ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約書で“誤表記してしまった”…そのときどうする?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


はじめに

契約書のミス――。
「数字が1つ違っただけだから、すぐ直せばいいでしょ?」
そう思いがちですが、契約の世界では たった一文字の誤表記が“合意内容そのもの”を変えてしまう ことがあります。

たとえば、

  • 「10万円」と書くつもりが「1万円」
  • 「100,000円」が「10,000円」
  • 「648,010円」が「648.010円」
  • 「その他」と「その他の」

こうした小さな違いでも、契約としてはまったく別物になり得ます。

では、誤記を見つけたらどうすべきか?
いまの電子契約時代ではどんな修正が必要なのか?

今回は、誤表記の扱い・訂正方法・実務で起きやすい勘違い を徹底解説します。


1. 誤記?錯誤?(まず押さえたい基本)

誤記=“書き間違い”。
錯誤=“当事者の認識がそもそも一致していなかった”という主張。

ただし、ここが重要です。

錯誤が認められるハードルは高い。

裁判所は「本当に当事者の認識が違っていたのか?」「相手もそう理解していたのか?」を厳しく見ます。

つまり――

  • 数字が違うだけでは、簡単に錯誤無効にはならない
  • 合意内容として扱われる可能性が高い
  • よって 訂正は“双方の合意”が必要

これが実務上の大前提です。


2. 誤表記で“合意内容が変わる”典型例

(1)ゼロ1つの違いで金額が変わる

  • 「100,000円」と書くつもりが「10,000円」
  • 「50,000円」が「500,000円」になっていた
  • 「300000円」のカンマが抜けて「30000円」に見える

数字の桁違いだけで契約内容は劇的に変わります。


(2)海外式の数字表記を誤記するケース

世界には数字の区切りが日本と逆の地域があります。

  • 日本式(アメリカ式) → 「1,000」=千
  • 欧州式(ドイツ・フランス等) → 「1.000」=千

つまり、

表記日本式の意味欧州式の意味
1.000小数点で「1」桁区切りで「1000」
1,000桁区切りで「1000」小数点で「1」

そのため、和文契約書に欧州式で 1.000万円(ピリオド) と書いてある場合、

  • 日本式での解釈 → “1万円”
  • 欧州式 での解釈→ “1,000万円”

のように 1000倍ズレる 可能性があります。

国際契約で実際によく起きる誤記です。


▼(3)「その他」と「その他の」で義務範囲が変わる

誤表記の怖さを理解するうえで最も象徴的な例です。

まずはシンプルに整理:

用語関係性意味
その他並列関係列挙された語句と同じ階層で並ぶ(範囲が広い)りんご、みかん、その他食べ物
その他の例示関係列挙された語句が“後ろの広い概念の具体例”引火性、爆発性、その他の危険性

実務でどう変わる?

●その他費用(=広がる)

交通費、宿泊費、印刷費、その他費用を負担する。

この書き方だと 交通費と関係のない費用まで含む可能性 が生まれます。

例:外注費、PC修理費、事務手数料など。


●その他の費用(=限定される)

交通費、宿泊費、印刷費、その他の費用を負担する。

こちらは
列挙された費用の“同種の追加分” に限定。

▼たった一文字で意味が変わる

だから誤表記は危険。
「その他/その他の」の違いですら、義務範囲がまるごと変わります。


3. 誤表記を見つけたときの正しい訂正方法

ポイントは一つ。

必ず“双方の合意”のもとで訂正すること。

方法は3つあります。

【A】訂正印で直す(紙契約)

  • 二重線で消す
  • 上に正しい表記を書く
  • 双方の訂正印を押す

【B】覚書(合意書)で修正する

誤記が大きい場合、または金額のように重要な場合は覚書が安全。

【C】契約書をまるごと差し替える

複数の誤記がある場合は 再締結 が最も確実。


4. 電子契約(クラウドサイン等)で修正するときの原則

電子契約に「訂正印」はありません。

原則はこれ:

正しいPDFを再送し、もう一度合意してもらう。

つまり 差し替え=再合意 が必須。


5. 誤表記を防ぐための実務ポイント

  • 金額は 漢数字+アラビア数字の併記 が安全
  • カンマ区切り(1,000,000円)で書式を統一
  • 「その他/その他の」は意味を必ず確認
  • 日本語入力ソフトの自動変換ミスに注意
  • 複数名での読み合わせを習慣化

6. まとめ:契約の世界では「、」にも根拠がいる

誤表記は“ただのミス”ではなく、
当事者の合意内容をゆがめる重大なリスク です。

  • ゼロ1つ
  • ピリオド1つ
  • 「その他/その他の」
  • たった一文字

これだけで契約は変わります。

だからこそ、誤記を見つけたら

書面で明確に訂正し、双方の認識をそろえること。

そして日頃から誤表記を防ぐしくみを整えることが大切です。

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