ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約の前に、まずは合意形成のスキルを磨くところから──契約書は「合意できた結果」にすぎないという視点

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


ビジネスの現場では、
「契約書はちゃんと作っておきましょうね」というアドバイスをよく耳にします。
もちろん、それは正しい指摘です。
契約書は大切な証拠であり、合意を“見える化”するための重要なツールです。

私自身、契約書を専門に扱ってきた立場として、その価値はよく理解しています。

…ですが、だからこそ、声を大にしてお伝えしたいことがあります。

契約書を作る前に、もっと大切なことがある。

そう聞くと「え、契約書の専門家がそんなことを?」と思われるかもしれません。
でも、それは20年以上も契約の現場に身を置くからこそ得た結論なのです。

それは──
「ちゃんと合意形成ができているかどうか」です。

どんなに形式的に整った契約書を作っても、
お互いの価値観や優先順位、納得感がかみ合っていなければ、
現場ではうまく機能しません。

むしろ、「合意できていないことを、無理やり契約書に押し込んだ状態」こそが、
あとから大きな火種になってしまうこともあるのです。


実際のトラブルの多くは、こういうものです。

  • 「そんなこと聞いていない」
  • 「言ったはずだと思っていた」
  • 「まあ、そういう意味だと“思ってた”んだけど…」

つまり、「書面がなかったから」ではなく、
お互いの合意形成が不十分なままスタートしてしまったことに問題があるのです。

形式的なサインだけで合意が成立するわけではありません。
本当の意味で「わかりあう」ことがなければ、契約書はただの紙になってしまいます。


「合意形成」と聞くと、つい「交渉術」「伝え方」など、外向きのスキルに目が向きます。
でも本当に大事なのは、もっと手前にあること。

それは、「自分が何を大事にしたいのか」を知ることです。

  • 何を優先したい?(価格?品質?スピード?)
  • どんな条件なら納得できる?
  • どこまでならリスクを許容できる?

この“自分との対話”ができていないと、相手との交渉でも主張がブレやすくなります。
そして、結果的に「言った/言わない」の原因にもなってしまうのです。


「そんなことを言ったら、角が立つんじゃないか」
「自己主張が強いと思われそうで不安」

そんな気持ち、よくわかります。
でも私は声を大にして言いたいことがあります。それは…

自分の価値観を伝えることは、わがままではなく“誠実さ”です。

たとえば──

  • 「品質重視なので、納期は少し長めでお願いしたい」
  • 「やりとりはすべてメールで記録を残したい」
  • 「不明点は早めに共有してほしい」

こういう話を最初にできる関係こそが、健全なビジネスパートナーシップです。
先に伝えることで、相手も安心して“本音”を出せる。
だからこそ、合意がスムーズになるのです。


ここで改めて、契約書の役割を整理しておきます。

契約書とは、
「事前にきちんと話し合い、合意できたことを形にする文書」です。

よく「契約書で守ってもらう」感覚を持たれる方がいますが、
契約書は魔法の盾ではありません。
合意がきちんとできているからこそ、契約書が機能する。

逆に、価値観のすり合わせを飛ばして作られた契約書は、
条文が曖昧だったり、実情とズレていたりして、
いざという時にかえって足かせになることもあります。


では、どうすれば合意形成の力を高められるのでしょうか?

実は特別なテクニックはいらないと思っています。
日常の中で、次のような習慣を意識するだけでも大きく変わります。

💬 1. 自分の「心地よさ・違和感」を日々言葉にしてみる

「こうされたらうれしい」「こうなるとストレス」など、日々の感情を言語化する練習を。

💬 2. 相手の言葉の背景を想像するクセを持つ

「この人は何を大切にしてるんだろう?」という視点で会話を聞いてみる。

💬 3. 話し合いでは、“確認”と“言語化”を惜しまない

「今のお話、こういう理解でいいですか?」と一言添えるだけで、認識のズレはぐっと減ります。


  • 契約書は、話し合いの“結果”を残すためのツール
  • 合意形成には、自己理解と対話の習慣が欠かせない
  • 自分の価値観を伝えることは、誠実な関係性の第一歩
  • 契約書だけ整えても、合意形成がなければ機能しない
  • だからこそ、「契約」の前に「合意形成のスキル」を育てよう

「言わなくてもわかってくれる」より、
「ちゃんと話せる関係」の方が、ずっとあたたかい。

契約って、ただルールを決めることじゃない。
“どう付き合っていくか”を丁寧に話し合うことがスタートラインなのです。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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