ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
◆はじめに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
「この車、もう使わないからあげるよ」
「誕生日に指輪をプレゼントするね」
──こんな言葉、一度は聞いたことがあるかもしれません。
実はこうした“あげる・もらう”のやり取り、
法律上では立派な贈与契約(ぞうよけいやく)にあたります。
しかし、契約書を交わしていなかったことで、
「やっぱりやめた」と言われたり、
「そんな約束はしていない」と否定されてしまったり──
そんなトラブルに発展することも少なくありません。
今回は、贈与契約の基本ルールと、契約書を作る意味などについてやさしく解説します。
目次
- 贈与契約ってどういう契約?
- 契約書がない場合の注意点
- 税金のことにも少しだけふれておきます
- 贈与契約書を作る3つの理由
- 贈与契約書の雛形(個人向け)
- まとめ:「気持ち」だけじゃなく「証拠」も大切に
1. 贈与契約ってどういう契約?
まず、贈与契約とは──
「タダであげるよ」という意思と、「もらいます」という意思が一致することで成立する契約のことです。
民法では、以下のように定められています。
民法549条(贈与)
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、
相手方がこれを受諾することによって、その効力を生ずる。
つまり、契約書がなくても、
日常の会話やメールのやり取りだけでも「契約」として成立してしまうのです。
2. 契約書がない場合の注意点
契約書がなくても贈与契約は成立します。
でも、書面がないことで撤回できてしまうという問題もあります。
民法550条(書面によらない贈与の解除)
書面によらない贈与は、各当事者が解除することができる。
ただし、履行が終わった部分については、この限りでない。
つまり──
- 書面がない
- まだ渡していない
この場合、「やっぱりやめた」が法的に通ってしまうのです。
「信じてたのに…」と後悔することにならないためにも、
契約書を残しておくことがとても大切です。
3. 税金のことにも少しだけふれておきます
贈与契約は税金(贈与税)が関係することもあります。
特に高額な財産を贈与の場合には、税務署から確認が入ることも。
詳細は、税理士などの専門家に相談いただくのが確実ですが、
契約書があることで「いつ・誰が・何を・どのように贈与したか」を説明しやすくなる
という点は、実務上とても大きなメリットです。
4. 贈与契約書を作る3つの理由
✅ 1)言った・言わないを防げる
文書に残しておくことで、贈与の意思・合意を明確にできます。
✅ 2)勝手な撤回を防げる
民法550条の「解除できる」というリスクを、書面で封じることができます。
✅ 3)後々のトラブルを防止できる
家族間や友人間であっても、贈与をめぐって争いになるケースはあります。
だからこそ「きちんと残しておく」ことが、お互いの信頼を守ることにもつながります。
5. 贈与契約書の雛形(個人向け)
以下は、個人間で物品を贈与する場面を想定したシンプルな雛形です。
📝 贈与契約書(例)
コピーする編集する贈与契約書
贈与者 〇〇〇〇(以下「甲」という。)と
受贈者 〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、以下のとおり贈与契約を締結する。
第1条(贈与の内容)
甲は、下記の財産を無償で乙に贈与し、乙はこれを受諾する。
【贈与物の内容】
・品名:○○○○○○
・数量・型番:○○○○○○
・参考価格(任意記載):○○○○円
第2条(引渡しの時期)
甲は、本物品を令和〇年〇月〇日までに乙に引き渡す。
第3条(解除の制限)
本契約は書面によって締結されたものであり、民法550条に基づく解除は認められない。
第4条(協議事項)
本契約に定めのない事項または疑義が生じた場合は、甲乙誠意をもって協議し、解決する。
本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自1通を保有する。
令和〇年〇月〇日
贈与者(甲)
住所:
氏名: ㊞
受贈者(乙)
住所:
氏名: ㊞
🛑ご利用にあたっての注意(免責事項)
本雛形は、一般的な贈与契約を想定して作成した例です。
ご自身の具体的な状況に合わせて、必要に応じて修正・追記してください。
また、税務処理や法的リスクを含めた詳細な判断が必要な場合は、専門家へご相談ください。
本記事および雛形を利用したことにより生じたいかなる損害についても、筆者および当事務所は責任を負いかねます。
あらかじめご了承ください。
6. まとめ:「気持ち」だけじゃなく「証拠」も大切に
贈与は「善意の契約」です。
でも、善意だけではトラブルを防げません。
- 「本当にあげる気があったのか」
- 「もらう約束をしたのか」
- 「税務上の説明はどうするのか」
──こうした疑問を晴らす手段が、「契約書」という証拠です。
気持ちだけでなく、お互いを守る“記録”として、
贈与契約書をカタチにしてみてください。
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