ビジネス法務

【契約書のトリセツ】クリエイターが発注者に振り回されないようにするには?~「修正とクレームの無限ループ」を防ぐには

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


イラスト、デザイン、ライティング、動画編集など、成果物の「完成」がゴールとなるクリエイティブ業務。
ところがこの分野では、納品後にこういったトラブルが多く見られます。

「ここ、やっぱり修正してほしい」
「今の内容じゃちょっと納得できない」
「クライアントが変わったので、構成を一新してもらえますか?」

そして、「修正はどこまでやるの?」「料金は発生するの?」という泥沼に。

こうした“振り回され案件”を防ぐためには、契約書に「線引き」を明記しておくことが絶対条件です。

しかもこれは、クリエイターのためだけでなく、発注者にとっても大きなメリットがあります。

本記事では、実務でよくあるトラブルを取り上げながら、
修正対応・納品・仕様変更・報酬の追加請求などに関するポイントと条文例を交えて解説します。


● トラブル事例

ラフ案を出したあと、何度も「こっちの方がよかったかも」と修正依頼が続き、
気づけば初稿から大きくかけ離れた内容に。報酬はそのまま、納期は延び放題…。

このような事態を防ぐには、「修正対応は◯回まで」と明確に条文化しておく必要があります。
また、「どこからが“軽微な修正”で、どこからが“仕様変更”か」も、感覚に頼らず定義しておきましょう。

✅ 条文例①(修正回数の制限)

第◯条(修正対応)
甲は、乙に対し、本成果物の納品に関し、軽微な修正を【3回】を限度として申し出ることができる。
なお、修正の対象は原則として【誤記・文言修正・色調の微調整】に限るものとし、構成や仕様にかかる変更については、別途協議のうえ有償とする。


「修正をお願いしていたのに、もう納品完了って言われた…」
「どこまでが納品? 先方がOKを出すまで終わらない?」
といった認識ズレが起きがちなのが、“納品の完了”のタイミングです。

実務では、「何をもって納品とみなすか」を明文化しておかないと、
永遠に「未完成状態」とされてしまうおそれがあります。

✅ 条文例②(納品の定義)

第◯条(納品及び検収)
乙は、本成果物を甲に対し【PDF形式・オンライン納品】等により提出した時点で納品とし、
甲が受領後【5営業日】以内に異議のない旨を通知しなかった場合は、当該成果物を承認したものとみなす。


初稿提出後に、「やっぱり最初の案と違う方向でお願い」と言われることもあるかと思います。

しかしそれが当初の仕様に含まれない内容であれば、
それは「追加発注」または「別契約」にすることも検討すべきです。

✅ 条文例③(仕様外対応は別途協議)

第◯条(追加業務)
納品後に甲が要望する修正や追加対応が、当初合意した仕様・範囲を超える場合には、
双方協議のうえ、別途契約を締結するものとし、乙はその合意が成立するまで当該業務を履行する義務を負わない。


「こんなに時間かけてるのに、報酬が増えない…」
それは、契約で“報酬が発生するタイミング”を定義していないからかもしれません。

「当初の発注内容外の業務には追加報酬が発生する」
「納品後の修正は原則有償」
といった文言がないと、クライアント側は“当然の無料対応”だと誤解してしまいます。

✅ 条文例④(報酬の範囲・条件)

第◯条(報酬及び追加料金)
本契約に定める報酬には、仕様書に基づく成果物の作成および第◯条に定める軽微な修正対応のみが含まれる。
当該範囲を超える要望があった場合は、双方協議のうえ、別途契約を締結するものとし、乙はその合意が成立するまで当該業務を履行する義務を負わない。


契約書だけでなく、見積書・発注書・メールやチャットのログも、内容を証明する「契約の一部」として認定されることがあります。

たとえばSlackで「3回まででお願いしますね」と伝えていれば、
たとえ契約書に書かれていなくても、そのやりとりが証拠になります。

つまり――
言葉で済ませず、書いて残すこと。
それが、クリエイターの自分自身を守る最初の一歩です。


ここまで見てきたようなルール設定は、
クリエイターを守るだけでなく、発注者にとっても安心材料になります。

なぜなら――

  • クリエイターの仕事の流れや業界慣行は、発注者にとっては“未知の領域”
  • 修正の回数や、納品の定義、追加料金が発生するタイミングなど、実はわかりにくいことだらけ

だからこそ、契約書を通じてお互いの認識をすり合わせるプロセスが必要となるのです。

✅ 発注者にとってのメリットも大きい

  • 「納品されたのに直してもらえない!」という行き違いが減る
  • 修正・追加費用がかかるポイントが見えるので、社内での承認もスムーズに
  • スケジュール・品質・コスト管理がしやすくなる

契約書は「制約」ではなく、共通理解の“翻訳ツール”
お互いに安心して仕事を進めるための“確認書”なのです。


「頼まれたら断れない…」
「納得してもらうまで応えたい…」

そんな“やさしさ”はとても尊いけれど、
それが自分をすり減らす原因になるなら、ちょっと待って。

契約で「ここまで」と決めることは、相手の期待をコントロールする優しさでもあるんです。

✔ 最後にもう一度、お伝えしたいポイント

  • 修正回数・対応範囲は契約で明記しよう
  • 「納品完了」のタイミングも言葉で定義
  • 仕様外の対応は別料金・別協議
  • 記録は「あとで揉めない」ための保険になる
  • 発注者にとっても、契約は信頼と予測のツール


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


【ご質問受付中】

「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
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また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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