ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに:「契約書はトラブル予防のためのもの」だけではない
- 2. 取引基本契約書とは?その本質的な目的
- 3. なぜ「普通の取引」を守る必要があるのか?
- 4. 契約書は「経営の現場」と結びついてこそ意味がある
- 5. 「サビ」がどこにあるか?専門家と経営者で見方は異なる
- 6. 与信管理や“別枠契約”で、リスク対策を分けて考える
- 7. まとめ:取引基本契約書は、会社の“通常運転”を守るための道具
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに:「契約書はトラブル予防のためのもの」だけではない
「契約書」という言葉から、皆さんはどんなイメージを持たれるでしょうか?
おそらく多くの方が、
「万が一のトラブルに備えて、証拠として作るもの」というイメージをお持ちかもしれません。
たしかに、損害賠償や契約不適合責任などの条項は、
相手との間に紛争が起きたときに重要な役割を果たします。
しかし、実務の現場で契約書に期待されている役割は、それだけではありません。
むしろ、企業活動の大部分を占めるのは、「何も起きない9割の普通の取引」です。
取引先から注文が入り、納品し、検収が行われ、期日に入金される——
こうした当たり前の流れを、滞りなく、安定的に回していくことこそ、
契約書に求められている“本来の機能”なのです。
そして、とりわけその役割を担っているのが「取引基本契約書」です。
2. 取引基本契約書とは?その本質的な目的
取引基本契約書とは、個別の注文ごとに契約書を締結するのではなく、
あらかじめ「共通ルール」を定めておくための契約書です。
いわば、企業間取引における“共通の交通ルール”のようなもの。
「注文書をもらったらどう動くか」
「請求書はどのタイミングで出すのか」
「検収は何日以内に行うのか」
など、
個別案件に共通する“枠組み”を整理・統一するために使われます。
そのため、取引基本契約書がしっかり整っていると、
現場の実務担当者が安心して“日常業務”を回すことができるのです。
3. なぜ「普通の取引」を守る必要があるのか?
多くの方が、契約書を「紛争対策のため」と捉えがちです。
もちろんそれも重要な役割ですが、実際に紛争に発展する案件は、
取引全体の1割未満であることがほとんどかと思われます
(紛争案件ばかりではそもそもの企業活動がおぼつかなくなってしまいます)。
つまり、企業が日々繰り返しているのは「当たり前の取引」。
この“当たり前”が、会社のキャッシュフローや業務フローの安定を支えているわけです。
だからこそ、契約書は「異常な事態に備えるもの」ではなく、
「通常運転を確実に完遂させるためのもの」として設計される必要があります。
たとえばこんな相談を受けたことがあります。
「契約書の“損害賠償条項”は立派なのに、発注の流れや請求書の取り扱いが曖昧で、現場が混乱しているんです」
これは本末転倒です。
現場が安心して日常業務を回せることこそ、契約書の価値なのです。
4. 契約書は「経営の現場」と結びついてこそ意味がある
セミナーや契約書作成業務で「契約書は経営の道具です」とお話しすると、驚かれることがあります。
でもこれは、現場で契約書を見ていると、自然と感じることなのです。
たとえば以下のような論点は、契約書という“法的文書”でありながら、経営判断と密接に関わっています。
◉ どんな相手を想定して契約書を作るか?
マーケティング戦略と同じです。
誰と取引をしたいのか、その“ペルソナ”が契約書に反映されます。
◉ 支払条件や納品の形式は?
財務・会計・オペレーション全体に関わります。
「月末締め翌月25日払い」なのか「納品日から30日以内払い」なのかで、
キャッシュフローのリズムが変わってきます。
◉ 契約不適合・損害賠償・違約金
これらは法的リスクの問題だけでなく、
「会社がどこまでの責任を負う覚悟があるか」という経営判断そのものです。
このように、契約書は“法務部門だけで完結する文書”ではなく、
経営・財務・営業・現場とすべてつながる“会社の設計図”の一部なのです。
5. 「サビ」がどこにあるか?専門家と経営者で見方は異なる
私たち法律の専門家が契約書を見るとき、
どうしても「契約不適合責任」「損害賠償」「解除条項」などに目が行きがちです。
いわば、「法的なサビ=見せ場」としてそこを重視してしまいます。
しかし、実際の経営現場では、それ以前のプロセス——
「発注から納品、検収、請求、入金」の一連の流れが正しく設計されているかどうか、こそが“サビ”なのです。
つまり、どこを「中心」として設計するかの視点が違うのです。
そのギャップを埋めることが、実務で使える契約書づくりには不可欠です。
6. 与信管理や“別枠契約”で、リスク対策を分けて考える
「契約書にいろいろ盛り込まないと危ない」と考えると、
何でもかんでも1つの契約書で処理しようとしてしまいがちです。
ですが、日常的な「普通の取引」用の契約書と、リスクが高い相手向けの契約書は分けて考えることが現実的です。
たとえば:
- 新規の相手先で不安がある場合は与信調査を実施
- 必要に応じて、前金払いや保証を義務付ける「別紙契約書」で対応
- 特殊条件を付ける場合は、覚書や個別契約で設計
こうすることで、取引基本契約書はシンプルかつ実用的に保たれ、
“いつも通りの取引”に最適な設計が維持されるのです。
7. まとめ:取引基本契約書は、会社の“通常運転”を守るための道具
取引基本契約書を作るとき、つい「いざという時のために」と考えてしまうかもしれません。
でも、その発想だけでは、実際の業務や経営にはフィットしません。
✅ 契約書は「9割の普通の取引を粛々と終える」ためにこそ必要
✅ 経営方針・会計・現場オペレーションと一体で設計すべき
✅ 紛争対応はもとより、日常業務を止めない仕組みづくりの観点から条件設定していくことが大事
そんな視点で、契約書=経営ツールとして見直してみてはいかがでしょうか。
「トラブル防止」だけでなく、「事業継続のための設計図」としての契約書の可能性を、
ぜひ再確認していただきたいと思います。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
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