ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. しっかりした契約書、不安な契約書
- 2. 「とき・時・場合」の役割を押さえる
- 3. 条文で理解する:条件は入れ子になっている
- 4. 実務での使い方:迷ったときの判断基準
- 5. 迷わないための覚え方と「時」の整理
- 6. 実務で差がつくポイント:表記の統一
- 7. 神は細部に宿る
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. しっかりした契約書、不安な契約書
契約書を見たときに、「この契約書、しっかり作られているな」と感じるものと、
「少し不安が残るな」と感じるものがあります。
その違いは、実はそれほど難しいところにあるわけではありません。
一つの見分け方として、条文の中の「とき・時・場合」の使い分けを見る、という視点があります。
「ネットから流用した契約書」や「法務に不慣れな方が作成した契約書」では、
この3つの使い分けが曖昧になっていることが少なくありません。
契約書において、これらは単なる言い換えではなく、条文の論理構造を支える用語です。
ここが整理されていない場合、条件関係が読み取りづらくなり、実務上の判断に迷いが生じる可能性があります。
本記事では、「とき・時・場合」の違いを、実務で使える形に整理していきます。
2. 「とき・時・場合」の役割を押さえる
基本はシンプルです。
・「場合」=大きな前提条件
・「とき」=その中に入る条件
・「時」=時間(いつの話か)
この3つを押さえるだけで、条文の読み取りやすさは大きく変わります。
3. 条文で理解する:条件は入れ子になっている
実際の条文で確認します。
前条の規定により甲が契約を解除した場合において、
乙が本件業務につき既に履行した部分があるときは、
乙はその部分を甲に引き渡さなければならない。
この条文は、一見すると長いですが、構造はシンプルです。
まず、「契約を解除した(場合)」という大きな前提があります。
そのうえで、「すでに業務が行われている(とき)」という条件が、その中に追加されています。
整理すると、
・前提:契約を解除した(場合)
・追加条件:履行済み部分がある(とき)
という関係になります。
つまり、大きな条件の中に小さな条件が入っている構造です。
この関係を分かりやすく示すために、「場合」と「とき」を使い分けています。
4. 実務での使い方:迷ったときの判断基準
■条件が1つの場合
「場合」と「とき」はどちらでも使用できます。
ただし、契約書全体でどちらかに統一することが重要です。
■条件が2つある場合
大きな前提を「場合」、その中の条件を「とき」で整理します。
この使い分けをするだけで、条文の構造が自然に伝わります。
■条件が増えすぎた場合
条件が3つ以上重なる場合は、条文の作り方を見直すサインです。
・条文を分ける
・箇条書きにする
といった形で整理した方が、実務上は扱いやすくなります。
契約書は「複雑に書くこと」ではなく、「正しく伝わること」が目的です。
5. 迷わないための覚え方と「時」の整理
実務では、瞬時に判断できることが重要です。
覚え方としては、
・「場合」は画数が多く重たい=大前提
・「とき」は軽い=その中の条件
この程度の感覚で十分です。
また、「時」はこれらとは別の概念です。
契約不適合を知った時から6ヶ月以内に通知する
この「時」は、「いつからカウントするか」という時間の話です。条件ではなく、期限の起算点を示しています。
「条件」なのか「時間」なのかを意識して使い分けることが重要です。
6. 実務で差がつくポイント:表記の統一
契約書の品質は、細部の整い方に表れます。
例えば、
・本件業務
・本業務
・本委託業務
といった表記が混在していると、それだけで契約書全体の信頼性が下がります。
同様に、「場合」と「とき」の使い方がバラバラだと、条文の構造も読み取りづらくなります。
・用語が統一されているか
・条件の関係が読み取れるか
この2点を意識するだけで、契約書のチェック精度は向上します。
7. 神は細部に宿る
「とき・時・場合」の違いは、次の3つに整理できます。
・場合=大きな前提
・とき=その中の条件
・時=時間
この使い分けを意識するだけで、条文の構造は明確になります。
契約書には、独特の言い回しや用語が多くあります。
一見すると難解に感じられるかもしれませんが、それらはすべて「解釈に疑義を生じさせない」という、
本来の目的を達成するために存在しています。
つまり、契約書の表現は「分かりにくくするため」ではなく、「ブレなく伝えるため」に設計されています。
その前提に立つと、「とき」と「場合」の使い分けも、単なる形式ではなく、
条件関係を正確に伝えるための道具であることが見えてきます。
こうした細部を意識するだけで、契約書の精度は一段どころか、数段引き上がります。
契約書のレベルは、難しい概念や専門用語をどれだけ知っているかで決まるわけではありません。
むしろ、こうした基本的な表現を丁寧に扱えているかどうかで、大きな差が生まれます。
一見すると地味なポイントですが、ここにこそ実務の質が表れます。
まさに「神は細部に宿る」と言える部分です。

【音声解説】
本記事の内容は、
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【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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