ビジネス法務

【2025年版】『新しい型取引のルール』と契約実務での対応

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

2020年1月に「下請中小企業振興法」における振興基準が改正され、型取引のルールが法令化されています。
企業はその適正な取り扱いが求められています。

本記事では、『新しい型取引のルール』の概要と、取引実務においてどのように対応していくかついて詳しく解説します。

参考:中小企業庁「型を用いて製品を製造する全ての事業者の皆様方へ」(『新しい型取引のルール』)

目次

  1. 型取引とは?
  2. 新しい型取引のルールの背景
  3. 型取引の3つの類型とそれぞれの特徴
  4. 『新しい型取引のルール』に対応するための具体的な取り組み
    • 事前協議と書面化
    • 型代金の支払い
    • 不要な型の廃棄と保管費用の支払い
    • 型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」
    • 知的財産・ノウハウの保護
  5. 型取引における実務上のポイント
  6. 実際の事例紹介と問題点
  7. まとめと実務に役立つチェックリスト

型取引とは、製品を製造するために必要な「型」をやり取りする取引です。これには金型、木型、樹脂型、治具などが含まれ、製造業で広く使用されています。しかし、この「型」に関する取り決めが不明確だと、後々問題になることがあります。

型取引に関する典型的な問題は次のとおりです:

  • 型の所有権の問題:型の所有権が不明確で、管理を巡るトラブルが起こりやすい。
  • 保管費用や廃棄費用の負担問題:型の保管や廃棄にかかる費用をどちらが負担するかが曖昧なまま取引を行うと、後で不平等な負担が発生することがある。

『新しい型取引のルール』は、2019年12月に発表された「型取引の適正化推進協議会報告書」に基づいています。この報告書では、型取引の適正化を進めるためのルールが整備され、2020年1月に改正された下請中小企業振興法「振興基準」により正式に法令として位置づけられました。

改正された背景には、製造業のサプライチェーン全体の競争力強化を図る目的があります。特に、下請け業者が不当に型の管理や費用を負担しないよう、取引条件を明確にすることが求められています。

型取引は、取引の内容に応じて3つの類型に分けられます。それぞれの類型には、異なる管理方法や費用負担の取り決めが求められます。

類型A: 「型のみ」又は「製品と型の双方」を取引対象(請負等)とする取引

  • 特徴:型自体が取引の対象となり、型の所有権は発注側が持つ
  • 管理方法:型の製作費用や保管費用の負担は発注側が行い、受注側に不利益がかからないように配慮します。

類型B: 取引の対象は製品であるものの、型についても、製品に付随する取引として、発注側事業者が型製作相当費の支払いや製作・保管等の事実上の指示を行う取引

  • 特徴:製品が主な取引対象であり、型の製作に関連する費用が発注側によって支払われる(型の所有権は発注者側が持つ)。
  • 管理方法:型製作の指示は発注側が行い、型の保管やメンテナンスに関する指示も発注側が主導します。

類型C: 型そのものは取引対象とならず、かつ、発注側事業者が型に関して、型製作相当費の支払いや製作・保管等の指示を全く行わず、受注側事業者の判断で型管理を行う取引

  • 特徴:型自体は取引対象に含まれず、型の管理や廃棄は受注側が行います(型の所有権は受注者側が持つ)。
  • 管理方法:発注側は型の管理に関与せず、受注側に型に関するすべての管理責任を委ねます。

『新しい型取引のルール』には、発注側と受注側が協力して実施すべき取り組みがいくつかあります。これらを遵守することで、型取引の適正化が進みます。

事前協議と書面化【類型A、類型B、類型C】

型取引においては、事前に発注側と受注側が協議し、その結果を契約書に書面で確認することが求められます。書面化する内容としては、型の所有権、製品の量産期間、型代金や製作相当費の支払い方法、型の保守・メンテナンス・廃棄に関する費用の取り決めなどがあります。

型代金の支払い【類型A、類型B】

型の製作には多額の資金がかかるため、発注側は型代金や製作相当費をできるだけ早期に支払うよう努めなければなりません。特に資金繰りが難しい受注側企業に対しては、契約時に「着手金」を支払うなど、製作工程に合わせて早期支払いを行うことが推奨されます。

不要な型の廃棄と保管費用の支払い【類型A、類型B】

型が不要になった場合、発注側は受注側に型の廃棄指示を出し、その費用を負担しなければなりません。また、型を保管する場合、保管費用は発注側が負担するべきです。

型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」【類型A、類型B、類型C】

型の保管期間や費用についても明確にし、実態に合った料金設定を行うことが必要です。目安としては、業界ごとに型の保管期間が定められており、その後の廃棄・返却についても書面で取り決めるべきです。

知的財産・ノウハウの保護【類型A、類型B、類型C】

型に関連する知的財産やノウハウが漏洩しないよう、秘密保持契約を含めた取り決めを行うことが必要です。また、発注側が受注側の型の技術やデータを使用する場合には、適切な対価を支払うことが求められます。

実務上、型取引の適正化を進めるためには、以下のポイントを押さえておくことが大切です。

  • 契約書での条件明確化:型の所有権、保管方法、費用負担を事前にしっかり決めておくことが最も重要です。
  • 型の管理の透明性:型の管理が不透明だとトラブルが発生しやすいため、適切な監査やチェックを行いましょう。
  • 費用負担の公平性:発注側と受注側が公平に費用を分担するようにしましょう。

型取引に関するトラブルを防ぐためには、過去の事例を学ぶことが非常に重要です。ここでは、ポンプA社の事例を紹介し、型取引における問題点とその対応方法を見ていきましょう。

ポンプA社の事例

2025年2月、国内ポンプ最大手のA社が、下請け業者に約8,900個の型を無償で保管させていたとして、公正取引委員会から勧告を受けました。この事例では、型の保管費用や廃棄費用の負担が発注者側に適切に割り当てられていなかったことが問題となりました。

問題点

  • 無償保管の強制:発注者が型を無償で保管させていたことが、下請け業者に過剰な負担をかける形となり、法律違反として指摘されました。
  • 費用負担の不明確さ:型の保管や廃棄にかかる費用を誰が負担するのかが明確にされておらず、不公平な負担が発生しました。

このような事例を防ぐためにも、発注者と受注者は契約書で費用負担を明確にし、型管理を透明にすることが必要です。特に型の保管や廃棄に関しては、事前に書面で取り決め、後でトラブルにならないようにすることが重要です。

参考:公正取引委員会「(令和7年2月20日)ポンプA社に対する勧告について」

『新しい型取引のルール』において、企業が実施すべきことを簡単に整理すると以下の通りです:

  • 契約書を見直す:型取引に関する取り決めを明確にし、書面化する。
  • 型管理の透明性を確保する:型の保管、管理、廃棄に関する情報を定期的に確認する。
  • 費用負担を明確にする:型の製作、保管、廃棄費用の負担について発注側と受注側で合意する。

「契約書を見直す」といっても具体的にどうしたらいいの?という場合には、「型の取扱いに関する覚書(ひな形)」がとても参考になるかと思います。

参考:経済産業省「型の取扱いに関する覚書(ひな形)」

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