ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.はじめに
- 2.再委託とは?
- 3.再委託で委託者が抱える3つのリスク
- 4.再委託が問題になりやすい具体例7選(委託者の立場から)
- 5.再委託に関する契約条項の4パターン(委託者視点)
- 6.再委託の可否を判断するための社内チェックポイント(委託者用)
- ✍️ 再委託を認める場合の取引基本契約等での追加条文例
- 7.まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.はじめに
業務を外部に委託する際、「その仕事、さらに他の誰かに任せていいの?」という【再委託】の問題は、見落とされがちですがトラブルの火種になりやすいポイントです。
委託先(下請先)がさらに別の会社や個人に業務を回すこと(再委託)について、ルールをきちんと決めておかないと、品質の低下、情報漏洩、説明責任の所在不明など、想定外のリスクが発生しかねません。
この記事では、委託者の立場から「なぜ再委託を制限すべきなのか」、そしてその対策として「契約書にどう落とし込めばよいのか」を具体例とともにわかりやすく解説します。
2.再委託とは?
再委託とは、受託者(仕事を請け負った側)が、その業務の全部または一部をさらに他の第三者に任せることを指します。
ここで言う「第三者」は、契約当事者ではない“その他大勢”であり、委託者が直接関係を持っていない人や会社のことです。
たとえば…
- 委託者【契約当事者】:あなた(発注者)
- 受託者【契約当事者】:A社(請負業者)
- 再委託先【第三者】:A社が勝手に使ったB社やフリーランス
といった構図になります。
3.再委託で委託者が抱える3つのリスク
1. 品質・納期の管理が困難に
知らない相手が実作業を担うことで、委託者が求める品質や納期感覚とのズレが発生します。
2. 情報漏洩・契約違反の可能性
秘密保持義務や個人情報保護などの重要な約束が、再委託先に共有されていないと、大きなリスクにつながります。
3. 説明責任の所在が不明確に
責任の所在が曖昧になり「誰がやったの?」「なぜこうなったの?」ということをきっかけとしたトラブルが発生することもままあります。
4.再委託が問題になりやすい具体例7選(委託者の立場から)
①【建設業】店舗の改修工事を一括発注
商業施設の内装工事一式を施工会社に依頼。
電気・防水工事が下請会社に再委託され、要望が伝わっておらずトラブルに。安全配慮不足も発覚し、施主から説明責任を追及される。
②【製造業】部品加工を依頼したら
金属部品の加工を委託したところ、納期を優先して別の町工場に一部を再委託。
品質基準にズレがあり、製品全体の組み立てに支障が出てしまった。
③【建築設計】図面作成の構造部分を外部へ
設計事務所に意匠設計を依頼。構造計算だけが外部の設計士に再委託されていた。
現場との調整不足により、大幅な手戻りと施主への説明が必要に。
④【教育業】講座運営を一括委託
オンライン講座の運営サポートを委託したが、教材作成や質疑応答まで別会社に再委託されていた。
内容にバラつきがあり、受講者の満足度が著しく低下。
⑤【出版・編集】インタビュー記事の制作
編集プロダクションに雑誌記事の制作を委託。
実際の取材は面識のない外部ライターが対応し、対応の齟齬がクレームに発展。
⑥【Web制作】企業サイトのリニューアル
Web制作会社に全面刷新を依頼。
コーディングだけが海外の下請企業に流れており、セキュリティ基準に違反。顧客情報の取扱いで問題化。
⑦【展示会運営】イベント設営の外注
展示会ブースの設営業務を業者に依頼。
現場作業を再委託されたアルバイトが担当し、設営ミスが頻発。自社ブランドの信用にも悪影響が。
5.再委託に関する契約条項の4パターン(委託者視点)
| パターン | 説明 | 条文例(抜粋) |
|---|---|---|
| ❌【原則禁止】 | 再委託を一切認めない。例外なく受託者の責任で完結させる。 | 受託者は、業務の全部または一部を第三者に委託してはならない。 |
| 📝【承諾制】 | 委託者の書面による事前承諾が必要。リスク管理を優先する場合。 | 再委託を行う場合、あらかじめ委託者の書面による承諾を得なければならない。 |
| 📢【通知制】 | 再委託の際に委託者への通知義務を課す。承諾よりもやや緩やか。 | 再委託を行う場合、その旨を速やかに委託者に通知するものとする。 |
| ✅【全面自由】 | 自由に再委託可。ただし責任は受託者が負う。 | 受託者は自己の裁量で再委託できる。ただし、本契約に基づく一切の責任は受託者が負うものとする。 |
※【承諾性】において、毎回「書面による承諾」とするのはハードルが高いため、電子メール等、電磁的方法による承諾でもOKと定める工夫も効果的です。
6.再委託の可否を判断するための社内チェックポイント(委託者用)
- 外注する業務に秘密情報は含まれるか?
- 委託先による再委託先の選定に客観的な基準はあるか?
- 再委託されると品質や納期に影響する恐れがあるか?
- 委託者として、最終的に誰に責任を問うことになるか?
- 再委託先にも秘密保持契約(NDA)を義務づけているか?
✍️ 再委託を認める場合の取引基本契約等での追加条文例
再委託を認める場合には、取引基本契約書などにあらかじめ次のような条文を盛り込んでおくと、リスクを軽減することができます。
再委託を行う場合、受託者は、再委託先との間で、委託者との本契約における義務と同等の水準の秘密保持義務および品質管理措置を講じるものとする。
また、再委託先の行為についても、受託者が一切の責任を負う。
7.まとめ
再委託の責任は、たとえ実作業を他者が行ったとしても、契約上は元の受託者が履行補助者として最終責任を負うというのが民法上の考え方です(民法644条など参照)。
とはいえ、「それくらい常識でしょ」という“当たり前”を、契約書に明記していないことで揉めるケースは後を絶ちません。
📌 事前に契約でルールを確認する
📌 丁寧な説明と信頼関係を意識する
📌 自分の責任でしっかり品質管理をする
📌 「言わなくても分かるだろう」は通じないのが契約の世界。ルールは、明文化してこそいざという時の責任追及の際の根拠となる
トラブルが起きてから慌てるより、
起きないように備えておく――それが契約実務の基本です。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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