契約書

「昔の最適解」をどうアップデートする?契約書や社内規程の改定テクニック

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)/ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

契約書や社内規程の見直しや新規作成に取り組む際、
「これは非効率だから変えよう」
「今の時代に合わないから削除しよう」
といった発想からスタートすることが多いかもしれません。

しかし、実務で契約書や社内ルールの見直しを数多く行ってきた経験から申し上げると、「今が不合理である」という事実だけでは、ルールの見直し・改定はうまく進まないことがほとんどです。

むしろ、今ある仕組みがどうしてその形になったのか、その「背景や経緯」を丁寧に確認することから始めることが、実効性のある改定を実現するための第一歩です。

社内ルールや契約条項に「なんでこんな手間のかかるフローになってるの?」というものがあるのは、決して珍しいことではありません。
しかし、そのルールが作られた当時を振り返ってみると、以下のような合理的背景があることも多いのです。

  • トラブルが頻発していたため、リスク回避のためにルールを強化した
  • 人的リソースが限られていたため、運用上必要だった
  • 経営層や取引先との力関係から、妥協せざるを得なかった

つまり、「今の非効率」は、かつての「最適解」であったということ。
この視点を持たずにルールの見直しを進めてしまうと、「なぜそれがあるのか分からないまま削除した結果、大きなトラブルを呼び込む」という事態にもなりかねません。

もう一つ厄介なのが、「慣習化したルール」の改定です。
これは法的根拠があるわけでもなく、明文化されているわけでもない。それでも社内では「こうするのが当たり前」とされているルールです。

こうした慣習に手を入れるのは、論理や正しさではなく、“気持ちの問題”との闘いになることが少なくありません。

たとえば…

  • 「先輩たちがずっとやってきたから」
  • 「今さら変えると、これまでのやり方を否定することになる」
  • 「ここではあえて口には出さないけれど、ベテランの○○さんが何か言ってきそうで面倒なことになりそう」

このような、言語化されない抵抗感が根深く存在するため、改定が難航することも多々あります。

そうした中で、契約書や社内規程を現場に浸透させるためには、共感をベースにした丁寧なコミュニケーションが必要になります。

私は実務において、以下のような手順を踏むことを心がけています。

1. 経緯を確認する

まずは、ルールや慣習ができた背景を関係者からヒアリングし、文書や記録があれば確認します。これにより、「そもそもなぜこのルールができたのか」を整理します。

2. 現状の課題を可視化する

次に、現状のルールによりどんな非効率やトラブルが起きているのかを整理し、現場の声を集めます。

3. 感情的な抵抗感を受け止める

「やり方を変えるのは不安」「これまでのやり方を否定されたくない」といった感情にも耳を傾け、決して「頭ごなしに変える」のではなく、理解と納得を得ながら進めます。

4. 目的を共有する

「業務の効率化」「リスクの低減」「社員の負担軽減」といった改定の目的を明確にし、ルール改定が「みんなのためになる」「会社の利益になる」という納得感のある説明をします。

多くの会社では、いったん作った契約書や社内規程が、その後ずっと「放置」されるケースも珍しくありません。
しかし、ビジネスの環境も、会社の規模も、人も、日々変化しています。

だからこそ、ルールも変化に合わせて「アップデートされて当然」という文化を根付かせることが大切です。

そして、アップデートの際には「過去を否定する」のではなく、「過去を尊重しつつ、次の最適解を模索する」ことが肝要です。
この姿勢こそが、社員の協力と信頼を得るための土台になるのです。

契約書も、社内規程も、最終的には「人」が使うものです。
だからこそ、人の気持ちや背景を理解する姿勢がなければ、どんなに法的に正しくても、形だけのルールになってしまいます。

現状の仕組みやルールに違和感を覚えたら、それを作った経緯や背景にまで遡り、「当時の最適解」を理解する。
そして、そのうえで「今の最適解」をみんなを巻き込みながら探していく

この丁寧なアプローチこそが、組織を前に進めるルール改定の鍵になるのではないでしょうか。

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