ビジネス法務

法務スキルを活用して「再現性と信頼性」のある取材記事を作る3ステップ

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次


はじめに:法務と広報は遠いようで、実は「同じ技術」で動いている

私は、自分の文章がとびぬけて上手だとは思っていません。
ただ、このたび、社長の学校「埼玉中小企業家同友会」の
広報情報化委員会・齊藤壽和委員長/株式会社ディクタクス代表取締役;アイキャッチ画像右)から、

「取材記事をどう作っているのか、スキルを言語化してシェアしてほしい」

という依頼をいただきました。

正直に言えば、ライターとしての専門訓練を受けたことは一度もありません。
私はビジネス法務の専門家であり、契約書作成やルール設計のキャリアを長く積んできました。

それでも、これまでのブログ運営や会報誌での執筆経験、
とりわけ “事実を集め、整理し、因果をつなぐ” 法務思考 を軸にしてきたことが、
結果的に広報の領域でも評価されることになりました。

講義の内容はありがたいことに非常に好評で、
「もっと具体的に知りたい」という声も多くいただき、続編も検討いただいたほどでした。

この記事では、講義内容をブログ向けに再構成し、
広報・会報誌・インタビュー記事の質を高めるための技術 を体系的にまとめます。

また、当日の講義の模様は YouTube にアーカイブされておりますので、
こちらも合わせてご参照いただければと思います。


1. 取材記事とは「印象」ではなく「再現性」を伝える文書である

多くの取材記事が失敗する理由は明確です。

「感想」や「印象」で文章を構成してしまうから。

異業種団体の広報に求められるのは、
取材相手の熱量や空気感を記録することだけではありません。

読者が求めているのは、

  • どんな行動が取られ
  • それがどんな結果につながったのか

という 再現可能な知見 です。
今風の言葉で言うところの「ナレッジ」です。

つまり取材とは、
「いい話を聞きにいく場」ではなく、
検証可能な「事実」を収集する場 です。


2. 質の高い記事はすべて「事実 → 結果」でできている

結論から言えば、
“質の高い記事” の条件は非常にシンプルです。

✔「事実(Fact)」が明確である
✔「結果(Result)」が数字や出来事として示されている
✔「因果の筋道」が一本でつながっている

これだけでプロっぽい記事になります!

逆に、文章が弱くなるときの典型例は次の通り:

  • 「思いました」「感じました」が多い
  • 行動が描かれていない
  • 数字が出てこない
  • 読者が再現できる要素がない

こうした記事はとりわけ中小企業経営者には何も響きません。


3. AIの役割は“創作”ではなく“整序”である

AIを使って記事を書く場面が増えました。
しかしいまだに多い誤解があります。

AIは“文章を生み出すもの”である
AIに“ストーリーを作らせる”ものだ

これは真逆です。

AIの本質は、

  • 情報を並べ替える
  • 重複を削る
  • 漏れを埋める
  • 因果関係を整理する

といった 整序能力 にあります。

AIは「事実や一次情報が与えられたとき」に真価を発揮します。
事実や一次情報が曖昧なら、どれだけ優秀なAIでも“整序不能”となります。

だからこそ、
事実を高解像度で収集する取材スキル が欠かせないのです。


4. ステップ①:取材前の設計(Factベースの質問づくり)

ここは記事品質の90%を決める工程です。

「とりあえず会って話を聞く」――
この姿勢で良い記事が生まれた試しはありません。

取材前にやるべきことは次の3つです。

① テーマを一文で定義する

例:
「理念“誠実”を実務でどう再現しているのか、そのプロセスと成果を示す」

テーマが抽象的だと、記事も抽象的になります。

② 読者が本当に知りたい10〜15問のリスト化

読者の視点で作る質問は、次の3層で構成します。

  • 行動(何をしたのか)
  • 仕組み(どのように実行したのか)
  • 結果(何が変わったのか)

構造化された質問は、取材の質を劇的に変えます。

③ 公式情報・SNS・過去記事の事前調査

取材中に「それ、公式ホームページに書いてありますよね?」と言われたらアウトです。
事前調査の不足は、取材相手の信頼を失います。

▼ 例で示す質問精度の違い

ダメな質問(抽象)
「理念の“誠実”ってどんな想いがありますか?」

良い質問(Factベース)
「誠実の理念に基づき、どの業務プロセスを見直しましたか?」
「その改善によって数値としてどんな変化がありましたか?」


5. ステップ②:取材中は「構成」を意識して聞く

取材中に私が必ず意識しているのは“構成”です。
構成を意識して聞くと、後の編集が圧倒的に楽になります。

具体的には次の3つを同時に走らせます。

① PREP法(結論 → 理由 → 具体例 → まとめ)

