ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.契約書が「作った日」のまま止まっていませんか?
- 2.商売を言語化したものが「契約書」
- 3.現場でよくある「ズレ」
- 4.契約書は“商売の設計図”
- 5.契約書健診(アップデート)のタイミング
- 6.古い契約書は、今の商売に追いついているでしょうか?
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.契約書が「作った日」のまま止まっていませんか?
「商売は生き物だよね」
ある経営者の方との雑談の中で出てきた言葉です。
コロナ禍を経て、お客様のマインドも変わり、販売方法や働き方も変わりました。
では――
契約書は変えていますか?
商売が変わっているのに、契約書だけが10年前のまま。
実は、現場では珍しくない話です。
2.商売を言語化したものが「契約書」
契約書とは、
「商売のやり方を、法的な言葉で翻訳したもの」
だと私は考えています。
- ビジネスモデルが変われば
- リスクの取り方が変われば
- 提供方法が変われば
契約書も見直す必要が出てきます。
商売が生き物なら、契約書もまた生き物。
放っておけば、実情と合わない“殻”になってしまいます。
3.現場でよくある「ズレ」
商売は変わっているのに、契約書は変わっていない。
具体的にどんなズレが起きているでしょうか。
① 納品形態の変化
昔:
「CD-ROMを郵送して納品」
今:
「クラウド上の共有リンクで納品」
それでも契約書は、
「成果物は書面または記録媒体により納品する」
のままになっていませんか。
クラウド前提の設計になっていないと、
保存義務やデータ削除義務、アクセス制限などの扱いが曖昧になります。
② 通知方法のズレ
契約書では、
「通知は書面により行う」
実務では、
- Slack
- LINE
- メール
で完結しているケースも多いでしょう。
万が一、紛争になった場合、
その連絡が有効な「通知」と認められるかは、条文次第です。
通知が無効と判断されれば、
解除や請求が成立しない可能性もあります。
③ リモートワークへの未対応
委託先が自宅で作業する時代。
それでも秘密保持条項は、
「社内での管理を前提」とした設計
のままになっていないでしょうか。
私物PCの利用、家族のいる環境、
クラウド利用などを前提とした条文設計になっているか。
ここも見落とされがちなポイントです。
④ 用語の時代遅れ
2020年4月の民法改正により、
「瑕疵担保責任」は、
「契約不適合責任」へと変わりました。
それでも契約書に「瑕疵担保責任」が残っているケースは、
いまも少なくありません。
法改正に未対応だから直ちに無効になる、というわけではありません。
しかし、実務上のリスクや誤解を生む可能性は否定できません。
4.契約書は“商売の設計図”
契約書は、
- お金の流れ
- 責任の範囲
- リスクの置き場所
- トラブル時の出口
を定める設計図です。
私は常々、
契約書とは、取引の解像度を上げるツールである
とお伝えしています。
商売の設計が変わったのに、
設計図を更新しない。
それは、増改築したのに古い図面を使い続けるようなものです。
5.契約書健診(アップデート)のタイミング
では、いつ見直せばよいのでしょうか。
「1年に1回」というのは一つの目安ですが、
より具体的には次のタイミングがおすすめです。
✔ 決算期
決算のタイミングで、自社フォーマットや主要取引先との契約書を
一つずつ見直す。
財務と同じように、法務も定期点検する習慣を持つ。
✔ 新サービス開始時
新しいメニューを始めたときこそ要注意です。
既存契約書の使い回しではなく、
- 免責の範囲
- 責任上限
- 成果物の定義
- 支払条件
が実態に合っているか確認するべきタイミングです。
✔ 法改正の節目
2020年の民法改正のような大きな法改正があった場合は、
いわば「強制アップデート期間」と考えてよいでしょう。
知らないうちに制度とズレている、という事態は避けたいところです。
6.古い契約書は、今の商売に追いついているでしょうか?
ダーウィンの進化論のような大げさな話ではありませんが、
長く続いている商売というのは、
やはり「変化に対応してきた商売」だと感じます。
その変化を法的にそっと支えるのが、契約書の役割です。
皆さんの契約書は、
・今のビジネスモデル
・今のリスク感覚
・今の情熱
に、きちんと追いついているでしょうか。
10年前の雛形を使い続けること自体が、即、悪いわけではありません。
契約書は、会社の考え方や姿勢を映す“鏡”のようなものです。
契約書を丁寧に整えている会社は、現場のオペレーションも整っていることが多いと感じます。
逆に言えば、契約書を磨くことは、自社のサービス品質を磨くことと近い作業なのかもしれません。
契約書もまた、定期的に手入れをしていくものです。
いわば小さな“脱皮”の積み重ねです。
もし、
「取引の実務と契約書が、どこかしっくりこない」
と感じることがあれば、
それは契約書が悪いというより、商売が進化している証拠なのかもしれません。
いまの自分たちの商売を、きちんと言語化できているか。
その確認の時間を、年に一度でも持っていただければと思います。
私も、そのお手伝いができれば幸いです。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。









この記事へのコメントはありません。