ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2.契約上の納期は「合意なく変更できない」
- 3.年末進行での前倒しは「双方の合意」が前提
- 4.合意時に定めておきたい「特別対応費用」条項
- 5.一方的な要求が問題となるケース
- 6.実務で押さえたい3つのポイント
- 7. まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
12月の声が聞こえはじめると、あちこちの現場で、こんな声が聞こえてきます。
「年末進行なので、今月だけ10日納品でお願いします!」
でも契約書には、しっかり「毎月15日までに納品」と書いてある。
それを“慣例”で前倒ししていいのでしょうか?
そして、もし応じた場合に追加費用を請求できるのでしょうか?
この記事では、「年末進行あるある」を題材に、
納期変更に関する契約の基本原則と、
不当な前倒し要求が生じたときの注意点を整理します。
2.契約上の納期は「合意なく変更できない」
契約書に「毎月15日までに納品」と定めている場合、
15日までに納品すれば契約上の義務は果たしたことになります。
「年末進行だから」「印刷所が混むから」といった事情は、
あくまで発注側の社内都合。
一方的に納期を前倒しすることはできません。
納期を変更する場合は、当事者双方の合意が必要であり、
その合意をきちんと記録(メール・書面)として残すことが重要です。
3.年末進行での前倒しは「双方の合意」が前提
もちろん、発注側と受託側が合意していれば、
納期を早めること自体は有効です。
ただし、短縮によって休日稼働や人員調整など
追加の負担が発生する場合は、報酬の見直しが必要です。
このときに有効なのが、契約書にあらかじめ
「特別対応費用」の考え方を組み込んでおくこと。
臨時対応の際も、条件を明確に協議できるようになります。
4.合意時に定めておきたい「特別対応費用」条項
以下は、実務で活用できる契約書モデル条文です。
(報酬や業務実施に関する章に挿入可能)
(特別対応費用)
1.乙は、甲の要請により、通常の納期を短縮して業務を遂行する場合、または通常の実施に比して特別の対応を要する場合には、その内容および負担の程度に応じて、特別対応費用(以下「特別対応費」という。)を甲に請求することができる。
2.前項の特別対応費については、当該要請時に甲乙協議のうえ決定し、電子メールその他、記録として確認可能な手段による意思表示をもって合意とする。
3.特別対応費の支払時期および方法は、本件業務に係る報酬の支払条件に準じるものとする。
4.甲が乙に対し、事前の合意なく一方的に納期短縮や追加対応を求めた場合、乙はこれに応じる義務を負わず、これを理由として契約不履行の責任を問われないものとする。
このようにしておけば、
「短縮するなら協議し、合意したうえで費用を設定する」という流れが明文化され、
双方の立場を守ることができます。
5.一方的な要求が問題となるケース
発注元が立場を利用して、
「早めて」「費用は出せない」と求めるようなケースでは、
取引の公正を欠く行為として法令上問題になることがあります。
特に、受注側の立場が弱い場合には、
一方的な変更が“優越的地位の濫用”として問題となるケースもあるため注意が必要です。
契約は“力関係”ではなく、“合意関係”で動くもの。
どちらの立場でも、誠実な協議と記録の残し方が求められます。
6.実務で押さえたい3つのポイント
- 契約どおりの納期を原則に。
年末進行などの事情は例外であり、変更には合意が必要。 - 変更は必ず「記録」に残す。
メールや書面で、変更条件や特別対応費を明確にする。 - 特別対応費用のルールをあらかじめ契約に。
臨時対応や短納期にも柔軟に対応できる体制を整える。
7. まとめ
「年末進行だから」は魔法の言葉ではありません。
契約は“慣例”ではなく、“合意”で動くもの。
納期短縮の要請を受けたら、
まず「対応できるかどうか」を確認し、
必要に応じて特別対応費用を協議・合意できる仕組みを整えておきましょう。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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