ビジネス法務

【契約書のトリセツ】振込でも領収書はもらえる?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.振込なのに「領収書ください」って言っていいのか?

取引先への支払いを銀行振込で行ったとき、こんな疑問を持ったことはないでしょうか。

  • 「振込してるのに、領収書ってもらえるの?」
  • 「通帳に記録が残るから、いらないんじゃないの?」
  • 「いつも発行されてないけど、お願いしていいの?」

実務の現場でも、非常によく聞かれるテーマです。

特に、

  • 役所に提出する書類で領収書が必要
  • 社内の経理処理で求められる

といった場面で、「どうすればいいのか分からない」という声をよく耳にします。


2.振込でも領収書は「請求できる」

振込であっても、領収書は発行してもらえます。

そしてさらに重要なのは、請求する側には「発行を求める権利」があるという点です。
これは慣習の話ではなく、法律上きちんと認められているものです。


3.「振込だから不要」と言われる現場

実務では、こんな対応が多いのではないでしょうか。

  • 「振込記録があるから領収書は出さない」
  • 「通帳の記載で十分でしょう」
  • 「いちいち発行していない」

実際、銀行振込の場合、

  • 振込明細
  • 通帳への記帳

といった記録が残ります。

そのため、領収書の発行が省略されるケースが多いというのが現場の実態です。

しかし、振込明細と領収書は、実は「証明している内容」が少し違います。
ここに、見落とされがちなポイントがあります。


4.振込明細は「受領の証明」ではない

振込明細は何を証明しているのか。

それは、銀行が発行する「送金の記録」であるという点です。

つまり、

  • 銀行が送金処理をした事実は確認できる
  • しかし、受け取った側自身が受領を認めた書面ではない

という位置づけになります。

一方、領収書は、受け取った側自身が「確かに受領しました」と証明する書面です。
ここが、証拠としての性質の違いです。


5.民法が示すシンプルなルール

この点については、法律にもはっきり書かれています。
民法486条では、支払いをする側(弁済をする者)は、領収書の発行を請求できるとされています。

民法第486条(受取証書の交付請求等)
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。

少し噛み砕くと、

  • 支払いをした側は
  • 支払いをした場合に
  • 受け取った側に対して
  • 領収書の発行を求めることができる

ということです。

つまり、振込だから発行しなくていい、という理屈は通らないということになります。


6.「言っていいのか?」の答え

ここで最初の疑問に戻ります。
「いつも出してくれない相手に、領収書くださいって言っていいの?」

答えはシンプルです。

言って問題ありません。

むしろ、

  • 役所提出
  • 社内手続
  • 証憑管理

といった理由がある場合は、

きちんと依頼する方が適切です。

実務上も、

「領収書をください」と伝えることで関係が悪くなるケースはほとんどありません。


■ 実務のワンポイント①|収入印紙の罠とPDF活用

ここで、発行する側として注意しておきたいポイントがあります。
それが、収入印紙の問題です。紙の領収書を発行する場合、

  • 金額が5万円以上
  • かつ現金等の受領を証明する場合

には、印紙税の対象となり、収入印紙の貼付が必要になるケースがあります。

「振込だから大丈夫」と思われがちですが、
紙で領収書を発行すると、印紙税の対象になる可能性があります。

振込による受領であっても、それを紙の領収書として発行すれば課税対象となります。

一方で、

PDFやメールなど電子データで発行すれば、印紙税はかかりません。


■ 実務のワンポイント②|二重発行リスクを防ぐ「一言」

もう一つ、実務でよく見落とされるポイントがあります。

それが、二重発行(=二重計上)のリスクです。

振込の場合、

  • 振込明細がある
  • 領収書も発行する

この2つが存在すると、
経理処理によっては二重計上されるリスクがゼロではありません。

これを防ぐためのシンプルな方法があります。

それが、領収書の但し書きに一言入れることです。

例えば、「〇年〇月〇日 銀行振込にて受領」といった記載です。

この一言があるだけで、

  • 現金受領ではないこと
  • 振込との関係性

が明確になります。

実務では非常に重要な「小さな工夫」です。


7.補足|「代金」「報酬」「料金」の違い

ここで少し豆知識です。

似たような言葉に、

  • 代金
  • 報酬
  • 料金

があります。

これらは、契約実務的には、以下の通り使い分けるのが一般的です。

  • 代金→ 売買契約の対価
  • 報酬→ 請負や委任など、役務提供に対する対価
  • 料金→ サービス提供やインフラの対価

例えば、業務委託契約で「代金」と書いてあると、
少し違和感が出ます。

こうした言葉の使い分けも、契約書の精度を上げるポイントになります。

【参考文献】
『改訂版契約用語使い分け辞典』日本組織内弁護士協会(新日本法規)


8.まとめ

振込の場合でも、

  • 領収書は不要ではない
  • 発行を請求することができる

というのが基本ルールです。

そして重要なのは、振込明細と領収書は、役割が違うという点です。

  • 振込明細は「送金の記録」
  • 領収書は「受領の証明」

この違いを理解しておかないと、

  • 役所提出で慌てる
  • 証憑が足りずに手戻りが発生する
  • 相手との認識にズレが生じる

といった、地味ですが確実にストレスになる問題が起きます。

振込明細があるからといって、領収書の発行を断る理由にはならない
ここは押さえておきたいポイントです。

契約書や証憑は、トラブルが起きたときに初めて価値が出るものです。

だからこそ、「まあ大丈夫だろう」で済ませず、
後から困らない形にしておくことが実務では大切です。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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