ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.成功者の話は、本当に再現できるのか?
- 2.再現性が高いのは「失敗談」である
- 3.契約書は企業の“痛みの履歴書”
- 4.業界リスクは契約書から読める
- 5.「よし、大手の契約書をコピペしよう」の危険性
- 6.問いに変換する― 他社契約書の正しい読み方
- 7. 契約書とは、未来の失敗を先回りする装置
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.成功者の話は、本当に再現できるのか?
世の中には成功談があふれています。
経営者の自伝。
急成長スタートアップの物語。
資格試験の合格体験記。
読めば勇気をもらえますし、「自分もやってみよう」と思える力があります。
しかし、少し冷静になって考えてみると――
それは本当に再現できるのでしょうか。
本田宗一郎さん、松下幸之助さん、稲盛和夫さん。
確かに偉大な成功者です。
しかしその成功は、
- 圧倒的な行動量
- 独自のパーソナリティ
- その時代背景
- 周囲の環境
といった複雑な条件の上に成り立っています。
成功談は面白い。
しかし、再現性は高くない。
では、再現性が高いものは何か。
2.再現性が高いのは「失敗談」である
私の答えはシンプルです。
再現性が高いのは、成功談ではなく失敗談です。
なぜなら、
成功談は応用力が必要だから。
失敗談は「それをやらなければいい」からです。
資格試験を例にとると、
- 勉強しなかった
- 過去問を軽視した
- 参考書を広げすぎた
不合格体験記を読むと、だいたいパターンは似ています。
つまり、
失敗談は最短ルートを教えてくれる。
そして――
契約書は、企業の「失敗談の集積」なのです。
3.契約書は企業の“痛みの履歴書”
契約書、とくに
- 禁止事項
- 免責条項
- 損害賠償条項
- 解除条項
を丁寧に読むと、見えてくるものがあります。
それは、
「この会社は、ここで困ったのだな」という痕跡。
契約書は理論から生まれるのではありません。
トラブルから生まれます。
■ホテルの宿泊約款を読むと見えるもの
例えばホテルの宿泊約款。
- 客室での毛染め禁止
- ペット持込禁止
- 水の出しっぱなし禁止
- 危険物持込禁止
さらには、ある外資系ホテルでは
「客室内で鳥を飼うことを禁止する」
と明記されていました。
笑ってしまいそうですが、
それはつまり、
実際にやった人がいたということです。
契約書とは、
「もう二度と同じ失敗をしない、させない」
という企業の意思表示でもあるのです。
4.業界リスクは契約書から読める
新規事業に参入する方に、ぜひやっていただきたいことがあります。
その業界の代表的企業の
- 利用規約
- 約款
- 契約条件
を読んでみてください。
特に注目すべきは、
- 損害賠償の上限
- キャンセル規定
- 解除事由
- 免責の範囲
ここに、その業界の地雷が凝縮されています。
契約書は、業界のリスクマップです。
5.「よし、大手の契約書をコピペしよう」の危険性
ここで触れておきたいことがあります。
この記事を読んで、
「なるほど。大手の契約書を参考にすればいいのか」
と思うのは、方向性としては正しいです。
しかし、
「そのままコピペしよう」と思った瞬間、危険です。
これは、最大の罠です。
なぜコピペは危険なのか?
① 体力(資本力)が違う
大手企業は、
- 訴訟コストを吸収できる
- 返金しても経営が揺らがない
- 専門部署がある
しかし中小ベンチャー企業はどうでしょうか。
同じ契約条件を使っても、
実際には戦えない契約
になる可能性があります。
② オペレーションが違う
大手企業には、
- 自動システム
- 24時間サポート
- 大量データ管理体制
があります。
その仕組みがないのに、同じ契約条件を使うとどうなるか。
条文だけが先走り、実態が追いつかない。
とても危険です。
③ 法改正リスク
古い契約書をコピペすると、
- 2024年施行のフリーランス保護法
- 2026年施行の中小受託取引適正化法(取適法;旧下請法)
などに違反している可能性もあります。
ネット上の契約書は、最新とは限りません。
知らずに違法状態になるリスク
これが最も怖い。
他社契約書からリスクを学ぶのは大賛成です。
しかし、
条文をそのまま盗むのは絶対にNG。
持ち帰るべきなのは、
条文ではなく、問いです。
6.問いに変換する― 他社契約書の正しい読み方
他社契約書を見るときは、こう自問します。
① なぜこの条文があるのか?
条文は偶然存在しているわけではありません。
そこには必ず背景があります。
- どんなトラブルがあったのか
- どんな顧客と揉めたのか
- どんな損失が出たのか
条文を読むのではなく、背景を読む。
② このリスクは自社にも起こり得るか?
大手企業と自社では、
- 顧客層
- 取引件数
- サービス規模
が違います。
そのリスクは、本当に自社にも起こるのか。
起こるなら検討する。
起こらないなら無理に書かない。
③ 自社の体力で吸収できるか?
書ける契約条件と、守れる契約条件は違います。
仮に訴訟になった場合に耐えられるか。
返金できるか。
ブランド毀損に耐えられるか。
契約書は理想を書く場所ではありません。
実際に守れる設計を書く場所です。
④ 条文を盗むな、リスクを抽出せよ
他社契約書から持ち帰るべきものは、
- 業界の地雷
- 想定外のトラブル
- ビジネスモデルの弱点
です。
条文は結果。本質はリスク。
ここを間違えないこと。
7. 契約書とは、未来の失敗を先回りする装置
契約書は、
- 過去の失敗の記録であり
- 現在のリスク設計図であり
- 未来のトラブル予防装置
とも言えます。
成功談は勇気をくれます。
しかし、
失敗談は守ってくれます。
そして契約書は、失敗を資産に変える装置にもなり得るのではないかと思います。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
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