ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.なぜ契約書は、こんなにも読みにくいのか?
- 2.契約書が読みにくいのは、目的がまったく違う文章だから
- 3.「普通の日本語」で書くと、逆に揉める
- 4.契約書は「贅肉を削ぎ落とした文章」である
- 5.「責めに帰すべき事由」とは何か?
- 6.契約書は「読めない」のは読解力の問題ではない
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.なぜ契約書は、こんなにも読みにくいのか?
「責めに帰すべき事由」
「この限りではない」
「甲乙協議のうえ決定するものとする」
契約書を開いた瞬間、
こうした独特な言い回しに戸惑った経験はないでしょうか。
stand. fm「契約書に強くなる!ラジオ」で
リスナーさんから、こんなお便りををいただきました。
契約書って、口語じゃなくて文語調の定型表現が多くてとっつきにくいんです…
まさに、多くの方が感じている
素朴だけど本質的な疑問であり悩みだと思います。
では、なぜ契約書は
あえて「分かりにくく」書かれているのでしょうか。
2.契約書が読みにくいのは、目的がまったく違う文章だから
結論から言うと、
契約書が読みにくいのは、
最初から「読みやすさ」を目的にしていない文章だからです。
契約書の最大の目的は、
👉 「あとで疑義が生じないこと」
つまり、
・感動させる必要もない
・分かりやすく説明する必要もない
・読み物として面白い必要もない
その代わりに、
あとで揉めないこと
解釈がズレないこと
だけを、徹底的に追求した文章なのです。
3.「普通の日本語」で書くと、逆に揉める
たとえば、こんな契約書の一文があったとしましょう。
甲は乙に対して、美しい本件商品を納入する。
一見、やさしくて分かりやすいですよね。
でも、ここに大きな落とし穴があります。
「美しい」の基準は、人によって違う
売主である甲は、こう考えるかもしれません。
この価格帯の商品としては、十分きれいだ。
一方、買主である乙は、こう期待しているかもしれません。
これだけの金額を払うんだから、相当きれいなはずだ。
結果どうなるか。
納品時に、
「これは美しくない」
「いや、十分きれいだ」
という水掛け論が始まります。
つまり、
👉 日常的に何の気なしに使っている分かりやすい言葉ほど、解釈が割れる
これが、契約書実務で本当に起きている現実です。
4.契約書は「贅肉を削ぎ落とした文章」である
ここで、文章の目的を整理してみましょう。
| 種類 | 目的 |
|---|---|
| 小説 | 感情を動かす |
| 新聞 | 事実を正確に伝える |
| 契約書 | 疑義を生じさせない |
契約書は、
感動も、情緒も、読みやすさも、
すべて優先順位が低い文章です。
そのため、契約書では
次のような要素が、意図的に削られます。
- 具体例
- たとえ話
- 形容詞
- 副詞
これらは、日常会話では便利ですが、
契約書では解釈のブレを生みます。
だから契約書は、
👉 ギリギリまで贅肉を落とした文章
になっているのです。
5.「責めに帰すべき事由」とは何か?
契約書でよく出てくる、代表的な定型表現があります。
甲の責めに帰すべき事由がある場合には、この限りではない。
一見、難しそうですが、
意味はとてもシンプルです。
- 「責めに帰すべき事由」
= その人に落ち度があること - 「この限りではない」
= 前の原則的なルールは適用しません
つまり、
甲に落ち度があるなら、
さっき書いたルールは使いませんよ
という意味です。
これを口語的に書こうとすると、
甲が悪いときは、例外です
になりますが、
「悪い」の中身が曖昧すぎます。
だからこそ、
法律の世界では、
長年積み重ねられた定型表現が使われているのです。
6.契約書は「読めない」のは読解力の問題ではない
契約書が読みにくいのは、
あなたの読解力の問題ではありません。
- 小説と同じ読み方をしている
- 新聞の延長で読もうとしている
それだけです。
契約書は、
👉 「揉めない未来」をつくるための文章
読むときは、
・なぜこの表現になっているのか
・何を排除しようとしているのか
・どんな誤解を防ぎたいのか
そんな視点で眺めてみてください。
私自身、過去に法務部に配属されたばかりの頃は、
契約書がまったく読めませんでした。
しかし、
現場の営業や技術の方々と話し、
「これって、実務ではどういう意味?」
と一つずつ翻訳していくことで、
少しずつ見えてきました。
契約書は、
現場を知るほど、読めるようになる文章です。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。











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