ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.はじめに
- 2.提案=善意のサービスではなく「業務」です
- 3.よくあるトラブル事例:「採用されなかったのに…」
- 4.実務対応:ディレクション業務として契約しよう
- 5.なぜ準委任契約なのか?
- 6.提案報酬=即請求ではなく、“条件付き報酬”もアリ
- 補足:提案資料に添える「一言」も有効です
- 7.参考:準委任型ディレクション業務契約書(簡易ひな形)
- 8.さいごに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.はじめに
「まずは提案だけお願いします」
「コンペじゃないんですが、方向性だけでもいただけると助かります」
そんな一言、クリエイティブや企画職では日常茶飯事かもしれません。
でも、その提案にかけた時間、知恵、経験は、
すべて“仕事”のはず。
それを無償で渡してしまうのは、自分の価値を切り売りすることになってしまいます。
今回のテーマは、
「提案=ディレクション業務」と捉え、
準委任型の業務委託契約で守る方法について解説します。
2.提案=善意のサービスではなく「業務」です
まず押さえておきたい大前提。
提案フェーズはすでに“業務の始まり”です。
たとえば…
- 市場調査・競合分析
- 課題整理・構成設計
- 方向性のアイデア出し
- 資料作成・スライド整形
これらはすべて、具体的な知的労働。
対価の発生すべき「ディレクション業務」なのです。
3.よくあるトラブル事例:「採用されなかったのに…」
次のようなケース、あなたも見聞きしたことがあるかもしれません。
- 不採用だったはずのアイデアが、後日“別の業者”経由で実現していた
- 提案内容を使われたのに、報酬はゼロ
- 資料の一部だけを切り取られ、流用された
このようなとき、契約書がなければ、
「勝手に使うな」と主張するのは困難です。
4.実務対応:ディレクション業務として契約しよう
では、どう守るか?
答えはシンプルです。
「提案」ではなく、「ディレクション業務」として請ける。
つまり、業務委託契約(準委任型)を交わすということです。
5.なぜ準委任契約なのか?
「請負契約」と違い、「準委任契約」は“成果物”ではなく“業務の遂行そのもの”に対して報酬が発生します。
ディレクションフェーズは成果が見えにくいものも多く、
- リサーチ
- 構成整理
- 方針案作成 など、
成果物がある意味「曖昧」にならざるを得ない領域こそ、準委任型が適しているのです。
6.提案報酬=即請求ではなく、“条件付き報酬”もアリ
とはいえ、
「ディレクション業務です」と言った途端に失注してしまうのでは?
と不安に思う方もいるかもしれません。
その場合は、条件付きで報酬を請求する仕組みを契約に盛り込むという方法があります。
✅ 制作・実行フェーズの契約が前提であれば「猶予つき」でもOK
たとえば…
「このディレクション業務が〇日以内に制作・実行フェーズの契約に組み込まれた場合、報酬はそちらに含めて処理」
「逆に、契約が締結されなかった場合のみ、ディレクション報酬を別途請求」
こうすることで、初期提案にリスクを感じるクライアントにも配慮しつつ、
「仕事の対価がゼロになる」事態を未然に防ぐことができます。
📌 条文サンプル(制作・実行フェーズ契約と連動させる報酬設計)
第◯条(報酬の特例)
本業務の実施後、発注者と別途締結する制作・実行フェーズの契約において、本業務が正式に組み込まれた場合、報酬は当該契約に含めて精算するものとする。
一方、当該契約が業務完了後〇日以内に締結されなかった場合には、受託者は本業務に対し金〇〇円(税別)の報酬を請求できるものとする。
補足:提案資料に添える「一言」も有効です
契約が間に合わない場合でも、
提案資料や送信メールに“取扱いの一言”を添えるだけで、一定の抑止力が期待できます。
※本資料は業務委託契約に基づき作成されたものであり、無断での転用・流用・第三者提供はご遠慮ください。
7.参考:準委任型ディレクション業務契約書(簡易ひな形)
⚠️ ご注意(免責事項)
以下の契約書は参考用の簡易雛形です。実際の案件にそのまま使用することは推奨されません。
条項の適合性、金額、業務範囲、著作権の帰属などは案件ごとに異なるため、ご利用の際は必ず専門家の確認を受けてください。
この契約書の利用による損害等について、一切の責任を負いかねます。
📌 業務委託契約書(ディレクション業務)【簡易ひな形】
株式会社●●(以下「甲」という)と、●●(以下「乙」という)は、甲が乙に委託する業務について、以下のとおり契約を締結する。
第1条(目的)
本契約は、甲が乙に対し、企画・構成等のディレクション業務(以下「本業務」という)を委託し、乙がこれを受託することを目的とする。第2条(業務内容)
乙が行う本業務の内容は、次のとおりとする。
① 現状の課題整理およびヒアリング対応
② 構成案・方向性の検討・提案
③ 競合調査・企画書(またはラフ)作成
④ その他、甲と合意した附帯業務第3条(報酬および支払条件)
1.甲は、乙に対し、本業務の対価として、金〇〇円(消費税別)を支払う。
2.支払期日は、乙からの請求後〇日以内とする。
3.ただし、乙の本業務が、甲と締結予定の制作・実行フェーズの契約に組み込まれた場合、当該報酬はそちらに含めて精算するものとする。
4.上記契約が業務完了後〇日以内に締結されなかった場合は、第1項の報酬を乙が請求できるものとする。第4条(契約期間)
本契約の有効期間は、契約締結日より業務完了日までとする。第5条(秘密保持)
乙は、本業務に関連して知り得た甲の秘密情報を第三者に漏らしてはならない。第6条(著作権)
本業務により乙が作成した提案書・構成案等の著作物の著作権は、甲との別段の合意がない限り乙に帰属する。第7条(損害賠償)
甲および乙は、相手方に対し、故意または重大な過失によって損害を与えた場合、その損害を賠償するものとする。
8.さいごに
提案だから無料ではく、むしろ、提案こそが「対価関係」の出発点といえます。
そのためにも契約で関係を整えることが必要不可欠です。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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