ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. 契約は金額の大小に関わらず成立する
- 3. 実務での判断基準
- 4. 会社ごとに違う“痛い金額”
- 5. 資産計上を一つの目安に
- 6. 少額でも契約書が必要な5つのケース
- 7. 契約書を作るときの工夫
- 8. まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
「この金額なら契約書まではいらないよね」
そう思って取引を始めたら、後で思わぬトラブルに発展――。
契約書は「大きな金額の取引」だけに必要なものと思われがちです。
しかし、少額でも契約書が重要な場面は少なくありません。
今回の「契約書のトリセツ」では、契約書ってどのくらいの金額からの必要?という素朴な疑問について深掘り解説します。
2. 契約は金額の大小に関わらず成立する
まず押さえておきたいのは、契約は金額の多寡に関係なく成立するということです。
1,000円のやり取りでも1億円のやり取りでも、法律上は同じ「契約」。
契約書は、その内容を明文化して後日の証拠やトラブル防止の役割を果たします。
だからこそ、少額取引であっても状況によっては必要なのです。
3. 実務での判断基準
では、なぜ「金額」で区切る発想が出てくるのか?
それは、リスクの大きさと直結するからです。
- 数千円:万一回収不能でも「授業料」と割り切れる
- 数十万円:痛い出費。損益に響く
- 数百万円以上:資金繰りに大きな影響。訴訟リスクも
つまり、「損したら取り返せない」と感じる金額からは、契約書を残すべきなのです。
4. 会社ごとに違う“痛い金額”
ここで大事なのが――
「痛い金額」は企業によって異なる、という点です。
- 個人事業主やスタートアップにとっては 10万円でも致命傷
- 中堅企業なら 100万円以上から意識
- 大企業なら 1,000万円単位で初めて“問題”と捉える
要は、自社にとって「どこからが痛いか」をよく検討することが重要なのです。
5. 資産計上を一つの目安に
もう一つの客観的な基準が、会計処理で資産計上するかどうかです(以下については原則的なルールを記載しております。特例も含め詳細は国税庁のホームページ等をご参照ください)。
- 10万円未満 → その年の経費にできる
- 10万~20万円未満 → 「一括償却資産」として3年で均等に費用化
- 20万円以上 → 固定資産として資産計上し、耐用年数に応じて減価償却
このルールを踏まえると、おおよそ10万円を超えたあたりから資産扱いを意識する金額帯に入ります。
ここは「契約書を作って条件を残す」一つの目安にもなります。
6. 少額でも契約書が必要な5つのケース
(1)継続的な取引
- 月額5,000円のWebサイト保守
- 月1回の清掃サービス委託
金額は小さくても「毎月積み重なる」と大きな収入or支出になります。
解約条件や業務範囲を明確にしないと、思わぬ摩擦が生じやすい取引です。
(2)ノウハウ・知的財産が絡む取引
- ロゴ制作(1万円)
- イラスト制作(数千円)
- Web記事ライティング
著作権や利用権の帰属が不明確だと、後から「勝手に使われた」「二次利用できない」などの紛争に発展する恐れがあります。
(3)信頼関係が浅い相手との取引
- SNS運用代行(月1万円)
- 知人紹介でのスポット業務
少額でも、相手と十分な関係が築けていない場合は、食い違いが起こりやすいもの。
「そんなつもりじゃなかった」を防ぐには、契約書が安心材料になります。
(4)法律上の責任が大きい仕事
- 講演依頼の謝礼(2万円程度)
- 通訳・翻訳業務
少額でも「秘密保持」や「成果物の範囲」といった法的リスクを伴うケースがあります。
万一の責任を明確にするため、契約書が必要です。
(5)将来の追加取引が見込まれる場合
- 最初は試験的に1万円の注文
- のちに数十万円、数百万円規模へ拡大予定
小さな金額から始まる取引ほど、後で条件を見直すときに「ベース契約書」があるかどうかで大きな違いが出ます。
7. 契約書を作るときの工夫
「少額取引なのに、本格的な契約書は大げさでは?」と感じる方もおられるかもしれません。
そんなときは、簡易な合意書や覚書という形でも十分です。
- 契約書は1~2枚でコンパクトにまとめる
- 契約条項は「業務範囲」「報酬」「期間」「解約条件」など最低限に絞る
- 電子契約サービスを活用して手間を減らす
金額に見合った負担感で「証拠を残すこと」が大切です。
8. まとめ
契約書が必要かどうかは――
💡「取りっぱぐれると痛い金額」+「争いになると困る要素があるか」
そしてその「痛さ」の基準は会社ごとに違います。
さらに、資産計上(特に20万円以上)は客観的な目安になります。
加えて、少額でも
- 継続的な取引
- 知的財産が絡む取引
- 信頼関係が浅い相手との取引
- 法律上の責任が大きい仕事
- 将来拡大する可能性がある取引
こうした場合には、契約書を用意する価値が十分にあります。
契約書は単なる形式ではなく、取引の安全装置。
「金額が小さいから大丈夫」と油断せず、ぜひ一度、自社にとっての「痛い金額」と「必要なケース」を考えてみてください。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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