ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに:「このまま使って大丈夫ですか?」
- 2. 「ひな形」という名のタイムカプセル
- 📌 補足コラム:「瑕疵担保責任」は使ってはいけない言葉なの?
- 3. 「今の法律に合っているか」は最重要ポイント
- 4. 「ひな形を使う=考えなくていい」ではない
- 5. まとめ~契約書は“アップデートされるべきツール”
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに:「このまま使って大丈夫ですか?」
「この契約書、前の担当者が使っていたものをそのまま使ってます」
「ネットで見つけた契約書のひな形をコピペしてます」
――そんな声、現場ではよく耳にします。
でも、そのひな形、本当に今の時代に合ってますか?
この記事では、放置されたひな形に潜むリスクと、見直すべきポイントをやさしく解説します。
2. 「ひな形」という名のタイムカプセル
契約書の「ひな形」は便利な反面、実は“賞味期限”があることを意識していないケースが少なくありません。
とくに、以下のような要素がそのまま残っている場合は要注意です。
🛑 廃止された制度が記載されている例
例1:「和議開始申立て」を解除理由にしている
「相手方について和議手続開始の申立てがなされたとき、本契約を解除できるものとする」
これはかつて存在した「和議法」に基づく表現です。
しかし、和議法は2000年に廃止されており、現在は存在しません。
📌 和議法(旧法)は、会社更生法・破産法とは異なる再建型の倒産処理手続。
📌 2000年の「民事再生法」の施行により、全面的に廃止。
→ どうすべき?
現行法にあわせて、以下のような条文に修正する必要があります。
「相手方について民事再生手続開始の申立てがなされたときは、本契約を解除できるものとする」
例2:「瑕疵担保責任」のままの表記
「売主は、引渡し後1年以内に発見された瑕疵について担保責任を負う」
この「瑕疵担保責任」は、旧民法570条などに基づく概念でしたが、2020年4月の民法改正により廃止され、
現在は「契約不適合責任」という別の概念に置き換えられています。
📌 改正民法 第562条〜第564条
契約不適合責任は、物の種類・品質・数量などが契約内容に合致していない場合の包括的な責任を定めたものです。
→ どうすべき?
現行の条文体系にあわせ、以下のような修正が推奨されます。
「売主は、本件製品が契約の内容に適合しないときは、買主の請求により修補・代替品の提供・代金減額等に応じるものとする」
📌 補足コラム:「瑕疵担保責任」は使ってはいけない言葉なの?
2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」という制度名称は廃止され、「契約不適合責任」というルールに一本化されました。
旧:民法570条 → 廃止
新:民法562条~564条(契約不適合責任)
このため、契約書の中に「瑕疵担保責任」という言葉が出てくると、
「古い契約書では?」と感じることもありますが、必ずしもアウトとは限りません。
✅ 実務上は以下のような理由で使用が継続されることも
- 建設・不動産業界などで用語が定着している
- 英文契約との整合性(”warranty against defects” など)
- 用語は旧来のままでも、中身が現行法に準じていれば問題ない
⚠ ただし注意すべきは「中身の整合性」
たとえば、以下のような条文には注意が必要です:
「買主が善意無過失であるときに限り、売主は瑕疵担保責任を負う」
これは旧民法の要件そのままであり、現行法では不要かつ不利な制限になりかねません。
逆に、以下のように契約不適合責任と整合する内容であれば、「瑕疵」の語を使っていても支障ありません。
「本件製品に瑕疵がある場合、買主は修補、代替品の提供、または代金の減額を請求できる」
💡 要は、「用語」よりも「条文の内容」が大事なのです。
3. 「今の法律に合っているか」は最重要ポイント
ひな形の見直しは、以下の観点で進めると効果的です。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 作成・更新日 | 5年以上前の契約書はとくに注意 |
| 廃止された制度 | 和議法など、現行法にない制度が記載されていないか |
| 改正民法対応 | 「瑕疵担保責任」など旧法の言い回しが残っていないか |
| 実務対応 | 契約の流れ・手段が現実とずれていないか(例:押印必須/書面交付) |
| リスク条項 | 納期遅延・不履行・反社などのリスクに網羅的に対応しているか |
4. 「ひな形を使う=考えなくていい」ではない
契約書のひな形は、あくまで“骨組み”です。
そのまま流用すると、「時代遅れの条文」や「現在では通用しない文言」までそのまま持ち込んでしまうことになります。
特に注意したいのは、以下のような状態:
- 電子でのやりとりが主流となりつつある昨今においても「紙で印刷、押印して郵送」「FAX」が通知の手段だと明記されてしまっている
- “和議法”など現行法にない法令が記載されている
- 「契約不適合責任」ではなく「(内容を精査しないまま)瑕疵担保責任」のままになっている
こうした契約書は、ひな形ではあるが「外部に発信するもの」としてはややリスクのあるものです(相手から指摘されて恥ずかしい思いをする程度ならいいですが、最新の法令も知らないコンプライアンスに無知な会社と思われてしまっては元も子もありません)。
5. まとめ~契約書は“アップデートされるべきツール”
契約書は、ただのビジネス文書ではなく「会社としての取引方針の意思表明」であり、トラブル時には「武器」にもなるものです。
にもかかわらず、制度も法律も変わっているのに、ひな形は10年前と同じまま…では、せっかくの武器が錆びついてしまいます。
✅ ひな形の見直し・現代化のご相談も承ります
- 「自社の契約書、ちょっと心配…」
- 「法改正に対応できているか不安…」
- 「この文言、まだ使って大丈夫?」
――そんな疑問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。
契約実務の視点から、現場に即した見直しをお手伝いします。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。











この記事へのコメントはありません。