ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.はじめに:「ちゃんと契約書作ってますか?」の前に考えてほしいこと
- 2.「契約書がない」より怖いのは、「ちゃんと話せていない」こと
- 3.合意形成は「相手と話す前に、自分と話すこと」から
- 4.自分の価値観を伝えることは、信頼の第一歩
- 5.契約書は「価値観のすり合わせの記録」にすぎない
- 6.「合意形成のスキル」は、誰でも磨ける
- 7.まとめ:契約は「合意形成」のあとにつくるもの
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.はじめに:「ちゃんと契約書作ってますか?」の前に考えてほしいこと
ビジネスの現場では、
「契約書はちゃんと作っておきましょうね」というアドバイスをよく耳にします。
もちろん、それは正しい指摘です。
契約書は大切な証拠であり、合意を“見える化”するための重要なツールです。
私自身、契約書を専門に扱ってきた立場として、その価値はよく理解しています。
…ですが、だからこそ、声を大にしてお伝えしたいことがあります。
契約書を作る前に、もっと大切なことがある。
そう聞くと「え、契約書の専門家がそんなことを?」と思われるかもしれません。
でも、それは20年以上も契約の現場に身を置くからこそ得た結論なのです。
それは──
「ちゃんと合意形成ができているかどうか」です。
どんなに形式的に整った契約書を作っても、
お互いの価値観や優先順位、納得感がかみ合っていなければ、
現場ではうまく機能しません。
むしろ、「合意できていないことを、無理やり契約書に押し込んだ状態」こそが、
あとから大きな火種になってしまうこともあるのです。
2.「契約書がない」より怖いのは、「ちゃんと話せていない」こと
実際のトラブルの多くは、こういうものです。
- 「そんなこと聞いていない」
- 「言ったはずだと思っていた」
- 「まあ、そういう意味だと“思ってた”んだけど…」
つまり、「書面がなかったから」ではなく、
お互いの合意形成が不十分なままスタートしてしまったことに問題があるのです。
形式的なサインだけで合意が成立するわけではありません。
本当の意味で「わかりあう」ことがなければ、契約書はただの紙になってしまいます。
3.合意形成は「相手と話す前に、自分と話すこと」から
「合意形成」と聞くと、つい「交渉術」「伝え方」など、外向きのスキルに目が向きます。
でも本当に大事なのは、もっと手前にあること。
それは、「自分が何を大事にしたいのか」を知ることです。
- 何を優先したい?(価格?品質?スピード?)
- どんな条件なら納得できる?
- どこまでならリスクを許容できる?
この“自分との対話”ができていないと、相手との交渉でも主張がブレやすくなります。
そして、結果的に「言った/言わない」の原因にもなってしまうのです。
4.自分の価値観を伝えることは、信頼の第一歩
「そんなことを言ったら、角が立つんじゃないか」
「自己主張が強いと思われそうで不安」
そんな気持ち、よくわかります。
でも私は声を大にして言いたいことがあります。それは…
自分の価値観を伝えることは、わがままではなく“誠実さ”です。
たとえば──
- 「品質重視なので、納期は少し長めでお願いしたい」
- 「やりとりはすべてメールで記録を残したい」
- 「不明点は早めに共有してほしい」
こういう話を最初にできる関係こそが、健全なビジネスパートナーシップです。
先に伝えることで、相手も安心して“本音”を出せる。
だからこそ、合意がスムーズになるのです。
5.契約書は「価値観のすり合わせの記録」にすぎない
ここで改めて、契約書の役割を整理しておきます。
契約書とは、
「事前にきちんと話し合い、合意できたことを形にする文書」です。
よく「契約書で守ってもらう」感覚を持たれる方がいますが、
契約書は魔法の盾ではありません。
合意がきちんとできているからこそ、契約書が機能する。
逆に、価値観のすり合わせを飛ばして作られた契約書は、
条文が曖昧だったり、実情とズレていたりして、
いざという時にかえって足かせになることもあります。
6.「合意形成のスキル」は、誰でも磨ける
では、どうすれば合意形成の力を高められるのでしょうか?
実は特別なテクニックはいらないと思っています。
日常の中で、次のような習慣を意識するだけでも大きく変わります。
💬 1. 自分の「心地よさ・違和感」を日々言葉にしてみる
「こうされたらうれしい」「こうなるとストレス」など、日々の感情を言語化する練習を。
💬 2. 相手の言葉の背景を想像するクセを持つ
「この人は何を大切にしてるんだろう?」という視点で会話を聞いてみる。
💬 3. 話し合いでは、“確認”と“言語化”を惜しまない
「今のお話、こういう理解でいいですか?」と一言添えるだけで、認識のズレはぐっと減ります。
7.まとめ:契約は「合意形成」のあとにつくるもの
- 契約書は、話し合いの“結果”を残すためのツール
- 合意形成には、自己理解と対話の習慣が欠かせない
- 自分の価値観を伝えることは、誠実な関係性の第一歩
- 契約書だけ整えても、合意形成がなければ機能しない
- だからこそ、「契約」の前に「合意形成のスキル」を育てよう
「言わなくてもわかってくれる」より、
「ちゃんと話せる関係」の方が、ずっとあたたかい。
契約って、ただルールを決めることじゃない。
“どう付き合っていくか”を丁寧に話し合うことがスタートラインなのです。

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。










この記事へのコメントはありません。