ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
契約書というと、「とりあえず雛形を使っておけばOK」と思われがちです。
しかし、取引が動き出したあとも現場はどんどん変化していきます。
人も仕組みも環境も、ずっと同じままではありません。
つまり――
契約書も“見直す前提”で活用することが、経営判断として重要になってきます。
本記事では、契約書を放置することのリスクや、取引の実態に合わせて内容をアップデートするための方法について、実務的な視点で解説していきます。
契約書は「取引スタート時点での共通認識」を記録したもの
契約書は、取引開始時点の「お互いの認識」を文字に起こしたものです。
これは、いわば「取引スタート時点の設計図」のようなもの。
しかし実際の現場は、少しずつ、あるいは大きく変化していきます。
たとえば――
- 取引量が拡大し、対応フローが変わった
- 発注頻度や納期が見直されてきた
- IT導入により、やり取りの手段やスピード感が変化した
- 担当者が代わり、運用方法が変わってきた
…というように、契約書に記載された内容と、現場での“運用実態”にギャップが出てくるのはごく自然なことです。
契約書と現場のギャップを放置すると何が起きるか?
平常時はトラブルが起きなくても、何か問題が起きたとき――
「契約書にそう書いてあるのかどうか」が争点になります。
たとえば:
- 実際は納期が1週間遅れてもOKな空気感だった → 契約書上は「納期遅延は損害賠償対象」
- 請求タイミングが月末締めになっている → 契約書には「納品後即時」と記載されていた
このように、「契約書と現場のズレ」が、そのままリスクとして顕在化する可能性があります。
契約内容の変更方法は主に2つ
内容を現場に合わせて変更したいときは、主に次の2通りの対応方法があります。
① 契約書を再作成(巻き直し)
内容を全面的に見直して、改めて契約書を締結し直す方法です。
✔ 向いているケース:
- 内容の変更が多岐にわたる
- 契約自体が古く、条文が実態に合っていない
- 更新タイミングに合わせて全体を再整備したい
◎ メリット: 情報が一元化され、読みやすく、管理しやすい
△ デメリット: 稟議や手続きに時間がかかることも
② 覚書を取り交わす
現行の契約書はそのままにして、一部の変更点だけを文書で取り交わす方法です。
✔ 向いているケース:
- 納期、金額、支払条件など部分的な変更にとどまる
- 急ぎの調整や一時的な対応が必要
- 原契約のボリュームが大きく、全体変更は非効率なとき
◎ メリット: 手続きが軽く、スピーディーに対応できる
△ デメリット: 覚書が増えすぎると、管理や確認に手間がかかる
実務で使える「覚書」イメージ
たとえば、当初の契約では「当月末締め・翌月払い」としていたが、資金繰りや請求処理の都合により、「当月末締め・翌月25日払い」に変更したい場合。
覚書(例)
- 本覚書は、甲乙間で2025年3月1日付にて締結した業務委託契約書(以下「原契約」という)に関連する変更を定めるものとする。
- 原契約第●条に記載された支払条件を以下のとおり変更する。
旧:当月末締め・翌月払い → 新:当月末締め・翌月25日払い - 上記以外の契約内容については、引き続き原契約に従うものとする。
覚書は、「変更内容」と「もとの契約との関係」を明記し、署名や押印を含めて“契約と同様の扱い”とすることが重要です。
経営判断としての“契約の棚卸し”
契約書は、現場だけが使うものではありません。
経営者や幹部こそ、「現場とのズレ」にいち早く気づける立場にあります。
業務改善やリスク管理の一環として、以下のような取り組みが有効です:
- 毎年1回の「契約書レビュー週間」を設ける
- 現場リーダーと一緒に、契約と実務の整合性をチェック
- 雛形を見直すタイミングで、現場の意見をヒアリング
まとめ:契約は「生き物」
- 契約書は作ったら終わりではない。実態とズレていないか定期的に見直しを。
- 状況に応じて、巻き直し or 覚書を適切に活用する。
- 経営判断として、「契約のアップデート」は業務安定と信頼構築につながる。
✅ まずは小さな一歩から
- 今手元にある契約書を、1件だけでも開いてみてください。
- 「当時の条件と、今の現実がズレていないか?」それだけでも気づきはあるはずです。
必要であれば、第三者の専門家にレビューを依頼するのも一つの手です。
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