ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
「打合せって、請求に入れていいんですか?」
──そんな相談を受けること、よくあります。
たしかに、契約書や見積書には
“作業時間”しか書かれていないことが多いものです。
しかし、実際の仕事では、打合せ・調整・準備・報告といった“成果物のない時間”が
プロジェクト全体を支えています。
こうした「見えない時間」をきちんと契約に位置づけることが、
プロフェッショナルとして自分の働き方を守る第一歩です。
目次
- 「見えない時間」が報酬から漏れる理由
- 「関与時間」とは何か
- 「関与時間」を“本件業務”に含めるという発想
- 参考条文:付随業務を明示する一文
- 関与時間を見える化することで得られる3つの効果
- 実務に活かすポイント
- まとめ
1. 「見えない時間」が報酬から漏れる理由
契約書に書かれていない時間は、
報酬の対象外と見なされてしまうことがあります。
特に、業務委託や請負契約では、
「成果物を納めること」が報酬発生の条件になるため、
成果物のない時間――つまり、
打合せや調整、報告といった“関与時間”が
見積や契約の外に置かれがちです。
結果として、
- 打合せに何度も呼ばれても追加請求できない
- メール・チャット対応が膨大でも報酬は同じ
- 結果的に実質時給が下がる
という状況に陥りやすいのです。
2. 「関与時間」とは何か
本稿でいう「関与時間」とは、
打合せ・調整・報告・提案など、成果物の作成以外に費やす“作業以外の業務時間”を指します。
これらは一見「見えない」時間ですが、
契約履行の品質や信頼を支える大切な部分です。
実際には、こうした関与がなければ成果物の完成もあり得ません。
3. 「関与時間」を“本件業務”に含めるという発想
こうしたトラブルを防ぐには、
契約書に明確に「関与時間」を位置づけることが有効です。
ポイントは、
「本件業務に含める」という一文を入れること。
これにより、
成果物の作成以外の行為(打合せ、提案、調整、報告など)も
業務の一部であることを明確にできます。
この考え方は、
デザイン・IT開発・翻訳・コンサルティングなど、
多くの現場で一般化しつつあります。
4. 参考条文:付随業務を明示する一文
第○条(業務内容)
本業務には、打合せ、提案、調整、報告その他、
成果物の作成または本件業務の遂行に付随する一切の業務を含むものとし、
これらに要する時間および費用は、本契約の報酬に含まれるものとする。
この条文を入れることで、
打合せや調整を「契約外業務」と誤解されることを防ぎ、
報酬の範囲を明確にできます。
また、「費用も含む」と書くことで、
通信費・交通費などの扱いについても整理がしやすくなります。
5. 関与時間を見える化することで得られる3つの効果
① 見積単価の説得力が上がる
「なぜこの金額なのか」を説明する際、
関与時間を含めて提示することで納得を得やすくなります。
② 契約条件の交渉力が高まる
打合せや調整が多い案件では、
その時間を見える化することで単価交渉がスムーズになります。
③ 働き方の整理につながる
自分がどの業務にどれだけ時間をかけているかを可視化すると、
仕事のムダを減らし、案件のバランスを見直せます。
6. 実務に活かすポイント
- 見積書には「打合せ・調整・報告等を含む」と明記する
- 契約書には上記条文をそのまま盛り込む
- 案件管理では「作業時間+関与時間」を意識して記録する
こうした工夫により、
「作業を買ってもらう契約」から、
「関わり方を評価してもらう契約」へと
発想を転換できます。
契約は、取引ルールを決めるだけではなく、
働き方を支える設計図でもあります。
7. まとめ
成果物を作る時間だけが仕事ではありません。
考える時間、伝える時間、整える時間──
すべてが、プロフェッショナルの価値を支える「関与時間」です。
その価値をきちんと契約に残すことで、
「報酬の根拠」と「働き方の安心」を両立できます。
作業だけでなく、関わる時間にも価値がある。
それを守るのが、
“契約で働き方をデザインする”という発想です。
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