ビジネス法務

【NDAのトリセツ】商談で提供した情報を守るには?

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

秘密保持契約(NDA)は、
ビジネスの最初に結ばれることが多い一方で、
「とりあえず雛形で」「前回と同じ内容で」
と、深く考えられないまま使われがちな契約でもあります。

しかし、NDAは単なる形式的な書類ではなく、
その後の取引や情報の扱い方を左右する重要な土台です。

この「NDAのトリセツ」シリーズでは、
一般論にとどまらず、実務の現場で本当に考えるべきポイントを、
一つずつ整理していきます。


1. NDAを結ぶ前の情報は、どう扱われているか

NDA(秘密保持契約)は、
「秘密情報を守るための契約」として広く知られています。

一方で、契約書の相談やセミナーの現場では、
次のような質問を受けることが少なくありません。

「NDAを結ぶ前、引合いの段階で出した情報って、
どうやって守ればいいんでしょうか?」

背景には、

  • 見込み顧客に渡した資料が競合に流れた
  • 相見積もりに使われ、商談が流れてしまった
  • 何もできないまま“骨折り損”になった

といった、NDA以前のフェーズで起きたトラブルがあります。

重要なのは、
NDAがない状態で情報漏洩が起きた場合、
相手への責任追及は格段に難しくなる

という法務上の現実です。

本記事では「NDAのトリセツ」として、
NDA前の引合い段階で、どう情報を守るべきか
実務と法的構造の両面から整理します。


2.引合い段階の情報は、なぜこんなにも無防備なのか

引合い段階では、まだNDAが締結されていません。
つまり、相手には

  • 秘密として扱う義務
  • 第三者提供を禁止する義務
  • 目的外利用を制限する義務

といった明確な契約上の義務が存在しない状態です。

それにもかかわらず、

  • 詳細な営業資料をそのまま渡す
  • コスト構造やノウハウまで資料化する
  • データを自由に保存・転送できる形で共有する

こうした運用が、実務では少なくありません。

引合い段階とは、
「もっとも情報を出しやすく、
もっともNDAの保護が及ばないフェーズ」

であることを、まず正確に理解する必要があります。


3.NDAがないと、なぜ責任追及はここまで難しくなるのか

NDAを締結していない状態で情報が漏洩した場合、
損害賠償請求は主に次の法的構成に頼ることになります。

  • 民法709条(不法行為)
  • 不正競争防止法(営業秘密侵害)

しかし、どちらも実務上のハードルは高いのが現実です。

①不法行為(民法709条)の限界

不法行為で責任を問うには、

  • 相手の故意・過失
  • 情報の価値(損害額)
  • 漏洩との因果関係

を立証する必要があります。

相手から
「秘密だとは認識していなかった」
「検討用資料だと思っていた」
と主張されると、立証は一気に難しくなります。

②不正競争防止法(営業秘密)のハードル

営業秘密として保護されるには、

  1. 秘密管理性
  2. 有用性
  3. 非公知性

の3要件すべてを満たす必要があります。

引合い段階で最大の壁になるのが、秘密管理性です。

  • 秘密表示があるか
  • 利用や閲覧が制限されているか
  • 管理していた痕跡が残っているか

これらが欠けていると、
「そもそも秘密ではなかった」と評価されるリスクがあります。


4.「秘密だった」と言えなくなる、よくある情報開示の失敗

実務でよく見かけるのが、次のようなケースです。

  • 営業資料に利益率や原価構造まで記載している
  • 技術的ノウハウや手順を詳細に書いている
  • Confidential表示がない
  • 転用禁止・利用目的の記載がない

この状態で情報が外部に流れても、
後から「それは秘密だった」と主張するのは困難です。

NDA以前に、
秘密として扱う意思や管理の痕跡が残っていない

からです。


5.NDAの視点で見ると、問題の本質はどこにあるのか

問題の本質は、
「NDAがなかったこと」そのものではありません。

本質は、
「NDAがない前提で、情報の出し方を設計していなかったこと」
にあります。

NDA前の段階では、

  • 何を出すのか
  • どの段階で出すのか
  • どんな形で出すのか

を、自社主導で設計する必要があります。

これは、
NDAを結ぶ前から始まっている“情報管理の設計”
だと考えると分かりやすいでしょう。


6.NDA前の引合い段階で実務としてやるべきこと

NDA前のフェーズで有効なのは、次のような運用です。

①出す情報を段階的に分ける

  • 初期段階:概要、実績、方向性
  • NDA締結後:数値、ノウハウ、詳細資料

②資料を二層構造にする

  • 資料A(一般情報):誰に渡してもよい
  • 資料B(機密情報):閲覧期限・回収前提

③形式で情報をコントロールする

  • PDF化
  • 編集・印刷・コピー禁止
  • 顧客名入りウォーターマーク
  • 閲覧期限付きリンク
  • ダウンロード不可のオンライン閲覧

④NDAに代わる最低限の確認を残す

NDA締結が難しい場合でも、
メールで次の確認を取っておくことがあります。

本資料は貴社内での検討目的に限り使用し、
第三者提供を禁止することを確認します。

これはNDAほど強力ではありませんが、
秘密管理性を補強する重要な証拠になり得ます。


7.まとめ

NDA前の引合い段階は、

  • 情報が最も漏れやすく
  • それでいて
  • NDAによる保護が及ばない

という、実務上もっともリスクの高いフェーズです。

この段階で情報漏洩が起きても、
相手への責任追及は格段に難しくなります。

だからこそ、

  • 出す情報の深さをコントロールする
  • 形式と運用で行動を制限する
  • 秘密として管理していた痕跡を残す

という設計が不可欠です。

NDAは万能ではありません。
NDA前の情報管理の質が、
その後のNDA運用・契約実務の強度を大きく左右します。


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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