ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1. はじめに
- 2. 誤記?錯誤?(まず押さえたい基本)
- 3. 誤表記で“合意内容が変わる”典型例
- 4. 誤表記を見つけたときの正しい訂正方法
- 5. 電子契約(クラウドサイン等)で修正するときの原則
- 6. 誤表記を防ぐための実務ポイント
- 7. まとめ:契約の世界では「、」にも根拠がいる
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1. はじめに
契約書のミス――。
「数字が1つ違っただけだから、すぐ直せばいいでしょ?」
そう思いがちですが、契約の世界では たった一文字の誤表記が“合意内容そのもの”を変えてしまう ことがあります。
たとえば、
- 「10万円」と書くつもりが「1万円」
- 「100,000円」が「10,000円」
- 「648,010円」が「648.010円」(カンマとピリオド)
- 「その他」と「その他の」
こうした小さな違いでも、契約としてはまったく別物になり得ます。
では、誤記を見つけたらどうすべきか?
いまの電子契約時代ではどんな修正が必要なのか?
今回は、誤表記の扱い・訂正方法・実務で起きやすい勘違い を徹底解説します。
2. 誤記?錯誤?(まず押さえたい基本)
誤記=“書き間違い”。
錯誤=“当事者の認識がそもそも一致していなかった”という主張。
ただし、ここが重要です。
錯誤が認められるハードルは高い。
裁判所は「本当に当事者の認識が違っていたのか?」「相手もそう理解していたのか?」を厳しく見ます。
つまり――
- 数字が違うだけでは、簡単に錯誤無効にはならない
- 合意内容として扱われる可能性が高い
- よって 訂正は“双方の合意”が必要
これが実務上の大前提です。
3. 誤表記で“合意内容が変わる”典型例
(1)ゼロ1つの違いで金額が変わる
- 「100,000円」と書くつもりが「10,000円」
- 「50,000円」が「500,000円」になっていた
数字の桁違いだけで契約内容は劇的に変わります。
(2)海外式の数字表記を誤記するケース
世界には数字の区切りが日本と逆の地域があります。
- 日本式(アメリカ式) → 「1,000」=千
- 欧州式(ドイツ・フランス等) → 「1.000」=千
つまり、
| 表記 | 日本式の意味 | 欧州式の意味 |
|---|---|---|
| 1.000 | 小数点で「1」 | 桁区切りで「1000」 |
| 1,000 | 桁区切りで「1000」 | 小数点で「1」 |
そのため、和文契約書に欧州式で 1.000万円(ピリオド) と書いてある場合、
- 日本式での解釈 → “1万円”
- 欧州式 での解釈→ “1,000万円”
のように 1000倍ズレる 可能性があります。
国際契約で実際によく起きる誤記です。
(3)「その他」と「その他の」で義務範囲が変わる
誤表記の怖さを理解するうえで最も象徴的な例です。
まずはシンプルに整理:
| 用語 | 関係性 | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| その他 | 並列関係 | 列挙された語句と同じ階層で並ぶ(範囲が広い) | りんご、みかん、その他食べ物 |
| その他の | 例示関係 | 列挙された語句が“後ろの広い概念の具体例” | 引火性、爆発性、その他の危険性 |
実務でどう変わる?
●その他費用(=広がる)
交通費、宿泊費、印刷費、その他費用を負担する。
この書き方だと 交通費と関係のない費用まで含む可能性 が生まれます。
例:外注費、PC修理費、事務手数料など。
●その他の費用(=限定される)
交通費、宿泊費、印刷費、その他の費用を負担する。
こちらは
列挙された費用の“同種の追加分” に限定。
▼たった一文字で意味が変わる
だから誤表記は危険。
「その他/その他の」の違いですら、義務範囲がまるごと変わります。
4. 誤表記を見つけたときの正しい訂正方法
ポイントは一つ。
必ず“双方の合意”のもとで訂正すること。
方法は3つあります。
【A】訂正印で直す(紙契約)
- 二重線で消す
- 上に正しい表記を書く
- 双方の訂正印を押す
【B】覚書(合意書)で修正する
誤記が大きい場合、または金額のように重要な場合は覚書が安全。
【C】契約書をまるごと差し替える
複数の誤記がある場合は 再締結 が最も確実。
5. 電子契約(クラウドサイン等)で修正するときの原則
電子契約に「訂正印」はありません。
原則はこれ:
正しいPDFを再送し、もう一度合意してもらう。
つまり 差し替え=再合意 が必須。
6. 誤表記を防ぐための実務ポイント
- 金額は 漢数字+アラビア数字の併記 が安全
- カンマ区切り(1,000,000円)で書式を統一
- 「その他/その他の」は意味を必ず確認
- 日本語入力ソフトの自動変換ミスに注意
- 複数名での読み合わせを習慣化
7. まとめ:契約の世界では「、」にも根拠がいる
誤表記は“ただのミス”ではなく、
当事者の合意内容をゆがめる重大なリスク です。
- ゼロ1つ
- ピリオド1つ
- 「その他/その他の」
- たった一文字
これだけで契約は変わります。
だからこそ、誤記を見つけたら
書面で明確に訂正し、双方の認識をそろえること。
そして日頃から誤表記を防ぐしくみを整えることが大切です。

【音声解説】
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【執筆者】
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