ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約書はどこまで細かく書くべきか?―「将来、認識のズレで揉めない」ための原理原則

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.契約書って、どの程度まで細かく書けばいいのか?

これは本当によくいただくご質問です。

結論を先に申し上げると―

共通認識が持てるところまで、できるだけ具体的に書く。

これに尽きます。

契約書というのは、

  • お互いの共通認識を
  • 言語化し
  • 見える化し
  • 将来のために凍結保存しておくもの

だからです。


2.基準はひとつ。「将来、認識のズレで揉めないか?」

契約書の目的は、

  • 読ませることでもない
  • 感動させることでもない

目的はただひとつ。

将来、「そんな話じゃなかった」と言われない状態をつくること。

契約書で全てを網羅することは現実的ではありません。
しかし、

  • 認識のズレを小さくすること
  • 揉める芽を事前に摘むこと

はできます。

ここが判断基準です。


3.実例:歯ブラシを題材に

例えば契約書に、

「歯ブラシ 10本 単価100円」

と書いたとします。

しかし歯ブラシには、

  • メーカー
  • 硬さ
  • 形状
  • 対象年齢

さまざまな種類があります。

売主は「どれでもいい」と思っている。
買主は「このメーカーのピンク色」と思っている。

これでは、認識は一致していません。

契約書は、
そのズレをなくすためのツールとも言えます。

ビジネス版・ビフォーアフター

【NGな記載】

Webサイト制作一式:100万円

ありがちな書き方ですが、

  • ページ数は?
  • スマホ対応は?
  • CMS導入は?
  • 修正回数は?
  • ロゴ制作は含む?

何も特定されていません。

【OKな記載】

コーポレートサイト制作(全10ページ、スマホ対応あり、WordPress導入、ロゴデザインは含まず):100万円
※詳細は2026年2月10日付要件定義書による。

ここまで書けば、

「それは含まれていない」
「いや、含まれているはずだ」

というズレは起きにくくなります。


4.「言わなくても分かるだろう」が一番危ない

実務上よくあるケースです。

「システム開発一式」とだけ書いて発注。

発注者は、

  • 開発
  • テスト
  • 軽微な修正
  • 保守対応

まで含むと思っていた。

受注者は、

  • 開発のみ

と理解していた。

悪意があったとは限りません。
ただ、契約書の解像度が足りなかっただけです。

その結果、

「そんな話じゃなかった」

という言葉が出てきます。

契約書は、この一言を防ぐためにあります。


5.全部書けないなら「別紙」で設計する

「そこまで細かく書けない」

その場合は、見積書や仕様書を組み込みます。

例えば次のような条文です。

甲および乙は、本件商品の仕様、数量、単価および納入期日について、別途甲が乙に交付する2026年2月10日付見積書(参照番号:A-2026-02)の通り合意した。

ポイントは、

  • 日付を入れる
  • 参照番号を入れる
  • 「合意した」と明示する

こうすることで、
見積書は単なる参考資料ではなく、契約内容として位置づけられます。

契約書に全部書く必要はありません。
しかし、曖昧なまま放置してはいけないのです。

AIを使った「ズレのチェック」

最近はAIも活用できます。

例えば、

「この契約書や仕様書で、後から認識のズレが起きそうな曖昧な箇所を指摘してください」

と投げてみる。

当事者とは違う視点でチェックしてくれることがあります。

もちろん、最終判断は人間が行います。
AIは補助ツールです。

しかし、思い込みを外すには有効です。


6.困ったら原理原則に戻る

大学時代、ある教授が言っていました。

「困ったら原理原則に戻れ」

契約書の原理原則は何か。

将来、認識のズレで揉めないこと。

歯ブラシの例も、Web制作の例も、
すべてここに戻ります。

「どこまで細かく書けばいいのか?」

迷ったら、こう問いかけてください。

この書き方で、将来『そんな話じゃなかった』と言われないだろうか?

その問いが、契約書の解像度を確実に上げてくれます。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


🔎 参考記事

ここで触れている内容について、こちらの記事でも別角度で解説しております。
ご関心があれば、あわせてご覧ください。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。

また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【契約書のトリセツ】契約書のチェックのコツ― 有利・不利ではなく「現場が回るかどうか」で判断する視点前のページ

関連記事

  1. ビジネス法務

    理不尽で不合理な内容の契約書への対策【2026年版】

    ※本記事は、実務でのご相談内容や取引環境の変化を踏まえ、 2…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


ご連絡先

行政書士大森法務事務所
home@omoripartners.com
048-814-1241
〒330-0062
埼玉県さいたま市浦和区仲町2-5-1-B1
▼契約書類作成
▼セミナー講師依頼
(契約書、ビジネス法務、コンプライアンス)
▼台本作成
(研修動画、ナレーション、ラジオ番組)

stand.fm『契約書に強くなる!ラジオ』【週2回(水・日)更新】
FM川口『ちょいワルMonday200』【毎月第2第4月曜日19:00~生放送】
2026年2月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
232425262728 
PAGE TOP