ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
「再委託は禁止」と契約書に書かれているとき、
「え、実績のある信頼できる仲間にお願いするだけなんだけど…」
「むしろその方がクオリティもスピードも上がるし」
そんなふうに感じたこと、ありませんか?
でも、発注者(委託者)側から見た景色は、少し違うのです。
再委託って?
再委託とは、請け負った業務(=任された仕事)を、さらに別の人や会社に外注すること(まかせること)です。
たとえば──
①【建設業】職人が足りない現場
複数現場が重なり、塗装工事や電気工事の専門職人が確保できない。
技術力のある協力会社にスポットで依頼せざるを得ない場面は日常茶飯事。
②【Web制作】短納期案件に対応するため
クライアントの希望で「1ヶ月でリリースしたい」という無理のあるスケジュール。
社内メンバーだけでは到底間に合わず、外部の信頼できるコーダーに再委託して対応。
③【映像制作】編集部分だけプロに任せたい
映像の撮影は自社でできても、テロップやBGM編集は専門業者の方がクオリティが高い。
技術的・効率的な理由から再委託を選ぶケース。
④【出版・編集】繁忙期の原稿制作
案件が重なるタイミングで、ライティングの一部を外注ライターにお願い。
品質はチェックする前提だが、社内工数を減らすには必要な判断。
⑤【教育業・研修】一部講師を外部登壇者に
研修企画は受託したが、特定分野は専門の講師に登壇してもらうことで受講者満足度が上がる。
元請けには伝えているが、形式上は“再委託”にあたる。
⑥【システム開発】インフラ部分を専門業者に
アプリケーションは自社開発可能でも、AWSやセキュリティ周りは専門ベンダーに頼らざるを得ない。
プロジェクトの成功のために再委託が最善というケースも。
⑦【建築設計】構造設計を外部に依頼
意匠設計まではできるが、構造計算は別の専門設計事務所に任せた方が精度が高い。
施主にも結果的に利益になる形として、再委託を活用。
これらとき、「外部のパートナー」は契約の当事者ではない=「第三者」にあたり、これが「再委託」に該当します。
※契約上の「第三者」とは、契約の当事者(甲・乙)ではない“その他の関係者”。
発注者(委託者)側からすると「知らないアカの他人が勝手に関わっている」状態になるため、注意を払う必要があるのです。
なぜ再委託を制限する契約が多いの?
受託者(=仕事を請け負った側)からすれば、「きちんと納品すれば誰がやっても問題ない」と思うかもしれません。
しかし、委託者にとっては、「想定していない相手が勝手に業務をしていた」だけで不安を感じることも。
たとえば──
- 期待したクオリティが保てるのか?
- 機密情報が流出しないか?
- 連絡はきちんと取れるのか?
- 万が一トラブルが起きたら、誰が責任を取るのか?
つまり、「信頼していたあなたが、仕事を他人に渡していた」こと自体が問題になるのです。
よくある再委託条項4パターン(受託者視点)
以下は、契約書でよく見られる「再委託に関するルール」の4パターンを、
受託者の立場で整理した表です。
区分 | 契約上のスタンス(受託者視点) | 主な特徴(受託者視点) | 注意ポイント |
---|---|---|---|
完全禁止型 | ❌ 絶対ダメ。自分で全部やらないといけない | 外注できない。自社または自分だけで対応 | やむを得ない場合は必ず事前相談を |
承諾制型 | ✅ 承諾をもらえばOK。でも手続きが必要 | 外注したい場合は許可を取る必要あり | 説明資料や体制図を添えるとスムーズ |
通知制型 | ⚠️ 事前に伝えればOK。レスポンス不要 | 承諾はいらないが、事前通知が必要 | タイミングと内容を簡潔にまとめて共有 |
自由型 | 🔓 誰に任せても自由。でも責任は自分 | 外注は自由だが、納品責任は自分が負う | 秘密保持・品質管理・説明力が問われる |
「書面による承諾」が求められていたら…
契約書の中には「再委託には書面による承諾が必要」と書かれていることもあります。
とはいえ、紙に印鑑を押して提出しなければいけない…というわけではありません。
▼補足:
実務上は「メールやチャットなどの電磁的方法でのやり取り」を“書面”に含めるケースが一般的です。
契約文言も「書面(電磁的方法を含む)」と明記しておくと、双方にとって柔軟な運用がしやすくなります。
実務アドバイス(受託者向け)
✅ 勝手に再委託して、あとから指摘されるのが一番まずい!
