ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに:「条文番号ズレてますよ」と言われたら?
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
契約書を見直していて、こんなことに気づいたことはありませんか?
「第11条が2回出てくる…?」
「第14条が飛んでる?でも内容はある…」
「第9条って、見出しと中身が合ってないような…?」
契約書の条文番号のズレや重複、飛び番号は、ついうっかり発生してしまうミスです。
一見すると大した問題ではなさそうに見えるかもしれませんが、こうしたズレがもたらす影響は意外に大きいものです。
今回は、「条文番号がズレている契約書って、有効なの?」「放っておいて大丈夫?」と不安に思った方に向けて、
有効性の考え方と実務上のリスク、そして対応策を、具体例とともにわかりやすく解説します。
条文番号がズレていても契約は有効?
結論から言えば、条文番号がズレているだけで契約全体が無効になることは、原則としてありません。
以下のようなケースでも、契約内容が明確で当事者の意思の合致がある限り、契約としての効力は通常認められます。
✅【条文番号が重複している例】
第10条(契約期間)
本契約の有効期間は、2025年4月1日から2026年3月31日までとする。
第11条(支払条件)
甲は、乙が納品および検収を完了した後、30日以内に乙に対し所定の代金を支払うものとする。
第11条(納品方法)
乙は、本契約に基づく成果物をPDF形式にて作成し、甲の指定する電子メールアドレス宛に納品するものとする。
✅【番号が飛んでいる例】
第12条(再委託)
乙は、甲の事前の書面による承諾を得た場合を除き、本契約に基づく業務の全部または一部を第三者に再委託してはならない。
第14条(契約解除)
甲または乙は、相手方が本契約の条項に重大な違反をし、相当の期間を定めた催告にもかかわらず当該違反が是正されない場合、本契約を解除できるものとする。
✅【見出しと中身が不一致な例】
第9条(契約期間)
甲は、乙に対し、業務委託料として月額30万円(消費税別)を支払うものとする。
これらのようなミスがあっても、「誰が何をどうする」という合意が明確である限り、契約は原則として有効となるケースが多数です。
ただし、条文の意味が不明確になる、または参照先の整合性が取れなくなる場合は、当該条項の効力自体が否定されてしまうリスクが発生することに注意が必要です。
契約書は「読めればいい」ものではなく、「誰が読んでも間違いなく意図が伝わる」ものである必要があります。
ズレによる3つのリスク
① 社内外の誤解を招く
条文番号が正しくないと、社内外での参照がズレてしまい、思わぬ意思疎通ミスにつながります。
「第11条の納品条件」と言っていたつもりが、相手は「支払条件」と誤認していた──という事態も起こり得ます。
② 信頼を損なう
契約書は、対外的なビジネス文書として、パンフレットと並ぶ“対外的な会社の顔”です。
条番号のズレや見出しの不整合は、「他の業務もいい加減なのでは?」という不信感につながるおそれがあります。
③ 存続させたい条項が存続しなくなる
【例:存続条項のミス】
第20条(存続条項)
本契約終了後も、第12条(秘密保持)および第18条(個人情報の取扱い)の規定は効力を有する。
→ 実際には、秘密保持が第13条、個人情報が第19条だった場合、存続させたい義務が不明確になり、効力が否定される可能性があります。
なぜ起きる?条文番号のズレの原因
- 過去の契約書のコピー&ペーストによる修正漏れ
- Wordの自動番号機能の誤作動
- 条項の挿入・削除後に全体構成を確認しないまま確定
条番号のズレは「軽微なミス」に見えて、後からその契約書を読む第三者(裁判所・税務署・監査担当など)にとっては重大な誤認リスクにもつながってしまう恐れがあります。
ズレを見つけたときの実務対応【3つの方法】
✅ ① 軽微なミス → 訂正印で修正(紙契約)
誤記が明らかで、契約の趣旨に影響しない場合は、
二重線+訂正印での修正により有効性を維持できます。
✅ ② 電子契約 → 差替え or 注記で対応
- 差替え可能なサービスなら、新バージョンで再締結
- 差替え不可なら、別途注記文や訂正合意をクラウド上に保存
どちらにしても「訂正の意図を証拠として残す」ことが重要です。
✅ ③ 構成の見直しが必要な場合 → 訂正合意書 or 再締結
複数条項にわたる修正や、参照関係が崩れるようなズレについては、
- 正式な「訂正合意書」を作成して補正する
- または、新たな構成で「契約書自体を再締結する」
いずれかの手続を踏むことで、トラブル時にも法的に主張できる状態を確保できます。
ズレを防ぐために今すぐできること【3つの工夫】
✅ ① 「条文構成表」を先に作る
以下のような一覧を作ってから契約書を起案するだけでも、飛び番や重複はかなり防げます。
条番号 | 見出し | 概要 |
---|---|---|
第1条 | 定義 | 用語の定義・略語の説明 |
第5条 | 報酬と支払 | 金額・支払サイト・振込方法など |
第9条 | 契約解除 | 中途解約や違反対応 |
✅ ② Wordのアウトライン機能+ナビゲーションを活用
- 「見出しスタイル」で各条文を整える
- ナビゲーションで条文の順序・重複・抜けを一目で把握
→ Wordであっても契約書を“構造的に管理”することが可能です。
✅ ③ 修正時は「見出し・本文・参照」の3点をセットで見直す
条文を1つ修正したら、関連する他条項への影響を確認する習慣を。
とくに準用条項・存続条項・参照文言は、1文字のズレで内容が崩れます。
おわりに:条文番号のズレ=信頼のズレ
契約書は、単に当事者間で通じていればいい文書ではありません。
第三者にとっても明確に解釈できる構造であることが求められます。
条文番号のズレは、トラブル・誤解・責任問題の引き金になります。
ほんの小さな数字の違いも、読み手の信頼と契約の実効性に直結する要素です。
ぜひ、条文の構成まで丁寧に仕上げた「信頼される契約書作り」を心がけてください。
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