ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.その解除条項、読み飛ばしていませんか?
- 2.まずは原則:法律だけだと、すぐには切れません
- 3.“待つこと”がリスクになる場面
- 4.無催告解除条項の基本形
- 5.混同注意:「解除」と「解約」
- 6.解除したら終わり…ではありません
- 7.ひな形は、誰かの失敗の上にある
- 8.まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.その解除条項、読み飛ばしていませんか?
契約書の後ろの方。
だいたい残り3分の2くらいのところに出てくる条文があります。
「何らの催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる。」
いわゆる「無催告解除条項」です。
普通の契約書であれば、ほぼ必ず入っています。
だからこそ、つい流して読んでしまいがちです。
ですが私は、正直に言うと――
この条項こそ、契約実務における最大級の発明のひとつではないか、と思っています。
なぜか。
そこには、契約自由の原則を使いこなす“実務の知恵”が凝縮されているからです。
2.まずは原則:法律だけだと、すぐには切れません
契約書に解除条項がなかったらどうなるか。
そのときに適用されるのが、民法541条です。
内容をざっくり言えば、こうです。
- 相手が契約を守らない
- 相当の期間を定めて履行を催告する
- それでも履行しない
- そのときに初めて解除できる
つまり法律は、
「まずはチャンスを与えなさい」
と言っています。
これは公平ですし、理屈としても妥当です。
しかし――
ビジネスの現場では、この“相当期間”が悩ましいのです。
3.“待つこと”がリスクになる場面
例えば、
・取引先が支払停止になった
・破産手続の申立てがあった
・重大なコンプライアンス違反が判明した
・秘密情報が漏えいした疑いがある
こうした場面で、
「相当期間を定めて催告してください」
と言われたらどうでしょうか。
待っている間に、
・資産がなくなる
・債権が回収不能になる
・自社の信用が傷つく
・社内の人件費が積み上がる
という事態が起こり得ます。
つまり、
“待つこと”そのものがリスクになる。
そこで登場するのが、
「何らの催告を要せず」
という一文です。
これは乱暴な条文ではありません。
いわば、
ビジネスの緊急停止ボタンなのです。
4.無催告解除条項の基本形
実務でよく見かける条文は、次のような形です。
(解除)
甲および乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要せず、直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。① 支払停止または支払不能となったとき
② 破産手続開始、民事再生手続開始等の申立てがあったとき
③ 営業停止または許可取消処分を受けたとき
④ 本契約に重大な違反があったとき
ここで重要なのが「④重大な違反」です。
これを曖昧にしておくと、
いざというときに「重大かどうか」で揉めます。
ですから、
・秘密保持義務違反
・反社会的勢力条項違反
・無断再委託
などは、別条項で明確に位置づけておくと実務が安定します。
5.混同注意:「解除」と「解約」
実務でよく混ざっているのが、この2つです。
● 解除
相手に違反があるから、法的効果として契約関係を断ち切る。
● 解約(中途解約)
違反はないが、将来に向かって契約を終了させる。
例えば、
30日前に通知すれば解約できる
これは解約条項です。
一方で、
重大違反があれば直ちに解除できる
これは解除条項です。
出口が2種類ある。
ここを混ぜると、いざというときに迷いが生まれます。
しかし、この違いを理解しているだけで、判断は格段にクリアになります。
6.解除したら終わり…ではありません
解除条項は、「切る」ためだけの条文ではありません。
本当に重要なのは、
「どう終わらせるか」ではなく、
「どう終わらせた後を整理しておくか」です。
例えば、
■ 機密情報・データの返還
契約終了後、受領当事者は、相手方から受領した機密情報およびその複製物を、相手方の指示に従い返還または消去する。
■ 未払代金の処理
本契約終了時点までに発生した対価の支払義務は、終了後も消滅せず、支払期日に従い履行されるものとする。
■ 存続条項
第◯条(秘密保持)、第◯条(損害賠償)、第◯条(管轄)その他その性質上存続すべき条項は、本契約終了後も有効に存続するものとする。
■ 損害賠償との関係
本契約の解除は、損害賠償請求を妨げない。
解除はゴールではありません。
きれいに畳むための入口です。
ここまで書いて、初めて“使える契約書”になります。
7.ひな形は、誰かの失敗の上にある
私はよく思うのですが、
契約書のひな形というのは、
先人の失敗の集積です。
・催告期間中に破産された
・重大違反なのに切れなかった
・解除後の精算で紛争になった
そうした経験が抽象化されて、
今の条文になっています。
だからこそ、
「なぜこの条文があるのか」
と考えてみる。
そうすると、契約書は急に立体的に見えてきます。
条文の裏にある人間の失敗や知恵の積み重ねが感じられて、
読み物としても面白くなってくるのです。
8.まとめ
無催告解除条項は、
・契約自由の原則を使った上書きであり
・ビジネスの緊急停止装置であり
・出口設計の中核です。
契約書とは、
トラブルが起きた後に読む書類ではなく、
トラブルが起きたときに迷わないための設計図。
解除条項を読み流さず、
「この条文は、どの事故を止めるためのものか」
と一度立ち止まって考えてみてください。
そこから、契約実務の解像度が一段上がります。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
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