ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
はじめに
マイナンバーカードや電子署名、クラウド契約の普及により、「印鑑文化はもう過去のものでは?」と感じている方も多いかもしれません。
しかし、住宅ローンや自動車の購入、成年後見制度の申し立て、相続手続きなど、いわゆる実印が必要な「重要な局面」では今もなお、“印鑑証明書”が求められることが少なくありません。
そして、その「印鑑証明書」を取得するには、事前に“印鑑登録”を済ませておく必要があります。
この記事では、私が行政書士として実際に関わってきた事例や自治体窓口での実務対応を踏まえながら、2025年時点での印鑑登録の基礎知識と最新の注意点をわかりやすく解説します。
そもそも「印鑑登録」とは何か?
● 印鑑登録とは?
個人が「この印鑑は、私の正式なものです」と公に証明するために、市区町村に申請し、登録する制度のことです。
印鑑登録が済んでいれば、役所で「印鑑証明書」を発行してもらうことができ、契約書類やローン申込み時の本人確認に利用されます。
● 登録の対象者
たとえば、さいたま市の場合、印鑑登録できるのは次のような人です。
- さいたま市に住民登録があること
- 15歳以上であること
つまり、住民登録が存在しない自治体での印鑑登録はできません。たとえばさいたま市に住民登録のある人が「会社が千代田区にあるから、通勤のついでに千代田区で登録したい」ということはできません。
引越しによる印鑑登録の「リセット」に注意!
● よくある“引越しの落とし穴”
「印鑑登録したのに、なぜか印鑑証明書がもらえなかった」
実務上、こういった相談は少なくありません。理由は非常にシンプル。
引越しをすると、元の自治体での印鑑登録は自動的に抹消されるからです。
たとえば、さいたま市から川口市に転居した場合、さいたま市の印鑑登録は転出と同時に無効になります。川口市で改めて登録し直す必要があります。
● 転勤族は要注意!
特に、仕事で数年おきに引越す方(いわゆる転勤族)は、この点に注意が必要です。
- 引越しの際は「住民票の異動」だけでなく「印鑑登録の再申請」も忘れずに。
- ローン審査や不動産登記のタイミングで印鑑証明が必要になると、役所が混雑している時期に二度手間になります。
印鑑登録は“転出とともに失効する”という点を、覚えておきましょう。
本人が行けない場合は?代理人による登録手続き
● 基本は「本人申請」
印鑑登録は、原則として本人が役所の窓口に出向き、本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)と印鑑を持参して申請する必要があります。
● どうしても本人が行けない場合
- 体調不良
- 足が不自由で役所まで行けない
こうした場合には、代理人による登録申請も可能です。
ただし、本人申請に比べて手間と日数がかかるため注意が必要です。
● 代理人申請の流れ(さいたま市の例)
- 代理人が「委任状」と印鑑を持って1回目の来庁
- 役所が本人宛に「照会書」を郵送
- 本人が署名・押印して「回答書」を作成
- 代理人が「回答書」とともに2回目の来庁
- 印鑑登録が完了し、印鑑証明書の発行が可能に
このように、最低でも2回の来庁が必要で、自治体によっては完了までにかなりの時間がかかるケースもあります。
住宅ローンや相続など「印鑑証明が急に必要になる局面」に備えて、早めに本人登録を済ませておくのが無難です。
どんな印鑑でも登録できるのか?
● NG印鑑の具体例
登録できる印鑑の種類は、各自治体の「印鑑条例」(例:さいたま市印鑑条例)によって細かく定められています。
印鑑『条例』とあるように、細かいルールは各自治体によりけりですが、一般的に、以下のような印鑑は登録を拒否されることがあり得ます。
登録できない例 | 理由 |
---|---|
「行政書士 大森靖之之印」など職業や資格が入った印鑑 | 氏名以外の事項を含むため |
ゴム印、スタンプ印 | 変形しやすく改ざんリスクがある |
シャチハタ、100均の既製品 | 同一印影の大量生産が可能なため |
一辺8mm未満または25mm超のサイズ | 規格外サイズで読み取り困難 |
他人の印鑑と酷似した印影 | なりすましの恐れがある |
● 芸名・屋号入りの印鑑は?
- 「屋号のみ」「芸名のみ」「肩書付き」の印鑑は基本NGです。
- 「登録できた自治体もある」といった事例もありますが、転居後に再登録できないケースもあるため、“氏名をベースとした印鑑”を使うのが安全です。
印鑑証明と電子証明、今後どうなる?
● デジタル時代の“印鑑”事情
2025年現在、次のような手段も普及してきています。
- マイナンバーカードに内蔵された電子署名
- 契約書の電子化(クラウドサイン、GMOサインなど)
- オンラインでの本人確認(eKYC)
これらの普及により、契約の場面で“実印”が登場する頻度は徐々に減ってきてはいます。
● それでも「印鑑証明書」が求められる場面
- 不動産登記
- 自動車の所有権移転
- 金融機関でのローン契約
- 相続手続き
- 成年後見の申立書類
いずれも高額・高リスクな取引の場面。こうした重要な手続きでは、今なお「実印と印鑑証明書のセット」が信頼の証として使われています。
● デジタルとアナログの「二刀流」で備えよう
たとえば、
- オンラインで済む契約は電子署名でスピーディに
- 重要なライフイベント(不動産・相続等)は印鑑登録と証明書で確実に
こうした“使い分け”を意識することが、今後ますます大切になっていきます。
おわりに:見直される「印鑑文化」の役割
とりわけコロナ禍初期においては、「印鑑なんて古い」と一蹴される風潮もあったような気がします。
しかし、いま改めて「本当にこの人がこの書類を承認したのか?」という“実在証明”の重要性が問われています。
印鑑登録は、信頼の可視化ともいえる仕組みです。
たしかに手続きは面倒に感じるかもしれませんが、必要なときにすぐ印鑑証明を取得できる状態にしておくことが、将来の安心につながります。
最後に、もう一度ポイントをまとめておきます。
✅ 印鑑登録チェックリスト(2025年版)
- 引越したら印鑑登録も「やり直し」が必要
- 本人が行けないときは代理人申請も可能(1週間以上かかる)
- 登録できるのは“氏名”をベースとした印鑑のみ
- シャチハタ・ゴム印・芸名入りは基本NG
- デジタル署名と使い分けて「印鑑証明」が必要な場面に備えよう
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