まさにこの場面に当てはまります。
6.契約書を断った場合、その後どうなる?
契約書を取り交わさなかった場合、
万一トラブルが生じたときは、
最終的に 民法や商慣習 に基づいて解決されることになります。
法律のルールは、
ビジネス的にはやや「八方美人」ですが、
その分 極端に一方当事者に不利になることは少ない のも事実です。
少なくとも、
理不尽な契約書にハンコを押してしまうよりは、
自社にとって はるかに安全 なケースもあります。
もし相手から
「何らかの契約書がないと取引できない」
と言われた場合には、
- 注文書
- 注文請書
といった スポット契約 による対応を提案することも、
十分に検討に値します。
7.「契約書に押さない勇気」も経営判断
契約書は、
単なる事務手続きではありません。
それは、
経営に直接影響する取引ルールそのものです。
- 修正交渉をする
- 覚書で調整する
- あえて契約を断る
どの選択肢を取るにせよ、
何も考えずにハンコを押すことだけは避ける
これが、
しなくてもよい後悔を避けるための、最も重要なポイントです。

【音声解説】
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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