これは“読者に伝わる順番”で話を整理する技術。

② FAB法(特徴 → 優位性 → 価値)

製品・技術・サービスを扱う取材で非常に強い。
「単なる事実」を「再現性ある知見」に変換できる。

③ 起承転結

もっとも古典的だが、読者の負荷を最も下げる形式。

▼ 取材時のメモは「印象を書かない」

メモで書くべきは次の3つだけです。

  • 数字
  • 固有名詞
  • 繰り返し出てくるキーワード

印象や感想は書かなくていい。
AI整序に最も役立つのは、感想ではなく「事実」です。


6. ステップ③:事実を構造化する(AI活用の本質)

記事の質は最終的に「編集工程」で決まります。
そして、ここで初めて AI が本領を発揮します。

よくある誤解は、

AIに“記事を書かせる”ことがAI活用だ

というもの。

実際はまったく逆で、
AIを使うべきは “整序と構造化” の工程 です。

① 文字起こしで「事実の漏れ」をゼロにする

録音データを文字起こしすると、
取材中には拾いきれなかった固有名詞や数字が必ず出てきます。

文章とは、素材が10そろっているときと、
素材が100そろっているときでは、
クオリティが別物になります。

この“素材の厚み”は AI 整序との相性が極めて良いため、
文字起こしは必須工程と言ってよいでしょう。

② 骨子づくりは「見出し → 要約 → 引用」の順で作る

取材後すぐに本文を書き始めると、
ほぼ間違いなく文章が迷子になります。

正しい順序はこれだけです。

  1. 見出しを作る(記事の柱づくり)
  2. 段落ごとに要約を書く(事実→結果がつながるか確認)
  3. 必要に応じて引用文を添える(読者の理解を補強)

この流れができていれば、本文は自然に整います。

③ 視点を必ず「一つ」に絞る

取材内容は多いほど良いのですが、
記事に全部を載せると “何が言いたいのか分からない記事” になります。

記事は「引き算」で磨かれます。

  • 何を削るか
  • 何を“推し要素”にするか
  • どの因果を強調するか

これらを判断するのが「編集」という作業です。

AIに文章を整えさせる前に、
取材者自身がこの視点調整を行う必要があります。

④ AIの役割は「補助線を引くこと」

AIに任せるべきは次の 4 つです。

  • 話の流れを自然に並べ替える
  • 同じ内容の重複やくどさを除去する
  • 因果関係のズレを修正する
  • 必要な要素が抜けていないかチェックする

AIを“文章生成ツール”と考えるから失敗します。
本質はむしろ逆で、

AIは「事実の整理」に使うことで最大の効果を発揮する

ということです。


7. 事例比較:曖昧な記事と、強い記事の決定的な違い

ここでは、私が、埼玉中小企業家同友会の広報誌によくありがちな事例から
「曖昧な記事」と「強い記事」の違いを示します。

❌ 曖昧な記事(印象中心)

  • 「プロジェクトに対する想いが伝わってきた」
  • 「雰囲気の良さを感じた」
  • 「色々なことにチャレンジした様子が印象的だった」

一見すると“いい記事”に見えます。
しかし、読者は読み終えたあとに 何一つ再現できません

情報としての価値がゼロに近い。

✅ 強い記事(事実 → 結果で構成)

  • 〇月に導入した改善策は3つ
  • そのうち「受付フローの見直し」によって待ち時間が40%減少
  • 結果として顧客満足度アンケートで「対応が早い」の項目が15pt上昇
  • これらの改善により紹介顧客が前年比150%へ増加

