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【契約書のトリセツ】契約書のひな形はどうカスタマイズする?ーレゴブロック方式で考える実務のコツ

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

ビジネスの現場で契約書を作るとき、1条から20条までを毎回ゼロから書き起こす、
ということはあまりありません。
多くの場合は、市販のひな形や過去の契約書、専門書の例文などをベースにして、
そこから必要な修正を加えていきます。

これは専門家でも同じです。
私自身も、契約書を作るときに白紙から全文を作文することは、基本的にはありません。

もっとも、ここで多くの方がつまずきます。

「ひな形をベースにすればよい」と聞くと、一見簡単そうですが、
実際にはカスタマイズのやり方を誤ると、
自社に不利な契約書になったり、相手に不要な警戒心を与えたり、
あるいは見た目は整っているのに中身がちぐはぐな契約書になってしまうことがあります。

特に現在は、インターネット上に大量のひな形があり、
さらに生成AIを使えばもっともらしい条文もすぐ出てくる時代です。
その分、「それっぽい契約書」は作りやすくなりましたが、
「実務に合った契約書」を作る難しさは、むしろ増しているとも言えます。

今回は、契約書の専門家として日々実務で行っている考え方をもとに、
契約書のひな形をどうカスタマイズすればよいのかを整理してみたいと思います。


2. 契約書のひな形は、どうカスタマイズすればいいのか?

契約書の相談を受けると、よくいただく質問があります。

「契約書のひな形って、どうやって直していくんですか?」

これはもっともな疑問です。
契約書は独特の言い回しが多く、初めて触れる方にとっては、どこを触ればいいのか、
どこを変えてはいけないのかが分かりにくいものです。

しかも契約書は単なる文章ではありません。
書き方一つで、誰に有利か、誰が責任を負うか、トラブル時に何が請求できるかが変わってきます。

そのため、「ひな形を直せばいい」と言われても、その直し方が分からない、という状況になりがちです。

ここで大事なのは、契約書を単なる文章ではなく、取引の設計図として見ることです。


3. 契約書のカスタマイズは「レゴブロック方式」で考える

契約書のカスタマイズを一言で説明すると、レゴブロック方式です。

契約書は、「土台」と「条文」を組み合わせて作られています。

まず、どの契約書にも比較的共通して登場する条項があります。
例えば契約期間、契約解除、秘密保持、反社会的勢力排除、準拠法、合意管轄などです。
これらは多くの契約書で使われるため、一般条項と呼ばれます。
レゴブロックで言えば、これは「台座」の部分です。

その上に、契約の種類ごとの条項が積み上がります。
例えば業務委託契約なら、業務内容、報酬、成果物、知的財産権。
売買契約なら、商品、納期、検査、契約不適合責任といった条項です。

つまり契約書は
台座(一般条項)+ブロック(個別条項)
で構成されています。

このイメージで考えると、契約書のカスタマイズが非常に理解しやすくなります。


4. ネットのひな形をそのまま使うと危険な理由

契約書の相談で、本当によくあるケースがあります。

「ネットの契約書を少し直して作りました」

一見問題なさそうですが、実際に拝見すると、
売主なのに買主有利の契約書、受託者なのに委託者有利の契約書
になっていることが少なくありません。

なぜこうなるのでしょうか。

契約書のひな形は、実務的には

  • お金を受け取る側に寄ったもの
  • お金を支払う側に寄ったもの

という2つの方向性に分かれることが多いからです。

ところがネット上のひな形には、その前提が書かれていないことがよくあります。
その結果、「よくできている契約書だ」と思って使ったものが、
実は相手に有利な契約書ということが起こります。

これは実務では非常によくある問題です。


5. 契約書は文章ではなく「取引設計」である

契約書をカスタマイズする際に重要なのは、誰に有利な設計かという視点です。

契約書は文章ですが、実態はいわば取引の設計図です。

例えば、検収のタイミング、報酬発生のタイミング、損害賠償の上限、契約解除の条件。
これらはすべてビジネスのルールです。

契約書のカスタマイズとは、言い換えれば取引のルール設計なのです。


6. 私が契約書を作るときのプロセス

私が契約書を作るときは、まずヒアリングから始めます。
このとき、なるべくひな形を見ないようにしています。

理由は単純です。
ひな形を見ると「こういう契約書の形だろう」「この条項は必要だろう」という先入観が生まれるからです。

企業法務時代、先輩からよく言われた言葉があります。

「先入観を持たずに話を聞け」

法務の役割は契約書を書くことではありません。
会社のビジネスを前に進めることです。
契約書の型にビジネスを合わせるのではなく、ビジネスに契約書を合わせる。この順序が重要です。

ヒアリングが終わると、最低3種類ほどのひな形を集めます。
その中からベースとなる契約書と参考にする契約書を決め、必要な条項を組み合わせていきます。


7. レゴブロック方式の3つの注意点

契約書をカスタマイズするときには、いくつか注意点があります。

① 甲・乙を逆にしない

これは非常に多いミスです。
契約書によって「甲=売主」「乙=買主」だったり、その逆だったりします。
他の契約書から条文を持ってくるとき、そのまま貼り付けると立場が逆転することがあります。

■根本的な解決策:「甲・乙」を使わない

近年の契約書実務では、そもそも甲・乙を使わないという考え方も増えています。
例えば「委託者・受託者」「売主・買主」といった役割名をそのまま使う方法です。

この方法には、立場の誤認防止と読みやすさ向上というメリットがあります。
契約書は当事者同士が約束を確認するための文書です。
その意味では、読みやすい契約書の方が合理的と言えます。

② 条項のボリュームバランス

例えば、他の条文が3行なのに損害賠償条文だけ15行、という契約書だとそこだけ悪目立ちします。
結果として契約交渉が難航することがあります。
契約書はスムーズに締結できることも重要です。
そのため条項のバランスにも注意する必要があります。

③ 文言の不統一

契約書を複数のひな形から作ると、「本契約」「この契約」が混在したり、
「及び」「および」が混ざることがあります。
こうした不統一は切り貼りした契約書という印象を与えます。
最後に必ず文言を統一する作業が必要です。


8. AIが作った条文の危険性(2026年版)

最近は生成AIを使って契約条文を作るケースも増えています。
AIは文章生成が非常に得意ですが、注意が必要です。

AIは文章を整えることは得意ですが、取引の力関係や実務判断までは自動では行いません。
例えば売主有利にしたいのに中立条文を出力することがあります。

また、解除条項・損害賠償条項・検収条項などの整合性も自動では保証されません。

AIは便利な条文候補ですが、そのまま使えるとは限りません。
必ず「この条文は誰に有利か」を人間が確認する必要があります。


9. まとめ

契約書のカスタマイズのポイントは次の通りです。

  1. 信頼できるひな形をベースにする
  2. レゴブロック方式で条文を組み合わせる
  3. 甲乙逆転・条文バランス・文言統一に注意する

そして今の時代は、

  • 役割名表記という契約書設計
  • AI条文の適切な使い方

も重要になっています。

契約書とは、取引の解像度を上げるツールです。
誰が何をするのか、誰がどこまで責任を負うのか。その輪郭をはっきりさせることで、ビジネスは前に進みます。

契約書を作ることは、単なる書類作成ではありません。
ビジネスを整理する作業でもあるのです。


【音声解説】

本記事の内容は、
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【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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