ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約書に押してもらうハンコは何が正解?「押してもらう側」の視点で考える

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1. はじめに

契約「書」の話になると、

  • 「実印じゃないとダメですか?」
  • 「認印でも大丈夫ですか?」
  • 「シャチハタは使えませんよね?」

といった質問をよく受けます。

これらは一見、印鑑の種類の問題のように見えますが、
実は本質はそこではありません。

この記事では、
契約書を作成し、相手にハンコを押してもらう側の立場に立って、

  • どの印鑑を求めるべきか
  • 個人と法人で何が違うのか
  • なぜ実印が「望ましい」と言われるのか

を、実務目線で整理します。


2. 相手に押してもらうハンコは「実印」でなければならない?

契約書を用意する側になると、
必ず一度はこの疑問に直面します。

  • 実印+印鑑証明書を求めるべき?
  • 認印では弱い?
  • 求めすぎると相手に失礼では?

判断を誤ると、

  • 契約締結が遅れる
  • 相手との関係がギクシャクする
  • 後で「誰が契約したのか」で揉める

といった事態につながります。


3. 法律上は認印で足りる。実印は「リスク管理」のためにある

まず結論を整理します。

  • 契約の有効性だけを見れば、認印で足ります
  • 実印でなければ契約が無効ということはありません

一方で、

  • トラブル時に「誰が契約したのか」を明確にする
  • 相手の言い逃れを防ぐ

という観点では、
実印+印鑑証明書が非常に強力です。

つまり、

実印が必要なのは「法律上」ではなく「リスク管理上」

という整理になります。


4. 実務で起きがちなズレ

現場では、次のような判断ミスがよく見られます。

  • すべての契約で一律に「実印必須」としてしまう
  • 相手との関係性や契約の重みを考えていない
  • 逆に、軽く考えすぎて確認を一切しない

結果として、

  • 契約が進まない
  • 不信感を持たれる
  • 後から「誰が押したか」で争いになる

という事態が起きます。


5. 印鑑の役割は「契約を成立させる」ことではない

ここが最も重要なポイントです。

契約は、

  • 当事者の意思の合致(合意)

によって成立します。

契約書や印鑑は、その合意を

後から証明するための手段

にすぎません。

だからこそ、

  • どの印鑑か
    よりも
  • どこまで証明力が必要か

が判断軸になります。


6. 「印章」「印影」「印鑑」の整理

ここで一度、用語を整理します。

印章

いわゆるハンコの本体そのものを指します。

印影

印章を押した結果、紙の上に残る朱肉の跡です。

印鑑

押された印影のうち、

  • 市区町村で印鑑登録されているもの(実印)
  • 金融機関に届け出ている銀行印

など、登録された印影を指します。

すべての印影が「印鑑」になるわけではありません。


7. いわゆる「シャチハタ」の位置づけ

いわゆる「シャチハタ」は、

  • 朱肉を使わない
  • ゴム製の印面

という性質から、
実務上はゴム印扱いとされることが多いようです。

法律上、
いわゆる「シャチハタ」だから即無効になるわけではありません。

ただし、

  • 普段使い
  • 複製が容易

という理由から、
証拠力が弱いとされ、契約書では避けられるのが通常です。

なお、よく誤解されがちですが、
契約書の証拠力は「印鑑の種類」だけで決まるものではありません。

一般論としては、
本人が自らの意思で契約内容を確認し、
署名(自署)をしていれば、
それ自体で証拠としては足りると整理されることも多いです。

この点からすると、いわゆる「シャチハタ」だから直ちに無効になる、
という理解は正確ではありません。

ただし、
誰がどのような意思で署名・押印したのかが争われた場合、
実務上は「署名+実印」といった形が、
後日の紛争予防という観点では安全に働くことが多い、
というのが実務感覚です。


8. 【個人の場合】相手が個人のときの判断基準

原則|認印でも契約は成立する

相手が個人の場合、

  • 認印
  • 市販の一般的な印章

であっても、
本人の意思で押されていれば契約は有効です。

日常的な取引や、
金額が小さい契約であれば、
無理に実印を求める必要はありません。

実印を検討すべきケース

次のような場合は、
実印+印鑑証明書を求める合理性があります。

  • 契約金額が大きい
  • 長期間にわたる契約
  • 解約・違約金の影響が大きい

印鑑証明書があれば、

  • 本人確認
  • 住所の特定

ができ、
後日の紛争リスクを大きく下げられます。


9. 【法人の場合】相手が法人のときの判断基準

法人でも認印で契約は成立する

法人契約でも、実印でなければ無効
ということはありません。

法人契約で本当に重要なのは「誰の意思か」

法人の場合、問題になるのは、

  • 本当にその会社の契約なのか
  • 代表者の意思なのか
  • 権限のある人が締結しているのか

という点です。

実印+印鑑証明書の意味

法人の実印と印鑑証明書があれば、

  • 会社の正式名称
  • 本店所在地
  • 代表者

を客観的に確認できます。

また、

「そんな契約は知らない」
「担当者が勝手にやった」

という主張は、
非常に通りにくくなります。


10. まとめ

最後に整理します。

個人が相手の場合

  • 小規模・短期:認印で十分
  • 高額・長期:実印+印鑑証明書を検討

法人が相手の場合

  • 発注書・見積書:認印(角印)でも可
  • 継続・重要契約:実印+印鑑証明書が安全

重要なのは、

どの印鑑かではなく、
この契約で将来どんなトラブルが起き得るか

を想像することといえます。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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