ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. 相手に押してもらうハンコは「実印」でなければならない?
- 3. 法律上は認印で足りる。実印は「リスク管理」のためにある
- 4. 実務で起きがちなズレ
- 5. 印鑑の役割は「契約を成立させる」ことではない
- 6. 「印章」「印影」「印鑑」の整理
- 7. いわゆる「シャチハタ」の位置づけ
- 8. 【個人の場合】相手が個人のときの判断基準
- 9. 【法人の場合】相手が法人のときの判断基準
- 10. まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
契約「書」の話になると、
- 「実印じゃないとダメですか?」
- 「認印でも大丈夫ですか?」
- 「シャチハタは使えませんよね?」
といった質問をよく受けます。
これらは一見、印鑑の種類の問題のように見えますが、
実は本質はそこではありません。
この記事では、
契約書を作成し、相手にハンコを押してもらう側の立場に立って、
- どの印鑑を求めるべきか
- 個人と法人で何が違うのか
- なぜ実印が「望ましい」と言われるのか
を、実務目線で整理します。
2. 相手に押してもらうハンコは「実印」でなければならない?
契約書を用意する側になると、
必ず一度はこの疑問に直面します。
- 実印+印鑑証明書を求めるべき?
- 認印では弱い?
- 求めすぎると相手に失礼では?
判断を誤ると、
- 契約締結が遅れる
- 相手との関係がギクシャクする
- 後で「誰が契約したのか」で揉める
といった事態につながります。
3. 法律上は認印で足りる。実印は「リスク管理」のためにある
まず結論を整理します。
- 契約の有効性だけを見れば、認印で足ります
- 実印でなければ契約が無効ということはありません
一方で、
- トラブル時に「誰が契約したのか」を明確にする
- 相手の言い逃れを防ぐ
という観点では、
実印+印鑑証明書が非常に強力です。
つまり、
実印が必要なのは「法律上」ではなく「リスク管理上」
という整理になります。
4. 実務で起きがちなズレ
現場では、次のような判断ミスがよく見られます。
- すべての契約で一律に「実印必須」としてしまう
- 相手との関係性や契約の重みを考えていない
- 逆に、軽く考えすぎて確認を一切しない
結果として、
- 契約が進まない
- 不信感を持たれる
- 後から「誰が押したか」で争いになる
という事態が起きます。
5. 印鑑の役割は「契約を成立させる」ことではない
ここが最も重要なポイントです。
契約は、
- 当事者の意思の合致(合意)
によって成立します。
契約書や印鑑は、その合意を
後から証明するための手段
にすぎません。
だからこそ、
- どの印鑑か
よりも - どこまで証明力が必要か
が判断軸になります。
6. 「印章」「印影」「印鑑」の整理
ここで一度、用語を整理します。
印章
いわゆるハンコの本体そのものを指します。
印影
印章を押した結果、紙の上に残る朱肉の跡です。
印鑑
押された印影のうち、
- 市区町村で印鑑登録されているもの(実印)
- 金融機関に届け出ている銀行印
など、登録された印影を指します。
すべての印影が「印鑑」になるわけではありません。
7. いわゆる「シャチハタ」の位置づけ
いわゆる「シャチハタ」は、
- 朱肉を使わない
- ゴム製の印面
という性質から、
実務上はゴム印扱いとされることが多いようです。
法律上、
いわゆる「シャチハタ」だから即無効になるわけではありません。
ただし、
- 普段使い
- 複製が容易
という理由から、
証拠力が弱いとされ、契約書では避けられるのが通常です。
なお、よく誤解されがちですが、
契約書の証拠力は「印鑑の種類」だけで決まるものではありません。一般論としては、
本人が自らの意思で契約内容を確認し、
署名(自署)をしていれば、
それ自体で証拠としては足りると整理されることも多いです。この点からすると、いわゆる「シャチハタ」だから直ちに無効になる、
という理解は正確ではありません。ただし、
誰がどのような意思で署名・押印したのかが争われた場合、
実務上は「署名+実印」といった形が、
後日の紛争予防という観点では安全に働くことが多い、
というのが実務感覚です。
8. 【個人の場合】相手が個人のときの判断基準
原則|認印でも契約は成立する
相手が個人の場合、
- 認印
- 市販の一般的な印章
であっても、
本人の意思で押されていれば契約は有効です。
日常的な取引や、
金額が小さい契約であれば、
無理に実印を求める必要はありません。
実印を検討すべきケース
次のような場合は、
実印+印鑑証明書を求める合理性があります。
- 契約金額が大きい
- 長期間にわたる契約
- 解約・違約金の影響が大きい
印鑑証明書があれば、
- 本人確認
- 住所の特定
ができ、
後日の紛争リスクを大きく下げられます。
9. 【法人の場合】相手が法人のときの判断基準
法人でも認印で契約は成立する
法人契約でも、実印でなければ無効
ということはありません。
法人契約で本当に重要なのは「誰の意思か」
法人の場合、問題になるのは、
- 本当にその会社の契約なのか
- 代表者の意思なのか
- 権限のある人が締結しているのか
という点です。
実印+印鑑証明書の意味
法人の実印と印鑑証明書があれば、
- 会社の正式名称
- 本店所在地
- 代表者
を客観的に確認できます。
また、
「そんな契約は知らない」
「担当者が勝手にやった」
という主張は、
非常に通りにくくなります。
10. まとめ
最後に整理します。
個人が相手の場合
- 小規模・短期:認印で十分
- 高額・長期:実印+印鑑証明書を検討
法人が相手の場合
- 発注書・見積書:認印(角印)でも可
- 継続・重要契約:実印+印鑑証明書が安全
重要なのは、
どの印鑑かではなく、
この契約で将来どんなトラブルが起き得るか
を想像することといえます。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。











この記事へのコメントはありません。