ビジネス法務

【契約書のトリセツ】契約書は最低限ここだけ確認をーお金回り5つのチェックポイント

ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。

目次

本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。


1.契約書、全部見るのは正直しんどい…

契約書をチェックするとき、こんなふうに感じたことはないでしょうか。

  • 「細かいところまで全部見る時間がない」
  • 「そもそも何を見ればいいのか分からない」
  • 「最低限ここだけ見ればいいポイントを教えてほしい」

実務の現場でも、こういったご相談は非常に多くいただきます。

契約書は本来、細かいところまで確認するものです。
ただ現実として、すべてをチェックするのは難しい場面もあります。

そこで、あくまで「最低限どこを見ればよいのか」という前提で、
チェックポイントなどをまとめます。


2.迷ったら「金額」を中心に見ればいい

このような問いに対して、私はよく「最低限、範囲・期間・金額を確認してください」とお伝えしていますが、
この中でさらに1つに絞るなら、「金額(お金回り)」です。

お金の動きは、

  • 目に見える
  • イメージしやすい
  • トラブルになりやすい

この3つがそろっています。
契約書に慣れていない方でも、比較的理解しやすい部分でもあります。


3.契約書トラブルの多くは「お金回り」

実務を見ていると、契約書トラブルの多くは、お金回りの認識ズレから発生しています。

  • 誰が払うのか
  • いくら払うのか
  • いつ払うのか

このあたりが曖昧なまま進んでしまうと、後から必ずと言っていいほど問題になります。


4.契約書は「お金の流れを整理するツール」

少し視点を変えてみましょう。

契約書とは何か。
実務的に言えば、「お金の流れをどう整理するか」を明確にするツールです。

そして、

  • 不具合があったらどうするのか
  • 返金はあるのか
  • 違約金はいくらか
  • 損害が発生した場合、埋め合わせはあるのか

といった条項も、突き詰めて考えていくと、すべてお金の話につながっています。

つまり、契約書の理解は、お金の流れを理解することに近いとも言えます。


5.最低限チェックすべき5つのポイント

では具体的に、どこを見ればよいのか。
お金回りのチェックポイントは、主に5つです。

① 誰が誰に支払うのか

NG例:
「甲は乙に対し代金を支払う」

OK例:
「買主(甲)は、売主(乙)に対し、第○条の代金を支払う」

👉 ポイント:
当事者と役割が一致しているかを確認する

② 何の対価なのか

NG例:
「本契約に基づく代金を支払う」

OK例:
「〇〇サービス提供の対価として報酬を支払う」

👉 ポイント:
「何をしたらお金が発生するのか」を明確にする

③ いくらなのか(最重要)

NG例:
「金額は別途協議の上決定する」

OK例:
「報酬は金100万円(税別)とする」

👉 ポイント:
具体的な金額を必ず明記する

④ いつ支払うのか

NG例:
「甲の支払規定に従う」

※相手の社内ルールに委ねてしまうと、
 支払サイトが60日、90日、場合によっては120日と一方的に延ばされるリスクがあります。
 なお、中小受託取引適正化法(取適法;旧下請法)が適用される取引では、
 受領日から60日以内に支払わなければならないと定められています。

OK例:
「当月末締め、翌月末日までに支払う」

👉 ポイント:
「いつまでに」を明確にする

⑤ どのように支払うのか

NG例:
「銀行振込とする」

OK例:
「振込手数料は甲の負担とする」

👉 ポイント:
手数料負担まで明記する

また、支払方法には、

  • 一括払いか分割払いか
  • 前払いか後払いか

といった支払タイミングの設計も含まれます。
例えば、「報酬は、着手時に50%、納品完了時に50%を支払う」
といった形で整理しておくと、実務上のズレを防げます。

■ 角を立てずに修正をお願いするコツ

契約書に不備や不合理な箇所があった場合、そのままダイレクトに指摘すると、
関係がぎくしゃくすることがあります。

特に実務では、

  • 急いでいる
  • 相手が「これで問題ないはず」と思っている
  • そもそも「修正する」という文化が存在しない

といった前提があるため、正論ほど通りにくい場面も少なくありません。

そこで有効なのが、「自分の意見」ではなく「ルール」に変換することです。

例えば、

  • 「社内の経理ルール上、支払期限の明記が必要でして…」
  • 「法務チェックの運用上、この点は統一させていただいております…」
  • 「社内手続きの関係で、振込手数料の負担を明記する必要がありまして…」

といった伝え方です。
この形にすると、

  • 相手を否定しない
  • 自分の主張を弱めない
  • 修正の必要性は維持できる

というバランスが取れます。
また、もう一歩踏み込むなら、「相手のため」という形にするのも効果的です。

例えば、

  • 「後々の認識ズレを防ぐために、明記しておいた方が安心かと思います」
  • 「トラブル防止の観点で、この部分だけ追記させていただけると助かります」

といった一言を添えるだけで、単なる修正依頼から“リスク共有”に変わります。

👉 ポイント:正しさよりも、通る伝え方を選ぶ

契約実務では、「何を言うか」と同じくらい、「どう伝えるか」が重要です。


6.まとめ

最後にまとめです。
契約書で最低限チェックすべきポイントは、

  • 誰が誰に
  • 何の対価として
  • いくら
  • いつ
  • どのように

この5つです。
そして、この流れに違和感がある契約書は、実態が正しく反映されていない可能性があります。

契約書とは、現実の取引を言語化したものです。
だからこそ、お金の流れにズレがある=後で問題になるという理解で問題ありません。

少しでも違和感があれば、

  • 相手と確認する
  • 内容を調整する

この一手間でトラブルは大きく減ります。

契約書は国内取引であれば日本語で書かれている場合が大多数だと思いますので、
思ったほど難しいものではありません。

まずは、「お金の流れが合っているか」ここだけでも確認してみてください。
それだけでも、トラブルは確実に減ります。


【音声解説】

本記事の内容は、
音声配信『契約書に強くなる!ラジオ』でも解説しています。
▽ 音声はこちら(stand.fm)


【執筆者】

ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
現場で実際に使える判断基準を前提に、契約実務を整理しています。


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