ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
職場とは別に、自分の好きやスキルを活かせる場所。社会人サークルでの創作活動は、そんな“もうひとつの居場所”として広がっています。
こんな経験はありませんか?
「動画、勝手に公開されてた…」 「ポートフォリオに載せるって、聞いてないよ?」 「“サークルの作品”なのに、なんで使っちゃいけないの?」
仲が良いからこそ起こりやすい、著作権のすれ違い。この記事では、社会人サークルにおける著作権について、“あらかじめ確認しておきたいこと”をやさしく整理してみます。
✅ 社会人サークルでよくある「著作権が関わる活動」まとめ(+注意点)
サークルの種類 | よくある活動内容 | 著作権のポイント&注意点 |
---|---|---|
🎥 映像制作・写真 | イベント撮影、動画編集、SNSやYouTube投稿 | 撮影・編集・音楽などの創作部分は分離可能な別著作物として、それぞれが著作権者になる可能性あり。 フリー素材は商用利用や改変OKか要確認。 |
🎤 音楽・バンド | 作詞作曲、アレンジ、演奏、ライブ活動 | 作詞・作曲・演奏はそれぞれ権利主体が異なる(著作権・著作隣接権)。 脱退メンバーの曲使用や再演には配慮が必要。 |
🖋 同人誌・広報 | 小説・コラム・イラスト・会報のPDFなど | テキストやイラストに各人の著作権が発生。 企業ロゴ・既存キャラの利用には別途許諾が必要な場合あり。 |
🎭 演劇・朗読 | 台本執筆、配役演技、公演活動など | 台本=著作権、演技=実演家の権利(著作隣接権)となる可能性あり。 録音・録画・配信は実演者全員の同意が望ましい。 |
🧑🍳 料理・DIY | オリジナルレシピ、マニュアル、手順書制作 | レシピそのものは保護対象外だが、文章・写真・構成に創作性があれば著作物となる。 素材利用時は出典や許諾に注意。 |
🧳 旅行記・写真集 | 旅行レポート、写真アルバムの公開や制作 | 写真は撮影者に著作権。文章にも創作性があれば著作権あり。 写り込んだ人物の肖像権にも配慮を。 |
※これらの権利関係は、活動内容や事前の合意(契約)の有無によって変わる場合があります。
「誰が、何を、どう使っていいのか」を記録に残すことが、トラブル予防の第一歩です。
著作権は、つくった瞬間に“その人のもの”になる
著作権は、著作物を創作した瞬間に自動的に発生し、その創作者に原則として帰属します。
日本では「登録」や「申請」は不要で保護される、無方式主義が採用されています。
つまり、
- 原稿を書いた人
- 映像を編集した人
- ロゴや音楽を作った人
…それぞれが“自分のパート”の著作権者です。 そして、他人がその部分を使うには、その人の許可が必要になります。
「みんなで作った=みんなのもの」とは限らない
よくあるのが、「サークルで作ったもの=みんなのもの」という誤解です。実は、法律の上では必ずしもそうとは限りません。
▶ 分離可能な複数の著作物(いわゆる結合著作物)
たとえば、ある動画を
- Aさんがシナリオを書き、
- Bさんが構成や演出に工夫を凝らして映像を編集し、
- Cさんが音楽を作った
というように、担当がはっきり分かれている場合は、それぞれが自分のパートの著作権を持つ、分離可能な複数の著作物の集合とみなされます。
このような場合、他の人のパートを使うには“その人の許可”が必要です。
▶ 共同著作物の場合
一方で、文章を複数人で一緒に書いたり、明確な分担ができないような場合は、「誰がどこを作ったか分けられない」として、「共同著作物」となります(著作権法64条)。
この場合、原則として全員の合意がないと作品の利用はできません。
サークル代表が“勝手にOKを出す”のはアリ?
「代表が“サークルの作品”って言ってたし、自由に使っていいよね」 と思っていませんか?
社会人サークルのほとんどは「任意団体」であり、法人格がありません。 このため、会社のように「職務著作(法人著作)」としてサークルに著作権が帰属するルールは適用されません(著作権法15条)。※「任意団体」については、下掲コラム参照
つまり、代表やリーダーが“OK”を出しても、他の著作権者の合意がなければNGのケースがあるのです。
✔ 社員が仕事で作った成果物=会社のもの
✔ サークルで個人が創作した成果物=原則、本人のもの
この違いは意外と大きな落とし穴です。
ひと言確認が、トラブルを防ぐ
「この動画、次回の交流会で使いたいんだけど…」 「ポートフォリオに載せてもいいかな?」
そんな時、LINEなどでの“ひと言確認”が、大きなトラブル防止になります。
💬やりとりの例
企画担当:
今回の動画、次回の交流会で使いたいのですが大丈夫でしょうか?
音楽部分はCさんの作曲ですよね。
Cさん(音楽担当):
内容確認しました。関係者内での視聴用なら問題ありません。
公開・外部発信される場合は、事前にご相談いただければと思います。
📌 補足
LINEやSlackなど、日常的なツールでも「いつ・誰が・何に合意したか」がわかれば立派な証拠になります。口頭で済ませず、記録に残しておくことが大切です。
「ゆるめの合意メモ」でも一定の効果あり
本格的な契約書でなくても、当事者間での利用ルールを軽くメモしておくだけで安心感が違います。
📝合意メモの例(サンプル)
作品名: 『2024年 活動報告ムービー』
著作権者:
- シナリオ:A氏
- 映像編集:B氏(構成・演出あり)
- 音楽制作:C氏
利用について(2025年5月10日確認):
- 関係者向け上映 → OK
- ポートフォリオ掲載 → 出典明記+担当者に事前相談
- SNS・動画配信 → 別途全員の同意を得ること
※PDFや画像で保存しておくと、改ざんのおそれがなく、あとから確認もできてさらに安心です。
おわりに
著作権は、ふだんはあまり表面化されませんが、創作の現場には確実に存在する“権利”です。 そして、信頼関係があるからこそ、遠慮して言いづらいこともあります。
仲間との創作活動を、もっと気持ちよく、長く続けていくために—— 「勝手に使わない」「確認をとる」「合意を残す」 まずはここから意識してみませんか?小さな確認と合意の積み重ねが、活動全体の信頼と安心につながります。
コラム:「任意団体」ってなに?
会社やNPO法人と違って、学生や社会人のサークルや趣味のグループの多くは、「任意団体」と呼ばれる存在です。
▼任意団体とは?
法律上、特別な手続きや登記をせずに、人が集まって活動しているだけのグループのこと。
上記サークルや野球チーム、吹奏楽団、読書会なども、ほとんどがこの「任意団体」に当たります。
▼ポイント
・法人格がないため、団体名で契約や登記ができない
・トラブルが起きたときは、個人が責任を問われるケースもある
・お金の管理や著作権の扱いも、「誰が」「何を」したかが重要
▼補足
「任意団体=ゆるいつながり」と思われがちですが、実は法的にはグレーな責任がメンバー個人に降ってくることも…!
活動が本格化してきたら、代表者の明確化、規約の整備が安心です。
音声解説
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