ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. たった10秒で防げるトラブルもある
- 2. 契約書の前に「相手の存在」を確認する
- 3. 確認を怠ったときに起きやすい実務トラブル
- 4. 実態確認は「契約書以前」の話
- 5. 相手が法人かを確認する2つの方法
- 6. 検索しても出てこない=即アウトではない
- 7. おわりに
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. たった10秒で防げるトラブルもある
今回は、意外にも
多くの方が見落としている「取引の最上流」についてお話しします。
それは、
「相手が本当に“会社として存在しているのか”」
という、あまりにも基本的で、しかし軽視されがちな確認です。
「〇〇株式会社 代表取締役 △△」
名刺にこう書いてあれば、
多くの人は疑いません。
・法人なら大丈夫そう
・会社同士の取引だから安心
・まさか嘘ではないだろう
そう思うのが自然です。
しかし、実務の現場では、
「名刺に書いてあること」と「法的な実態」が一致していない
ケースが、決してゼロではありません。
私は契約書の相談を受ける中で、
四半期に1回程度、次のような相談を受けます。
- 名刺には株式会社とあるが、実在するか分からない
- 先払いしたが、作業が始まらない
- 連絡が取れなくなった
- そもそも相手は法人だったのか不明
どれも、契約書以前の段階で防げた可能性があるトラブルです。
2. 契約書の前に「相手の存在」を確認する
今回のテーマの結論はシンプルです。
契約書を交わす前に、
相手が法人として実在しているかを確認してください。
誰でも簡単な方法で調べられます。
これは、相手を疑う行為ではありません。
自分の身を守るための最低限の準備です。
契約は、
「相手が存在し、当事者が特定できる」
という前提があって、初めて意味を持ちます。
この前提が崩れた瞬間、
どれだけ立派な契約書を作ったとしても、
ほとんど意味を持たないものとなってしまうことになりかねません。
3. 確認を怠ったときに起きやすい実務トラブル
ケース①:実在しない法人名義で契約していた場合
契約書には
「〇〇株式会社」と書いてある。
しかし、
その会社はそもそも存在していなかった。
この場合、実務上は次のような問題が生じやすくなります。
- 書類を送るべき「法人」が存在しない
- 法的手続を取ろうにも、送達先が特定できない
- 契約の当事者が誰なのか、後から争いになる
「では代表者個人に請求すればよいのでは?」
と考える方も多いのですが、
契約の名義が“存在しない法人”の場合、
当然に代表者個人が責任を負うとは限りません。
結果として、
回収や紛争解決のハードルが一気に上がる
という事態になりがちです。
ケース②:実は個人事業主だった場合
名刺には「株式会社」とある。
しかし、実態は個人事業主。
この場合も、
- 契約の当事者は誰か
- 請求先は誰か
- 責任の帰属はどうなるのか
といった点で、
後から話がこじれる原因になりやすくなります。
法人か個人かの違いは、
単なる肩書きの違いではありません。
法的には「別人レベル」の違いです。
4. 実態確認は「契約書以前」の話
ここで一度、整理しましょう。
契約書とは、
「トラブルが起きたときに、法的に話を整理するためのツール」
としての側面が大きいです。
しかし、そのツールは、
- 相手が存在している
- 誰と契約しているのか明確
という前提があって、初めて機能します。
だからこそ、
実態確認は、契約書の話よりも前に来る工程なのです。
5. 相手が法人かを確認する2つの方法
方法①:法人番号公表サイトで存在確認する(たった10秒でできる最小限の方法)
まず最初に確認してほしいのが、
国税庁が運営する
法人番号公表サイトです。
法人番号とは、いわば会社の「マイナンバー」。
ここで会社名を入力すれば、
- 法人番号
- 正式な商号
- ふりがな
- 本店所在地
を確認できます。
ヒットする=法人として実在している
という最低限の確認ができます。
※注意点|分かること・分からないこと
このサイトで分かるのは、
あくまで「存在確認」です。
- 資本金
- 役員構成
- 会社の中身や安定性
までは分かりません。
そこで次のステップがあります。
方法②:履歴事項全部証明書(登記簿)を確認する(可能な限りやった方がよい方法)
登記簿謄本、正式には
履歴事項全部証明書。
これは、
いわば 会社の「健康診断書」 です。
会社の健康診断書で見るべきポイント
すべて読む必要はありません。
最低限、次の点を確認してください。
- 設立年月日
→ 極端に新しくないか - 資本金
→ 取引規模と釣り合っているか - 役員変更の履歴
→ 短期間で頻繁に変わっていないか
(=組織が不安定ではないか) - 本店所在地
→ 頻繁に移転していないか
(=実態があるか)
これを確認しないまま大きな契約を結ぶのは、
相手の表面上の健康状態も確認しないまま、
重要なポジションで採用を決めるようなものです。
6. 検索しても出てこない=即アウトではない
検索して法人番号が出てこない場合でも、
それだけで何らかの問題があると決めつけることはできません。
実務上、よくある理由としては、次のようなものがあります。
- 法人形態の違い(株式会社、合同会社、一般社団法人など)
- 商号変更や本店移転の直後
- 社名に旧字や常用漢字以外の文字が使われている場合
- 前株・後株、全角・半角などの表記ゆれ
まずは、これらを一つずつ丁寧に確認してみることが大切です。
7. おわりに
「確認するなんて、相手に失礼ではないか」
そう感じる方もいるかもしれません。
しかし、実態確認は、相手を疑うための行為ではありません。
取引の前提条件をすり合わせるための、ごく基本的な確認作業です。
契約書が、取引条件を文書で明確にするためのものだとすれば、
実態確認は、その契約書が正しく機能するかどうかを確かめる前段階にあたります。
たった10秒の確認が、
後になって「そもそも誰と取引していたのか」という
基本的問題に悩まされる事態を防ぐこともあります。
契約書の前に、まず相手の「正体」を確認する。
この地味な習慣こそが、
ビジネスを静かに、しかし確実に守ってくれます。

【音声解説】
本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)
【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。
【ご質問受付中】
「この場合はどう考える?」「ここが気になる」
といったご質問がありましたら、お気軽にお寄せください。
本ブログや音声配信(『契約書に強くなる!ラジオ』)で取り上げます。
また、契約書の作成・見直し、契約実務の整理、
セミナー・講座のご相談(オンライン可)にも対応しています。
上部の「問い合わせフォーム」よりご連絡ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。











この記事へのコメントはありません。