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【契約書のトリセツ】“あって当然”の時代へ:暴力団排除条項、反社条項を契約書に入れる理由

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。

「暴力団排除条項(ぼうりょうだんはいじょじょうこう:暴排条項)」「反社条項(はんしゃじょうこう)」という言葉を聞いたことはありますか?

会社で契約書のやりとりをしていると、最近ではほとんどの契約書に出てくるようになった条文の一つです。
たとえば、こんなふうに書かれていたりします:

「相手方が暴力団などの反社会的勢力に関係していた場合には、契約を解除できるものとします。」

一見すると、自分たちの会社には関係なさそうな話に思えるかもしれません。
でも実は、この一文があるかないかで、会社の評判や信用に大きな差が出る時代になっています。

この記事では、「反社条項って何のためにあるの?」「入れないとどんな問題があるの?」という疑問に、できるだけやさしく、実際の業務にも使えるようにお答えしていきます。

まず押さえておきたいのは、とてもシンプルな事実です。

一度契約を交わしたら、原則として相手の同意なしには解除できません。

これは「契約は絶対に守るべき約束」という法律の基本に基づいています(この「大前提」が円滑なビジネスを支えています)。
ですから、たとえ後から「この相手、実は暴力団とつながっていたらしい…」とわかったとしても、契約書に「そういう場合には解除できます」と書いていなければ、解除は簡単ではありません。

つまり、「反社とわかったからすぐに契約を切れる」というのは、契約書にそう書いてあるからできることなのです。
それが「反社条項」のおおきな役割のひとつです。

ケース①:ニュースで相手の関係者が反社と報道された

ある企業が取引先としていた会社の代表者が、ニュースで「反社会的勢力との関係がある」と報道されました。
慌てて契約を解除しようとしたものの、契約書には反社条項が入っていませんでした。

外部専門家に相談すると「契約に解除の理由が書かれていないので、すぐにやめるのは難しい」と言われてしまい
その間にSNSでは「この会社、反社と取引していたらしい」と拡散。
取引先や顧客からの問い合わせも殺到し、信用が大きく傷ついてしまいました。

ケース②:仕入先に問題があり、小売店から契約解除された

ある中小メーカーが仕入先と長年取引していましたが、その仕入先の役員が反社関係者と関係していたと判明。
契約書に反社条項がなかったため、取引を切ることができず、関係を継続。

それを知った小売店から「御社の商品は仕入れられない」と言われ、自分たちが直接関係していないにもかかわらず契約を打ち切られてしまいました。

こうした事態を避けるために必要なのが、反社条項です。

契約書にきちんと反社条項が書かれていれば――

  • 相手が反社だったと判明したとき、契約書を根拠にすぐ解除できる
  • 取引先や顧客に対して「適切な対応をしました」と説明できる
  • 信用失墜の被害を最小限に抑えられる

つまり、反社条項は、いわば、信用を損なうリスク(レピュテーションリスク)から会社を守るための「非常ブレーキ」のようなものです。
最初から契約書にその非常ブレーキをつけておくことで、いざというときに安全に止まれるわけです。

ただし、反社条項はただ入っていればよいというものではありません。
実際に解除する場面で使えるようにするためには、きちんとした書き方で条文を入れる必要があります。

ここでご紹介するのが、警察庁や各都道府県警察が推奨している反社条項の例文です。

🔎参考:反社会的勢力排除条項の例

(暴力団等反社会的勢力の排除)
第○条
乙は、甲に対し、本件契約時において、乙(乙が法人の場合は、代表者、役員又は実質的に経営を支配する者。)が暴力団、暴力団員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団、その他反社会的勢力(以下「暴力団等反社会的勢力」という。)に該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないことを確約する。
2 乙は、甲が前項の該当性の判断のために調査を要すると判断した場合、その調査に協力し、これに必要と判断する資料を提出しなければならない。

(契約の解除等)
第○条
甲は、乙が暴力団等反社会的勢力に属すると判明した場合、催告をすることなく、本件契約を解除することができる。
2 甲が、前項の規定により、個別契約を解除した場合には、甲はこれによる乙の損害を賠償する責を負わない。
3 第1項の規定により甲が本契約を解除した場合には、乙は甲に対し違約金として金● ●円を払う。

🔗 詳しくはこちら:
大阪府警察「反社会的勢力排除条項の例」

「反社なんて関係ない世界で仕事しているし…」
「うちは昔からの取引先ばかりだから大丈夫」
――と思っていませんか?

でも、反社との関係は「自分で気づけないところ」で始まっていることもあります。

  • 取引先の代表者が途中で代わっていた
  • M&A(買収)で新しい会社に変わっていた
  • 関係会社の関係会社が問題だった

こんなケースでも、世間からは「取引していた会社が反社だった」と見られてしまうのです。

だからこそ、反社条項はどんな業界・どんな規模の会社にも必要な「身を守る備え」なのです。

契約書を扱うときに、以下のポイントをチェックしてみてください:

チェック項目内容
条文が入っているか?「反社会的勢力」「契約解除」といった文言があるか
定義が具体的か?暴力団、関係企業、利用などの範囲が書かれているか
解除の権利があるか?催告なく解除できることが明記されているか
損害賠償の記載があるか?契約解除にともなう責任が記されているか
雛形に組み込まれているか?契約書テンプレートに標準で含まれているか

ここまでのポイントをまとめます。

  • 契約書に反社条項がなければ、反社だとわかってもすぐに契約を解除できない
  • 反社条項は、万が一のときに会社を守る大切なブレーキ
  • 条文の内容が具体的で、解除や賠償の根拠になるように書かれていることが重要
  • 会社の規模や業種にかかわらず、誰でも巻き込まれるリスクがある
  • 総務や営業事務の担当者が「反社条項、入ってますか?」と気づけることが重要

反社条項は「最後の砦」です。
ふだんは使うことがないかもしれませんが、入っていないことで起こる損害は、会社全体にとって取り返しのつかないものになりかねません。

ぜひこの機会に、自社の契約書を確認してみてください。
わからないときは、外部の専門家に相談することも大切です。

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