ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. なぜ「今まで何とかなっていた」のに、急に契約書が必要になるのか?
- 2. 契約書が必要になる「4つのタイミング」
- ① 起業時・第二創業時
- ② 下請から元請になるとき
- ③ 大企業と取引を始めるとき
- ④ 他社とコラボ・業務提携をするとき
- 3. ネットの雛形に頼りすぎる危うさ
- 4. 専門家を使うべき「明確なタイミング」
- 5. 契約書は「成長の加速装置」
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. なぜ「今まで何とかなっていた」のに、急に契約書が必要になるのか?
ご相談の中で、中小ベンチャー企業の経営者の方からよく聞く言葉があります。
- 「今までは契約書なんてなくても問題なかった」
- 「急に必要になった気がする」
- 「トラブルが起きてから、必要性に気づいた」
ですが、これは
トラブルが原因ではありません。
契約書が必要になるのは、
会社のステージが一段上がったからです。
私は日々、契約書作成のご相談を受けていますが、
そのご相談が集中するタイミングには、はっきりとした共通点があります。
2. 契約書が必要になる「4つのタイミング」
中小ベンチャー企業で、特に契約書の重要性が高まるのは、次の4つの場面です。
1.起業時・第二創業時
2.下請から元請になるとき
3.大企業と取引を始めるとき
4.他社と共同で事業を行うとき(コラボ・業務提携)
これは言い換えると、
「会社のステージが上がる瞬間」です。
① 起業時・第二創業時
― 知人との「なんとなく」が、後に収益を圧迫する
起業時、新しいビジネスを始めるとき、
経営者の方は強い不安を抱えています。
- 法的なリスクが分からない
- 同業他社がどうやっているのか分からない
- 価格設定や支払い条件に自信がない
そのため、
「専門家の目線で、一般的なやり方を教えてほしい」
というご相談が非常に多いです。
実務でよくあるのが、
知人・紹介案件・信頼関係ベースで始めた取引。
「細かいことは決めなくていいよね」
「あとで何とかなるよね」
こうして始まった仕事が、
- 修正が何度も入る
- 追加作業が常態化する
- 支払いが後ろ倒しになる
それでも、最初に決めていないため強く言えない。
結果、
時間も労力も使ったのに、利益が残らない。
起業時・第二創業時の契約書は、
トラブル防止以上に、
「自分のビジネスを商品として成立させるための設計図」です。
② 下請から元請になるとき
― 1件のクレームが、会社の利益を吹き飛ばす
次に多いのが、
下請から元請へ立場が変わるタイミングです。
下請のときは、
- エンドユーザー対応
- 損害賠償
- クレーム処理
これらを、元請が引き受けてくれていました。
しかし、元請になると事情は一変します。
- 契約不適合責任
- 製造物責任(PL法)
といった責任が、直接自社に降りかかるのです。
売上は数十万円なのに、
万が一の賠償リスクは数百万円、数千万円。
このアンバランスを是正するために必要なのが、
- 責任範囲の明確化
- 損害賠償額の上限設定
つまり、
「どこまで法務的な責任を負うのか」を契約書で線引きすることです。
元請化とは、
売上を取る代わりに、責任も引き受けるということ。
だからこそ、契約書が生命線になります。
③ 大企業と取引を始めるとき
― 厳しいコンプラ条項を、信頼アピールに変える
大企業との取引では、ほぼ確実に契約書が出てきます。
- 情報セキュリティ
- 個人情報保護
- 反社会的勢力排除
いわゆる「コンプライアンス条項」がずらりと並びます。
ここでよくある誤解が、
「大企業の契約書だから安心だろう」
というもの。
実際には、
大企業の契約書ほど、大企業側に有利に作られています。
ただし、ここは悲観する場面ではありません。
中小ベンチャー企業側から契約書を提示することで、
- 契約・コンプライアンスを重視している会社
- 管理体制のある会社
として評価されるケースも多くあります。
たとえば、
「弊社の基準で作成したものですが、
御社の基準とすり合わせさせてください」
この一言があるだけで、
交渉の空気は大きく変わります。
契約書は、
大企業に対する“信頼の名刺”にもなり得るのですです。
④ 他社とコラボ・業務提携をするとき
― 「仲良し」で始めた事業が、利益配分でもめて終わる
コロナ禍以降、特に増えているのがこの相談です。
- コラボ事業
- 業務提携
- ゆるやかな協業
最も多いトラブルは、非常にシンプルです。
「利益の分け方を決めていなかった」
最初は関係良好でも、
お金が絡んだ瞬間に不満が表面化します。
だからこそ、
- 利益配分
- 役割分担
- 解消時のルール
を、関係が良好なうちに決めておく。
これが、業務提携契約書の最大の役割です。
3. ネットの雛形に頼りすぎる危うさ
この4つのタイミングで、必ず出てくるのが、
「ネットの雛形を使えば十分ですよね?」
という質問です。
雛形は便利です。
ですが、守ってくれるのは一般論まで。
- 自社独自の業務フロー
- キャッシュフローの事情
- 利益配分へのこだわり
こうした個別事情は、雛形では守れません。
ステージが上がる局面ほど、雛形の限界が露呈します。
4. 専門家を使うべき「明確なタイミング」
最後に、よく聞かれる質問です。
「いつ専門家に相談すべきでしょうか?」
すべての契約に、専門家を入れる必要はありません。
しかし、
今回お話しした4つの転換期だけは別です。
このタイミングで設計を誤ると、
後からの修正には10倍の労力がかかります。
ステージが上がる「今」こそ、
盤石な基盤を作る投資対効果が最も高い時期です。
5. 契約書は「成長の加速装置」
契約書は、
トラブル対応のための書類ではありません。
ビジネスの解像度を上げ、
次のステージへ進むための設計図です。
「そろそろ、今までのやり方では危ないかもしれない」
そう感じたときこそ、
契約書を見直す最適なタイミングなのだと思います。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
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