ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. 契約は「無視」で終わらない
- 3. 実務での対応ポイント
- 4. 契約書がない場合の注意点
- 5. 相手が“飛んだ”場合の限界
- 6. 初回取引では前払いしない
- 7. 契約書に入れておくべき解除条項(例)
- 8. まとめ
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
契約を進めている相手から、ある日を境に連絡が取れなくなった――。
電話も出ない、メールも返信なし。
そんなとき、「もう契約は終わった」と感じてしまうことがあります。
しかし、法律上は「無視された=契約終了」ではありません。
契約を正式に終了させるには、一定の要件と手続きが必要です。
今回は、
📘法律上どう整理されるのか、
💬現場ではどう動くのか、
💡次に同じ場面に出会ったときどう備えるか
という3つの視点で、“連絡が途絶えた契約”の扱いをわかりやすく解説します。
2. 契約は「無視」で終わらない
民法上、契約を終了させるためには**「解除の意思表示」**が必要です。
つまり、
「○○の理由により契約を解除します」と明確に通知する
という行為をしない限り、契約関係は継続しています。
ただし、実際の現場では、
- 発注が止まる
- 連絡が途絶える
- 協議を拒否される
といった状況により、契約の履行が事実上停止することがあります。
この状態は「終わった」ではなく、「停止中」と捉えるのが正確です。
3. 実務での対応ポイント
無視された場合の基本対応は、次の3ステップです。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 協議を求めた事実を記録する | 「○月○日に連絡したが応答なし」と残す |
| 2 | 内容証明で催告する | 届かなくても“送った事実”が証拠になる |
| 3 | 専門家に相談する | 弁護士・法テラスで対応方針を確認する |
この流れを踏んでおけば、
後日トラブルになっても「誠実に対応した」と評価されやすくなります。
4. 契約書がない場合の注意点
契約書がなくても、
メールや請求書、発注履歴などがあれば契約関係は認められます。
ただし、書面がないほど「言った・言わない」の争いが増えます。
最低限、次のような文面を残しておくことが大切です。
「本件について、○月○日納期、報酬○○円で依頼します。」
これだけでも“合意の存在”を示す証拠になります。
5. 相手が“飛んだ”場合の限界
相手が完全に連絡不能(いわゆる“飛んだ”)となった場合、
できることはかなり限られます。
- 電話・メールが不通
- 住所が不明で内容証明も届かない
- 裁判を起こしても送達先が不明
こうした場合、法的にも事実上「手続が止まる」状態です。
とはいえ、
- 連絡不能の経緯を記録する
- 最後に判明している住所へ内容証明を送る
- 専門家に相談して費用対効果を判断する
といった対応をしておけば、
「自分は誠実に対応した」という記録を残すことができます。
6. 初回取引では前払いしない
初回取引で前払いをすると、
相手が飛んだ瞬間に資金も証拠も失います。
訴訟で勝っても、相手が所在不明なら回収不能。
結果的に“泣き寝入り”になるケースが多いのが実情です。
そのため、初回は必ず以下のいずれかの方法を取りましょう。
- 納品確認後の後払い
- 着手金+納品時残金の分割払い
これだけでリスクは大幅に下がります。
7. 契約書に入れておくべき解除条項(例)
こうしたトラブルを防ぐには、
「連絡が取れない状態」自体を解除事由に明記することが有効です。
以下は、実務で使いやすい一般的な条文例です。
第◯条(契約の解除)
甲または乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当した場合には、書面または電磁的記録による通知により、本契約の全部または一部を解除することができる。
(1) 本契約に違反し、相当期間を定めて是正を求めたにもかかわらず、是正されないとき。
(2) 正当な理由なく、当事者間で合意した連絡手段(電子メール、チャットツール等)による連絡に応答せず、その状態が○日以上継続したとき。
(3) 支払停止、差押え、破産手続開始の申立てその他、信用不安の事由が生じたとき。
(4) 相手方が誠実な協議の求めに応じず、そのため契約の目的達成が著しく困難となったとき。
(5) その他、本契約を継続することが困難と認められる重大な事由が生じたとき。
8. まとめ
“無視されたら契約は終わり”ではありません。
連絡が取れない状況こそ、記録を残し、手続きを踏むことが大切です。
そして、契約書では「連絡不能」を解除事由に明記し、
初回取引では前払いを避ける――。
この二つを押さえるだけで、
トラブルの大半は未然に防ぐことができます。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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