契約書

【契約書のトリセツ】部門ごとのズレに要注意!~契約書ひな形づくりは、社内調整の力が問われる仕事です~

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


たとえば、製造業の会社では――

  • 「営業部」「技術部」「製造部」

IT企業では――

  • 「営業部」「制作部」

このように、会社内に複数の部門があり、それぞれが専門的な役割を担っていることが多いと思います。

日常の業務では、お互いが密に連携しながら進めているものの、取引条件の細かい部分にまで話が及ぶと、それぞれの立場で“微妙に異なる価値観”が浮かび上がってくることがあります。


会社としては、「自社の基本契約書(取引基本契約書、業務委託基本契約書、秘密保持契約書など)を整えておきたい」と考えて、ひな形を整備することがあります。
これは非常に大切なことですし、実際、法務的に正しい判断です。

ところが――

「せっかく作った契約書のひな形が、なぜか現場で使われない」
こうした状況に直面することも、決して少なくないのです。


原因の一つは、部門間の利害が一致していないことにあります。

契約条件の中には、会社としての総意ではなく、「ある部門の都合だけが反映されてしまう」ものも、実は少なくありません。たとえば――

  • 営業部:「納期はできるだけ早く」と伝えたい
  • 製造部:「納期はできるだけ余裕を見ておいてほしい」と考えている

このように、部門ごとに見えている景色が違うのです。


契約書のひな形を整備したにもかかわらず、
「結局、前に使っていた古い契約書のままでいいや」
「ネットで見つけた別のテンプレを使おう」
となってしまうのは、現場感覚が置き去りにされているから。

いくら法律的に整っていたとしても、実際に使う人たち――たとえば営業担当者やお客様との打ち合わせ担当者が「これだと出しにくい」と感じてしまえば、運用されない契約書になってしまいます


このような事態を避けるために、契約書のひな形を整備する際には、単に「法的に正しい形」を目指すのではなく、社内の複数の部門の意見を丁寧に調整しながら進めることが大切です。

契約書には、部門ごとの利害がそのまま表れるような項目がいくつもあります。

たとえば――

  • 納期
  • 契約不適合条件(不具合の対応)
  • 検収条件
  • 変更対応の柔軟性
  • 価格や納期の変更のタイミング(そもそもそれらを認めるかどうかも含めて)

これらについて、営業部と製造部、あるいは制作部と技術部が正反対の意見を持っていることも珍しくありません


私自身、契約書のひな形づくりを外部専門家としての立場からお手伝いさせていただく機会があります。

そのときに、単に「契約書の文案を考える」だけでなく、“社内調整のハブ”としての役割も果たせたらと、いつも意識しています。

私のような第三者が一枚入ることによって、次のような効果があります。

  • 「特定の部門の思いだけで進まないようにする」
  • 「対立意見を中立的に整理する」
  • 「業界標準や過去の他社事例を参考にした“落としどころ”を提示する」

つまり、会社の中でうまくバランスを取りながら進めていく役割を担う、という感覚です。


契約書は、書式や条項の整合性だけで完成するものではありません。

実際のビジネス現場において、誰が・どのように・どんなタイミングで使うのか?
という“リアルな使用場面”に即していないと、絵に描いた餅になってしまいます。

とくに中小ベンチャー企業では、ひとつの契約が売上・納品・支払いなど、全体の流れに大きな影響を与えることがあります。

だからこそ、「社内で使える契約書」であることが何よりも重要なのです。


契約書のひな形は、法務や総務のために作るものではなく、現場のために作るものです。

そして、現場で本当に使える契約書を作るためには、次の3つの視点が欠かせません。

  1. 営業現場で提示しやすいこと
     → 条項の説明がスムーズにできる、過度なリスク転嫁になっていない
  2. 製造・技術側で対応可能な内容になっていること
     → 無理な納期、対応不可な責任を負わされていない
  3. 経営層としてのリスク管理ができていること
     → 経営リスクに直接かかわる条項(検査条件、損害賠償、契約解除など)が適切に設定されている

これらのバランスを整えることこそが、契約書ひな形整備の“本当の意味”です。


契約書というと、法律の話、専門的な話と思われがちです。

しかし実際には、「社内の価値観のすり合わせ」や「現場の知恵の集約」といった側面の方がずっと重要です。

複数の部門が関わる中で、誰かの意見だけで決めてしまうと、現場では機能しなくなってしまいます。

だからこそ、一枚外部の専門家が入って、社内の利害を整理しながら、実態に合ったひな形をつくる

それが私の役割であり、現場で生きる契約書を作るための鍵だと考えています。

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