読者はこの情報を見れば、
「どの行動が、どの結果を生んだか」を明確に理解できます。

つまり 再現可能性 がある。

この差が「印象記」と「実録記事」「ナレッジ」の違いであり、
ここを理解すると“良い記事”を書く技術が一気に伸びます。


8. さいごに:法務スキルは、広報でも武器になる“万能の基礎技術”である

私は契約書の専門家であり、
広報ライターとして特別な訓練を受けたわけではありません。

それでも今回、埼玉中小企業家同友会の広報情報化委員会から上記のご依頼いただけたことは、本当に嬉しい経験でした。

そこであらためて気づいたことがあります。

✔ 法務の基礎技術は、広報記事づくりの核と一致している

法務の現場では毎日のように、

  • 事実の確認
  • 事実の整理
  • 因果の特定
  • 言葉の定義
  • 条項の論理構造の整備

という作業が求められます。

これらは契約書の品質を高めるうえで絶対に欠かせない技術です。

ところが、広報記事を作るときにも
実はまったく同じ技術が必要になります。

取材とは、要するに

「事実の収集」であり
「因果の理解」であり
「誤解のない表現を組み立てる行為」

だからです。

法務で求められる“事実主義”は、
そのまま広報の“信頼性”に変換されます。

✔ 法務スキルが強い人は、情報共有の質が高い

法務パーソンの特徴のひとつに、
「情報共有の精度が高い」という点があります。

なぜなら法務のアウトプットは、
常に“誤解が許されない世界”で使われるからです。

  • 曖昧な言葉
  • ふわっとした表現
  • 文脈の欠如
  • 事実と意見の混同

これらはすべて紛争やトラブルにつながるため、
法務の思考は自然と“構造化”を前提とします。

そのため、法務スキルを持つ人が広報記事を書くと、

  • 筋が通っている
  • 読者が理解しやすい
  • 必要な情報だけが整理されている
  • 余計な感想や修飾がない
  • 再現可能な知見に仕上がる

という特徴が表れます。

広報領域でも、
これは圧倒的な強みです。

✔ 法務スキルは「ポータブルスキル」である

今回の講義を通じて私自身、
大きな気づきを得ました。

法務スキルは、契約書のためだけの技術ではない。
むしろ、

  • 経営
  • 広報
  • 組織運営
  • 営業
  • プレゼン
  • ドキュメントづくり
  • メディア運営

あらゆる分野に応用できる“万能の基礎技術”だということです。

私たちが日々扱う

  • 事実の整理
  • 因果の理解
  • 論理の構築
  • 言葉の定義
  • 誤解を排除する表現

これらは、
どの領域でも価値を発揮します。

✔「法務スキル × 広報」の融合が、最強の情報発信をつくる?

広報の発信力は、もはや企業のブランド戦略の中心になっています。
その中で、私が日頃から扱っている“法務的なものの見方”が、
広報記事づくりにおいても意外と役に立つ場面がある――
今回の講義を通じて、そんな実感を得ました。

法務的な文章には、

  • 曖昧な表現を避ける
  • 行動と成果の因果を明確にする
  • 第三者が読んでも意味が変質しない
  • 情報の再現性を大切にする

といった特徴がありますが、
これらは広報記事の品質とも親和性が高いように思います。

もちろん、
アウトプットの目的やコンテキストによって最適解は変わります
法務の視点が万能ということではありません。

ただ、
“事実を整理し、因果を過不足なく伝える” という基本姿勢が、
結果として読者にとって読みやすく、
共有されやすい記事につながる可能性はある――
そのように感じています。

それはともかく、今回の講義をきっかけとして、
私自身の中でもひとつ確信が深まりました。

法務スキルは、ビジネスの解像度を上げるための“汎用基盤技術”である。

これは契約書だけでなく、
広報にも、文章にも、人材育成にも、組織運営にも使えます。

この記事が、少しでも何かのお役に建てれば嬉しく思います。


YouTubeアーカイブ(講義の全編はこちら)

このブログと音声配信「契約書に強くなる!ラジオ」では、
日々の仕事を支える“契約”という仕組みを通じて、
自分らしいビジネスを安心して育てていくための知恵と視点
をお届けしています。

契約は、トラブルから自分を守るためのものと思われがちですが、
実は、信頼関係を“形(カタチ)”にして、ビジネスを前に進めるための仕組みでもあります。
だからこそ――契約は、“ビジョンをカタチにするための言葉”でもあるのです。

足下を固めながら、一歩ずつ前へ進むために――
その道のりを、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

もし、「ここがちょっと気になる」「こんな時どうすれば?」
そんな小さな疑問がありましたら、ぜひお気軽にお寄せください。
このブログでも、できる限り取り上げていけたらと思います。

また、商工会議所や起業支援機関、専門学校などで
契約や法務リテラシーをテーマにしたセミナーや講座も承っております。
関心をお持ちの方は、上部の「お問い合わせ」からご連絡ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これからも、共に学び、考えながら“契約に強くなる”時間を
ご一緒できれば嬉しいです。

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