ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.講師を頼まれたとき、なぜ身構えてしまうのか
- 2.「無難」であることは、むしろ最適解である
- 3.大学講義・予備校講師モデルの思い込み
- 4.参加者が本当に求めているもの
- 5.アンケートが示す評価ポイント
- 6.正直、少し拍子抜けした話
- 7.受講者は理論を聴きに来ているわけではない
- 8.「こんな話、意味があるのか?」という不安
- 9.主催者に聞くことは準備の一部
- 10.まとめ
1.講師を頼まれたとき、なぜ身構えてしまうのか
専門家として仕事をしていると、
ある日突然、こんな依頼を受けることがあります。
「今度、セミナーの講師をお願いできませんか?」
この一言で、
少し身構えてしまうことも少なくありません(後述しますが私自身がそうでした)。
- 何を話せばいいのか
- レベルはどの程度に合わせればいいのか
- きちんとした内容を話さなければ失礼ではないか
講師業を本業にしていない士業・専門家ほど、
「ちゃんとやらなければ」という意識が先に立ちがちです。
本記事では、
「セミナー講師を無難に務めるにはどうすればいいのか」
この一点に絞って、実務の現場から整理していきます。
2.「無難」であることは、むしろ最適解である
最初に結論からお伝えします。
セミナー講師を無難に務めるために、
特別な話術や完成度の高い構成は必要ありません。
必要なのは、ただ一つです。
日々の実務で当たり前にやっていることを、
当たり前の言葉で、落ち着いて話すこと
これだけで、
セミナーとしては十分に成立します。
3.大学講義・予備校講師モデルの思い込み
多くの士業・専門家が、
無意識のうちに次のイメージを持っています。
- 大学の講義のように専門的であるべき
- 資格予備校の講師のように流暢であるべき
確かに、
大学教授や資格予備校の講師は「教えるプロ」です。
しかし、
一般的なセミナーや研修において、
そこまでの完成度は求められていません。
このイメージに引きずられることで、
- 話が難しくなりすぎる
- 本来伝えるべき実務ポイントがぼやける
- 話す側も聴く方もが疲れてしまう
といったズレが生じやすくなります。
4.参加者が本当に求めているもの
では、
セミナー参加者は何を求めているのでしょうか。
多くの場合、答えはシンプルです。
- 自分でやるときの判断基準
- 迷ったときに立ち戻れる考え方
- 「それでいいんだ」と確認できる材料
つまり、
マニアックな専門知識ではありません。
契約書のセミナーを例にすると、
専門家にとっては日常すぎて意識しない話があります。
- 契約書の製本の考え方
- 印紙の扱い方
- 捨印・契印・割印の違い
これらは、
参加者にとって「ずっと曖昧だったこと」です。
なお、本記事では、
一般の方向けに行うセミナーを主な前提として書いています。
もっとも、
私自身はこれまで、行政書士会をはじめとする
専門家・同業者向けの団体で講義をさせていただいた経験も、過去に何度もあります。
そうした場では、
当然ながら切り口や前提は多少変わります。
ただ、
コンテンツを作る際の考え方そのものが大きく変わるかというと、実はそうではありません。
- 受講者がどこで迷っているのか
- どこを曖昧なまま処理しているのか
- 「そこが知りたかった」と感じるポイントはどこか
このあたりを見極めるという意味では、
一般向けであっても、専門家向けであっても、
講義の設計思想自体はほぼ共通だと感じています。
5.アンケートが示す評価ポイント
実際に私自身のセミナー後のアンケートを見ると、
評価されているのは次のような点でした。
「製本テープを貼るのはマストではない、という話は目から鱗でした」
「印紙の扱いがよく理解できて、これまでの不安が解消されました」
「捨印・契印・割印の違いが分かって、頭の中がスッキリしました」
いずれも、
高度な法律論ではありません。
しかし、
実務の現場では確実に役に立つ知識です。
専門家にとっての「当たり前」が、
参加者にとっては「価値」になる。
このズレこそが、セミナーで価値が生まれるポイントです。
6.正直、少し拍子抜けした話
実は、
私自身も最初に講師を依頼されたときは、
少なからず身構えていました。
「専門家として、
ある程度きちんとした話をしなければならないのではないか」
そんな意識で、
多少なりとも力を入れて準備をしていた記憶があります。
ところが、
実際にセミナーを終えてアンケートを読んでみると、
そこに並んでいたのは、
想像していたものとは少し違う反応でした。
正直なところ、
少し拍子抜けした、というのが本音です。
「え、そこ?」
「そんな初歩的な話で、こんなに感想をもらえるのか」
いい意味で、
「ああ、こんなものでよかったんだな」
と肩の力が抜けた瞬間でもありました。
7.受講者は理論を聴きに来ているわけではない
よく考えてみれば、
受講者は契約法の理論を聴きに来ているわけではありません。
学説や条文解釈を深く知りたいのであれば、
書籍や専門講座があります。
そうではなく、
日頃、自分の手で触っている「契約書」について、
- これで合っているのか
- どう考えればいいのか
- 何を基準に判断すればいいのか
そうした実務の知見を深めたいから、
セミナーに足を運んでいるのだと思います。
であれば、
やるべきことはシンプルです。
受講者のニーズに沿った講義をする
それだけで、
講義としては十分に価値のあるものになります。
8.「こんな話、意味があるのか?」という不安
よく聞く言葉があります。
「こんな当たり前の話をしても、誰も興味ないんじゃないですか?」
しかし、
この感覚こそが最大の落とし穴です。
当たり前だからこそ、
その価値に気づきにくい。
しかし実際には、
当たり前を当たり前として説明できる人は多くありません。
9.主催者に聞くことは準備の一部
テーマに迷ったときは、
主催者に率直に聞くのが最も確実です。
- どんな参加者が来ますか
- どこで困っていますか
- この話題はニーズがありますか
これは決して逃げではありません。
セミナーを成功させるための準備です。
多くの主催者が求めているのは、
「専門家が普段どう考えているのか」という視点です。
10.まとめ
セミナー講師というと、
「何か特別なことを話さなければ」と思いがちです。
しかし実務の現場では、
普段やっていることを、
普段どおりに、分かりやすく話す
この姿勢こそが評価されます。
無難であることは、手抜きでも妥協でもありません。
専門家の価値は、
知識を持っていることではなく、
それを他人に伝えられることにあるのではないでしょうか。
セミナー講師という役割は、
その力を試される場でもあります。
日々の実務を振り返り、
当たり前を言葉にする。
それ自体が、
専門家としての信頼を積み上げていく作業なのだと思いつつ、
私自身も取り組んでいます。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










この記事へのコメントはありません。