- 発注者は「あなた自身がやる」と思って依頼しています。
- 「そんなの聞いてなかった」と言われた瞬間、信頼がガタ落ちに。
👉 対応策:
「再委託予定です。理由は〇〇で、品質は当方が責任を持ちます」など、
事前に軽く伝えておくだけでも誠実さが伝わります。
✅ 「再委託=手抜き」と思われない工夫を
- 外注=体制強化だと納得してもらう工夫が大事。
- 「チームで動くことで、より高品質かつスピーディに対応できます」という視点を伝えよう。
🔸活用したい資料:
- チーム体制図(統括:自分、実務:外注先)
- 同じ体制で納品した実績
- 品質管理フロー(レビュー・Wチェックなど)
✅ 秘密保持の意識も忘れずに
- 再委託先にもNDA(秘密保持契約)を結んでおくのが基本。
- そして、発注者にも「再委託先とNDAを締結しています」と伝えるだけでも信頼感アップ!
再委託チェックリスト(受託者向け)
項目 | ✔️ 確認済 | メモ・補足 |
---|---|---|
契約書に再委託条項があるか? | ☐ | |
条項の型を把握しているか?(禁止/承諾/通知/自由) | ☐ | |
外注の必要性と理由を整理したか? | ☐ | |
発注者への事前説明をしたか? | ☐ | |
外注先の実績や信頼性は確認済みか? | ☐ | |
チェック体制・品質管理方法を整えているか? | ☐ | |
NDAを外注先と結んでいるか? | ☐ | |
NDAの存在を発注者にも伝えたか? | ☐ |
再委託の事前承諾メール例(承諾制型)
件名:再委託に関する事前承諾のお願い
◯◯株式会社 △△様
いつも大変お世話になっております。□□(自社名)の△△です。
このたび、貴社よりご依頼いただいております業務の一部について、以下の通り信頼できる協力者に再委託を予定しております。
・対象業務:◯◯
・再委託先:▲▲(氏名または会社名)
・体制:当方が統括・品質管理を担います(Wチェック体制あり)
・秘密保持:再委託先とも秘密保持契約を締結済です
つきましては、事前にご承諾をいただけますようお願い申し上げます。
ご不明点等ございましたら、お手数ですがご連絡ください。
再委託先との「下請契約」も忘れずに
信頼できる外注先にお願いするとはいえ、口約束だけで進めてしまうのはトラブルのもと。
再委託先との契約が不十分だと、自分だけが責任をかぶるリスクがあります。
✅ なぜ必要?
- 発注者とは業務委託契約を結んでいるが、再委託先とは何も取り決めがないと…
→ 作業ミス・納期遅延・情報漏洩が起きたとき、外注先に責任を問えない場合も! - 「再委託先の落ち度であっても、委託者への責任はあなたが負う」という構造を忘れずに。
✅ 取り決めておくべきポイント
項目 | 内容 |
---|---|
契約の形式 | 請負契約 or 準委任契約 or 請負・準委任混合契約(内容・成果物次第) |
範囲 | 何をどこまで再委託するか、明確に記載 |
納期/品質基準/契約不適合 | あなたが委託者と結んだ条件よりも「厳しめ」に設定するのが基本 |
責任範囲 | トラブル発生時の損害賠償責任の有無・上限 |
秘密保持 | 発注者とのNDA内容を反映(同等以上) |
再々委託の可否 | 原則禁止にするのが無難 |
まとめ
再委託は、あなたにとっては“より良い成果”のための自然な選択かもしれません。
しかし、発注者にとっては「知らない人が関わっている」こと自体がリスクになりえます(コンプライアンスに厳しい会社ならなおさら)。
だからこそ大切なのは――
📌 事前に契約でルールを確認する
📌 丁寧な説明と信頼関係を意識する
📌 自分の責任でしっかり品質管理をする
確認・意識・管理の積み重ねが、大きな信頼を育てていきます。
ご質問受付中!
足下を固め、自分自身を守り、そして、「成し遂げたいこと」や「夢」の実現に近づけるための契約知識について、このブログや、音声配信「契約書に強くなる!ラジオ」でお伝えしていきますので、今後ともご期待、ご支援いただければ幸いです。
「こんなことに困っている!」など、契約書に関するご質問がありましたら、ブログ等で可能な限りお応えしますので、上記「お問い合わせ」より、お気軽にお寄せください。
また、商工会議所などの公的機関や、起業支援機関(あるいは各種専門学校)のご担当者で、
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最後まで、お読みくださりありがとうございました。
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