ビジネス法務

【契約書のトリセツ】“営業日基準”をどちらに合わせる?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

契約書では当たり前のように使われる「○営業日以内」という表現。
しかし、この “営業日が誰基準なのか” を決めていないと、
実務では締切がズレて 紛争の火種になる典型例 です。

特に、現場で起こりがちなのが
「金曜日17時にメールを送ったとき、どのように数えるのか?」
という問題。通称 金曜17時問題

さらに、営業日以上に見落とされがちなのが
「初日(通知日)を参入するか、不算入にするか」 の問題。

営業日が1日ズレるだけで、
数千万円〜数億円規模の損害賠償リスクが動く世界だからこそ、
こうした細部は契約書の品質に直結します。

“神は細部に宿る”という言葉がもっとも当てはまるのは、
実はこうした 営業日と起算日の取り扱い です。

この記事では、具体的な日付(12月5日金曜日17時)に落とし込み、
誰でも一瞬で理解できる「営業日基準のズレ」と「初日の算入/不算入」を徹底解説。
最後に、実務でそのまま使える 条文例 も掲載しています。


2. 営業日は会社ごとに違う

まず大前提として、
営業日は会社ごとに異なります。

  • 土日休み
  • 土曜だけ営業
  • 日月休み
  • シフト制
  • 土日どちらも営業
  • 海外拠点で祝日が違う

このように、業種・地域・ビジネスモデルによって「営業日」はバラバラ。

にもかかわらず、契約書では
「5営業日以内に回答するものとする」
とだけ書かれることが少なくありません。

ここに、トラブルの芽が隠れています。


3. 金曜日17時問題を日付で完全理解(12月5日版)

現場で最も起こりやすく、誤解も多いのが
“12月5日(金)17:00に通知や発注を送ったケース”

これを前提にシミュレーションしてみましょう。

●状況

  • 送信日時:12月5日(金)17:00
  • 甲(A社):土日休み
  • 乙(B社):土日どちらも営業
  • 期限:5営業日以内に返答

同じメールでも、
基準をどちらに置くかで締切が2日ズレます。


4. 甲基準と乙基準で締切が“2日ズレる”

▼ 甲(A社:土日休)で数えた場合

  • 12/6(土)休
  • 12/7(日)休
  • 12/8(月)→1日目
  • 12/9(火)→2日目
  • 12/10(水)→3日目
  • 12/11(木)→4日目
  • 12/12(金)→5日目(締切)

🟦 締切:12月12日(金)


▼ 乙(B社:土日営業)で数えた場合

  • 12/6(土)→1日目
  • 12/7(日)→2日目
  • 12/8(月)→3日目
  • 12/9(火)→4日目
  • 12/10(水)→5日目(締切)

🟥 締切:12月10日(水)


▼ 結果

  • 甲基準:12/12(金)
  • 乙基準:12/10(水)

👉 締切が2日ズレる。

これだけで、
「期限内かどうか」「契約成立か否か」が変わってしまうのです。


5. 初日参入か不算入かも決めておくべき理由

営業日の基準と並んで重要なのが、
「初日(通知日)を参入するか、不算入にするか」 という論点。

●民法の原則

民法140条では、

期間の初日は「算入しない」
とされています(初日不算入)。

一方で、実務では当日から処理することが前提の業務も多く、
初日参入(当日からカウント) の慣行が自然に使われている場面もあります。

●ここでズレるとどうなる?

  • 「5営業日以内の承諾」
     → 初日の扱いで 契約が成立/不成立に分かれる
  • 「検査結果は3営業日以内」
     → 初日参入か不算入かで 瑕疵認定が変わる
  • 「修補請求は10日以内」
     → 起算日の違いだけで 損害賠償の責任が変わる

営業日×初日の扱いは、
取引の構造そのものを左右する要素 なのです。

初日算入/不算入の条文例

(初日不算入:民法原則)

本契約において期間を日、営業日、週、月又は年で定めた場合、
当該期間の起算日は、当該期間を開始すべき事由が生じた日の翌日とする。

(初日算入:当日から業務が動く場合)

本契約において期間を日又は営業日で定めた場合、
起算日は、当該通知が相手方に到達した日を含むものとする。

※上記条文例は一般的なもののため、
※業務フロー(工程管理/SLA/役務の性質)に応じて必ず調整が必要です。


6. トラブルを防ぐための書き方(営業日の条文例)

営業日の基準を明確にするだけで、
金曜17時問題の大半は防げます。

以下は実務で使える条文例です。

営業日基準の条文例

(承諾の期限)
甲が乙に対して発注書その他の書面(電磁的記録を含む。)を交付した場合、
乙は、当該書面の到達日を含めず5営業日以内(甲の営業日基準)に、
当該発注内容について承諾または不承諾の意思表示を行うものとする。

(営業日の定義)
本契約における「営業日」とは、甲が定める営業カレンダー(甲が毎事業年度に事前に定め、乙に書面または電磁的方法で通知するもの)において営業日として指定された日をいう。
甲は営業カレンダーを変更する場合、原則として30日前までに乙へ通知するものとする。

※こちらも一般的な例であり、取引内容に応じた個別調整が必要です。


7. まとめ:営業日と起算日は「取引構造そのもの」

営業日の取り扱いは、
単なる日付計算ではありません。

  • 契約の成立
  • 遅延の判断
  • 損害賠償の責任
  • 業務フロー
  • 納期
  • SLA
  • 品質管理

これらすべてに影響する“取引構造そのもの”。

契約書とは、
取引の解像度を上げるためのツール です。

だからこそ、
営業日基準と初日の扱いを明確に書くことが、
トラブルを未然に防ぎ、ビジネスを守る最重要ポイント。

この記事を参考に、
あなたの契約書も解像度を一段引き上げてみてください。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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