ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
居酒屋で席に着いたとたん、まだ何も注文していないのに小鉢料理が出てきた──
そう、「お通し」です。
これって…断れるの?
そもそも、お金は払わなきゃいけないの?
「ちょっとした常識」だと思っていたことの中に、実は契約の本質が潜んでいるのです!
契約ってどうやって成立するの?
まずは、契約の“そもそも”から。
法律上、契約はたった2つの要素(往復のコミュニケーション)がそろえば成立します。
それが、
- 「申込」
- 「承諾」
です。
「申込」とは?
「こういう条件で契約しませんか?」という提案やオファーのことです。
たとえば:
- 「このビール、1杯500円でどうですか」
- 「このお通しは330円になります」
のように、取引条件を明示して提示することが「申込み」にあたります。
「承諾」とは?
「その条件でOKです!」という同意の意思表示です。
たとえば:
- 「ください」と返事する
- 自ら手に取って使い始める
- 料理を食べる
なども含めて、明示でも黙示でも、合意が示されていれば承諾となります。
このように、申込みと承諾がピタッと合えば、契約はその時点で成立します(民法第522条)。
「黙示の契約」って何?
実際の生活では、契約を「口頭で交わす」「紙で交わす」だけではなく、
言葉にしなくても、行動や態度で成立してしまう契約もあります。
これを「黙示の契約(黙示の承諾)」といいます。
たとえば:
- お店が「お通しは330円です」と書いてある
- 料理を出されたお客さんが、それを食べる
→ この時点で、「提示された条件に対して、黙って承諾した」とみなされ、契約が成立する可能性があります。
ただし、黙示の契約が成立するには一定の前提が必要です▼
- 提示する側(店など)が「金額」「条件」を明示していること
- 受け取る側(客など)が、それを認識したうえで受け取っていること
この2つが揃って、はじめて“黙示の合意”と評価されるのです。
「断る自由」も「断られる自由」もある
では、「お通しはいりません」と言えば断れるのでしょうか?
答えは──YESです。
契約は合意がなければ成立しないものですから、事前に断っていれば契約は成立しません。
ただし、注意点もあります。
たとえば、店側が「お通し込みでのサービス提供が前提」と考えている場合、
- 「お通し不要なら入店をお断りする」
とすることも、契約締結の自由の一部として認められます。
つまり──
- 客には“断る自由”があり、
- 店には“契約条件を設定する自由”がある。
どちらかが一方的に不当というわけではなく、
「合意が成立するかどうかは、双方の意思に委ねられている」というのが、契約の原則です。
お通しだけじゃない!
実は、日常には他にも“黙示の契約”がたくさんあります。
① コインパーキングに車を停めると…
看板に「20分200円」と書いてあるコインパーキングに車を入れたら、何も言わなくても契約が成立します。
- オーナーが「停めたら料金かかりますよ」と条件を明示
- 利用者がそれを見たうえで利用開始
→ これで、黙示の契約が成立していると考えられます。
② 自販機でジュースを買うと…
自動販売機に「コーヒー 130円」と表示されていて、お金を入れてボタンを押す。
このときも、契約が成立します。
- 金額や条件の明示(申込み)
- 購入ボタンを押すという行動(承諾)
という流れで、やはり黙示の契約が成立しているのです。
③ ロッカーの利用なども…
駅のコインロッカーやコワーキングスペースのように、
- 「1時間500円」と掲示されている場所で
- 特に店員がいなくても、使い始めたら自動で課金が発生する
こうしたケースも、条件明示 × 利用行為によって、契約が成立していると考えられます。
「文化」と「契約」は別のもの
「お通し」は、本来おもてなしの文化として発展してきた背景があります。
でも、文化としての慣習が、そのまま契約の成立につながるわけではありません。
「当然出すものだから」「みんな払っているから」ではなく、
相手に「金額」「条件」をきちんと説明したうえで、納得してもらう。
これが、契約の世界ではとても大切です。
まとめ:契約の基本に立ち返ってみよう
「申込」と「承諾」──
これが契約のスタートラインです。
そして、たとえ書面がなくても、
たとえ何も言わなくても、
あなたがした“ちょっとした行動”が、契約として評価されることもあります。
だからこそ、お互いに納得してはじめて、いい取引ができるのです。
この一皿、ただの小鉢では終わらないかも──
そんな視点で、今日の「お通し」も味わってみてくださいね。
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