ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.契約書って、どの程度まで細かく書けばいいのか?
- 2.基準はひとつ。「将来、認識のズレで揉めないか?」
- 3.実例:歯ブラシを題材に
- 4.「言わなくても分かるだろう」が一番危ない
- 5.全部書けないなら「別紙」で設計する
- 6.困ったら原理原則に戻る
- 🔎 参考記事
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書って、どの程度まで細かく書けばいいのか?
これは本当によくいただくご質問です。
結論を先に申し上げると―
共通認識が持てるところまで、できるだけ具体的に書く。
これに尽きます。
契約書というのは、
- お互いの共通認識を
- 言語化し
- 見える化し
- 将来のために凍結保存しておくもの
だからです。
2.基準はひとつ。「将来、認識のズレで揉めないか?」
契約書の目的は、
- 読ませることでもない
- 感動させることでもない
目的はただひとつ。
将来、「そんな話じゃなかった」と言われない状態をつくること。
契約書で全てを網羅することは現実的ではありません。
しかし、
- 認識のズレを小さくすること
- 揉める芽を事前に摘むこと
はできます。
ここが判断基準です。
3.実例:歯ブラシを題材に
例えば契約書に、
「歯ブラシ 10本 単価100円」
と書いたとします。
しかし歯ブラシには、
- メーカー
- 硬さ
- 形状
- 色
- 対象年齢
さまざまな種類があります。
売主は「どれでもいい」と思っている。
買主は「このメーカーのピンク色」と思っている。
これでは、認識は一致していません。
契約書は、
そのズレをなくすためのツールとも言えます。
ビジネス版・ビフォーアフター
【NGな記載】
Webサイト制作一式:100万円
ありがちな書き方ですが、
- ページ数は?
- スマホ対応は?
- CMS導入は?
- 修正回数は?
- ロゴ制作は含む?
何も特定されていません。
【OKな記載】
コーポレートサイト制作(全10ページ、スマホ対応あり、WordPress導入、ロゴデザインは含まず):100万円
※詳細は2026年2月10日付要件定義書による。
ここまで書けば、
「それは含まれていない」
「いや、含まれているはずだ」
というズレは起きにくくなります。
4.「言わなくても分かるだろう」が一番危ない
実務上よくあるケースです。
「システム開発一式」とだけ書いて発注。
発注者は、
- 開発
- テスト
- 軽微な修正
- 保守対応
まで含むと思っていた。
受注者は、
- 開発のみ
と理解していた。
悪意があったとは限りません。
ただ、契約書の解像度が足りなかっただけです。
その結果、
「そんな話じゃなかった」
という言葉が出てきます。
契約書は、この一言を防ぐためにあります。
5.全部書けないなら「別紙」で設計する
「そこまで細かく書けない」
その場合は、見積書や仕様書を組み込みます。
例えば次のような条文です。
甲および乙は、本件商品の仕様、数量、単価および納入期日について、別途甲が乙に交付する2026年2月10日付見積書(参照番号:A-2026-02)の通り合意した。
ポイントは、
- 日付を入れる
- 参照番号を入れる
- 「合意した」と明示する
こうすることで、
見積書は単なる参考資料ではなく、契約内容として位置づけられます。
契約書に全部書く必要はありません。
しかし、曖昧なまま放置してはいけないのです。
AIを使った「ズレのチェック」
最近はAIも活用できます。
例えば、
「この契約書や仕様書で、後から認識のズレが起きそうな曖昧な箇所を指摘してください」
と投げてみる。
当事者とは違う視点でチェックしてくれることがあります。
もちろん、最終判断は人間が行います。
AIは補助ツールです。
しかし、思い込みを外すには有効です。
6.困ったら原理原則に戻る
大学時代、ある教授が言っていました。
「困ったら原理原則に戻れ」
契約書の原理原則は何か。
将来、認識のズレで揉めないこと。
歯ブラシの例も、Web制作の例も、
すべてここに戻ります。
「どこまで細かく書けばいいのか?」
迷ったら、こう問いかけてください。
この書き方で、将来『そんな話じゃなかった』と言われないだろうか?
その問いが、契約書の解像度を確実に上げてくれます。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
🔎 参考記事
ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
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