ビジネス法務

【契約書のトリセツ】法律に書いてなくても、契約で決めていい? “自由”の境界線

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


契約書の相談を受けていると、よくこんな質問をされます。

  • 「納品のやり直し回数って、法律に決まりありますか?」
  • 「業務連絡はチャット優先って書いていいんですか?」
  • 「担当者が変わったら連絡してほしいんですけど、これって契約で書いていいんですか?」

答えは――
「原則としてOK。でも“何でも書いていい”わけではありません」。

この記事では、契約自由の原則って何?という基本から、どこまで自由に契約内容を設計できるか、実務の現場で感じた“自由の境界線”について、一緒に考えてみましょう。


※本記事は主に「法人・個人事業主など事業者間のビジネス契約書(BtoB取引)」を対象としています。
消費者が関わる契約(例:BtoCサービス契約、利用規約など)では、消費者契約法や特定商取引法などの消費者保護法制が適用され、事業者による責任制限や免責条項が法令により当然に無効とされる場合があります。
たとえば、消費者契約法8条では「損害賠償の全部免除条項」は無効と明記されています。

✅ 民法第521条(契約の締結及び内容の自由)

①何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
②契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

つまり、契約を結ぶかどうかも、その中身も、基本的には自由というのが原則です。

ただしこの自由には、「法令の制限内」という明確な条件がついています。
すべての内容がそのまま有効になるわけではないということに注意が必要です。


ある業務委託契約で、「業務連絡はSlackなどのチャットを原則とし、電話は緊急時のみとする」と書いたらどうなるでしょうか。

当事者が対等な立場で合意していれば、原則として有効です。

特にIT業界などでは、業務効率やログ管理の観点から「連絡手段を限定したい」というニーズは高まっています。

※ただし、契約書に業務委託と書いてあっても、実態が“雇用に近い”と判断されると、労働法の適用対象となる可能性があります。

たとえばこんな条項、見たことありませんか?

「万が一トラブルが起きた場合、損害賠償の金額は契約金額の範囲内とする」
「損害賠償の上限は、月額費用の3か月分とする」

これは、契約書でよく使われる“損害賠償の上限(責任限定条項)”です。
果たして、こんなふうに「上限」を自由に決めてもいいのでしょうか?

答えは……
原則OK。でも“やりすぎ”はNGです。

上限設定のメリット

  • リスクの範囲が読めて安心
  • リスクの範囲が見える化されることで、通常では受けにくい取引にも踏み出しやすくなる
  • 想定外の巨額請求を防げる

“ビジネスの保険”のような役割を果たします。

ただし、無制限ではない!

▶ 消費者相手の契約

→ 消費者契約法により、「事業者の責任を全面的に免除する」条項は無効

▶ 故意・重過失がある場合

→ 「わざとやった」あるいは「明らかなミス」の場合、上限を設定していても免れられない可能性あり。

▶ 一方的な免責

→ 片方だけが損害賠償から逃げるような契約は、信義則違反(相手の信頼を裏切るようなやり方)として裁判で無効とされることも。

「プロジェクトの担当者が変わる場合は、事前に通知すること」

これは法律に書いてあるわけではありませんが――
契約で合意すれば、ちゃんと“義務”になります。

特に、IT開発、広告制作、コンサルなど「誰が担当するか」で成果が大きく変わる業務では、極めて実務的で重要な条項です。

契約書に書いてあるかないかで、“言った・言わない”に関するトラブル対応が大きく変わってきます。


契約の内容は原則として自由に決められますが、「それでもこれはダメ」というルールがあります。

法律の世界では、以下の3つが“契約自由の制約”とされています:

  • 強行法規:当事者の合意よりも優先される法律の定め。これに反する契約条項は無効です。
  • 公序良俗:社会のモラルや常識に反しないこと。常識から大きく外れる内容は契約として成立しません。
  • 著しい不公平・不合理:一方の当事者だけに極端な負担を強いるような契約は、裁判でも否定される可能性があります。

✅ たとえばこんな事例があります

▶ 暴力団関係者との契約が無効とされた例

反社会的勢力の関係者に店舗や住宅を貸す契約や、契約者名義を偽装して提供するような契約が、
「社会秩序に反する」として公序良俗違反により無効とされた判例があります。

→ 暴力団排除条項、反社条項が契約書に入れられるのは、こうした実務背景があるからです。


法律は“日本国内での共通ルール”ですが、現場の細かい実務まではカバーしてくれません。

  • 報告書の提出形式は?
  • 打ち合わせはオンラインor対面?
  • データの保存期間は?

こうした“細かいルール”を明確にしておくことで、無用な誤解やトラブルを減らすことができます。


契約書は、「現場でこうしておきたい」ということを言葉にできるツールです。

でもその自由設計には責任が伴います。

✅ 法律に反していないか?
✅ 社会的に妥当か?
✅ 相手とできるだけ対等な立場で合意できているか?

これらを常に意識しながら、自由設計をしていきましょう。


契約書は、取引実務を合理的・円滑に進めるために設計するツールです。
その設計の根拠となるのが、民法第521条に基づく「契約自由の原則」

つまり、取引の現場に合わせて自由にルールを定めることができます。
でもその自由は、法律を知らずに行使すると、むしろ危ない自由でもあります。

✅ 契約自由=責任ある自由

書いていい。
でも、書いた内容には責任を持つ必要があります

その責任とは、
まず「その内容を本当に守り切れるかどうか」
そして、万が一その内容が法律に反していた場合のリスクです。

  • 契約の無効というリスク
  • 損害賠償責任を負うリスク
  • 裁判での不利な評価を受けるリスク
  • 社会的信用の低下(取引停止・評判悪化など)のリスク

これらはすべて、現実の損失に直結する可能性があります。

契約自由の原則は、実務において非常に大きな力を与えてくれる反面、
その自由を使いこなすには、法的リスクへの理解と覚悟が求められます。

だからこそ私たちは、「自由に書ける」という事実と、
「書いた責任を負う」という現実の両方を、等しく見つめる必要があるのです。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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