ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
12月の声が聞こえはじめると、あちこちの現場で、こんな声が聞こえてきます。
「年末進行なので、今月だけ10日納品でお願いします!」
でも契約書には、しっかり「毎月15日までに納品」と書いてある。
それを“慣例”で前倒ししていいのでしょうか?
そして、もし応じた場合に追加費用を請求できるのでしょうか?
この記事では、「年末進行あるある」を題材に、
納期変更に関する契約の基本原則と、
不当な前倒し要求が生じたときの注意点を整理します。
2.契約上の納期は「合意なく変更できない」
契約書に「毎月15日までに納品」と定めている場合、
15日までに納品すれば契約上の義務は果たしたことになります。
「年末進行だから」「印刷所が混むから」といった事情は、
あくまで発注側の社内都合。
一方的に納期を前倒しすることはできません。
納期を変更する場合は、当事者双方の合意が必要であり、
その合意をきちんと記録(メール・書面)として残すことが重要です。
3.年末進行での前倒しは「双方の合意」が前提
もちろん、発注側と受託側が合意していれば、
納期を早めること自体は有効です。
ただし、短縮によって休日稼働や人員調整など
追加の負担が発生する場合は、報酬の見直しが必要です。
このときに有効なのが、契約書にあらかじめ
「特別対応費用」の考え方を組み込んでおくこと。
臨時対応の際も、条件を明確に協議できるようになります。
4.合意時に定めておきたい「特別対応費用」条項
以下は、実務で活用できる契約書モデル条文です。
(報酬や業務実施に関する章に挿入可能)
(特別対応費用)
1.乙は、甲の要請により、通常の納期を短縮して業務を遂行する場合、または通常の実施に比して特別の対応を要する場合には、その内容および負担の程度に応じて、特別対応費用(以下「特別対応費」という。)を甲に請求することができる。
2.前項の特別対応費については、当該要請時に甲乙協議のうえ決定し、電子メールその他、記録として確認可能な手段による意思表示をもって合意とする。
3.特別対応費の支払時期および方法は、本件業務に係る報酬の支払条件に準じるものとする。
4.甲が乙に対し、事前の合意なく一方的に納期短縮や追加対応を求めた場合、乙はこれに応じる義務を負わず、これを理由として契約不履行の責任を問われないものとする。
このようにしておけば、
「短縮するなら協議し、合意したうえで費用を設定する」という流れが明文化され、
双方の立場を守ることができます。
5.一方的な要求が問題となるケース
発注元が立場を利用して、
「早めて」「費用は出せない」と求めるようなケースでは、
取引の公正を欠く行為として法令上問題になることがあります。
特に、受注側の立場が弱い場合には、
一方的な変更が“優越的地位の濫用”として問題となるケースもあるため注意が必要です。
契約は“力関係”ではなく、“合意関係”で動くもの。
どちらの立場でも、誠実な協議と記録の残し方が求められます。
6.実務で押さえたい3つのポイント
- 契約どおりの納期を原則に。
年末進行などの事情は例外であり、変更には合意が必要。 - 変更は必ず「記録」に残す。
メールや書面で、変更条件や特別対応費を明確にする。 - 特別対応費用のルールをあらかじめ契約に。
臨時対応や短納期にも柔軟に対応できる体制を整える。
7. まとめ
「年末進行だから」は魔法の言葉ではありません。
契約は“慣例”ではなく、“合意”で動くもの。
納期短縮の要請を受けたら、
まず「対応できるかどうか」を確認し、
必要に応じて特別対応費用を協議・合意できる仕組みを整えておきましょう。

【音声解説】
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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