ビジネス契約書専門の行政書士(特にIT&クリエイター系の契約書に強い)
ビジネス法務コーディネーター®の大森靖之です。
目次
- 1.社会情勢が変わったら、契約も変えられるのか?
- 2.契約は厳守が原則。ただし「備え」があれば話は変わる
- 3.【事例】原材料価格が急騰した、その「あと」に起きること
- 4.契約変更は「書いてあるか/ないか」で決まる
- 5.実務上の防衛策|リードタイムが長い取引ほど要注意
- 6.【実例】契約変更条項の具体的な文例
- 7.まとめ:激変する時代に強い契約書を
本シリーズ「契約書のトリセツ」では、
契約書にまつわる基本的な知識や実務上の注意点を、
初心者の方にもやさしく、わかりやすく解説しています。
毎回ひとつのテーマを取り上げ、現場で役立つ視点をお届けします。
1.社会情勢が変わったら、契約も変えられるのか?
「原材料価格がここまで上がるなんて、契約したときには想定していなかった」
「この単価のままでは、作れば作るほど赤字になる」
社会情勢が激変するなかで、
こうした声を耳にする機会は確実に増えています。
では、ここで素朴な疑問が浮かびます。
社会情勢が大きく変わったとき、契約内容は変更できるのか?
これが、今回のテーマです。
現代のビジネスシーンにおいて、昨日までの常識が今日通用しなくなるような
「社会情勢の激変」は、もはや珍しいものではありません。
世界的な紛争、急激な為替変動、物流網の混乱…
こうした予測困難な事態は、企業の利益を直撃し、
時には取引の継続のみならず、企業の存続そのものを危うくします。
2.契約は厳守が原則。ただし「備え」があれば話は変わる
結論から言えば、
- 契約は、原則として守らなければならない
- 社会情勢が変わったからといって、自動的に変わることはない
- しかし、契約書に変更ルールがあれば、交渉の余地が生まれる
というのが、実務上の大枠です。
つまり、
👉 分かれ道になるのは「契約書に何が書いてあるか」
ここに尽きます。
3.【事例】原材料価格が急騰した、その「あと」に起きること
当社(メーカー)は、取引先X社と取引基本契約を締結し、
継続的に製品を納入しています。
具体的な数量や単価については、その都度、個別契約で決定する。
多くの製造業・卸売業で見られる、ごく一般的な取引形態です。
ところが近年、この「当たり前の前提」が崩れる場面が急増しています。
個別契約で単価を決めたその後に、
原材料価格が急激に上昇してしまうのです。
現場では、こんなやり取りが起こります。
現場担当者
「社長……この単価のままだと、正直、作れば作るほど赤字です」
社長
「え? そこまで上がっているのか?」
現場担当者
「原材料がそもそも手に入らなくて、
このままだと納期にも間に合いません。
仕様を変えないと厳しい状況です」
社長
「じゃあ、価格の見直しをお願いできないのか?」
現場担当者
「それが……先方には
『もう個別契約で単価は決まっていますよね』
と言われてしまって……」
こうした状況で相談に来られる社長さんは、
少し困った表情で、たいていこう言います。
「正直、ここまでとは想定していませんでした」
「社会情勢がここまで変わったんだから、何とかならないんでしょうか?」
現場を預かる立場の方であれば、
「これは他人事ではない」と感じるのではないでしょうか。
ただ、ここで一つ、冷静に押さえておく必要があります。
契約の世界では、『大変だった』『想定外だった』という事情だけで、
契約内容が自動的に変わることはありません。
※もちろん、当事者間の合意があれば、契約内容を変更すること自体は可能です。
4.契約変更は「書いてあるか/ないか」で決まる
①契約書に「契約変更」の記載がある場合
まず確認すべきは、現在締結している基本契約書の条文です。
たとえば、
「物価の変動その他の経済情勢の変化により、
本契約に定める価格が不適当となった場合には、
甲乙協議のうえ、これを変更することができる」
といった条項があれば、
それを根拠に正式な協議を申し入れることができます。
②契約書に「契約変更」の記載がない場合
一方、何も書かれていない場合はどうなるでしょうか。
この場合、
- まずは誠実に協議を申し入れる
- それでも合意に至らなければ
- 原則として契約どおり履行する義務が残る
というのが、日本の契約実務の基本ルールです。
5.実務上の防衛策|リードタイムが長い取引ほど要注意
発注から納品までの期間(リードタイム)が長い取引では、
その間に社会情勢が激変するリスクが高まります。
このような取引においては、
- 原材料価格の変動
- 調達不能
- 仕様変更の必要性
といった事態をあらかじめ想定した契約設計が不可欠です。
6.【実例】契約変更条項の具体的な文例
第●条(個別契約)
1.売主および買主は、個別契約において、目的物の仕様、単価、発注から納期までの期間を定めるものとする。
2.個別契約において目的物の単価が決定された後に、原材料価格の著しい変動、原材料の調達困難による仕様変更、その他目的物の単価に影響を及ぼす社会的又は経済的情勢の変動が生じた場合には、売主は、その内容及び理由を示した うえで、買主に対し、当該単価の見直しについて協議を申し入れることができるものとする。
3.前項の申入れがあった場合、買主は、合理的な理由なく当該協議を拒まないものとし、売主および買主は、誠意をもって協議のうえ、目的物の単価を決定するものとする。
※上記条文例は、一般的な契約実務における考え方や設計例を示したものであり、
特定の契約や個別の取引にそのまま適用できることを保証するものではありません。
実際の契約においては、
- 取引内容
- 当事者間の力関係
- 下請法・独占禁止法等の適用関係
- 業界慣行や個別事情
によって、適切な条文設計や運用が大きく異なる場合があります。
契約書の作成・修正・締結にあたっては、
必ず専門家に相談のうえ、個別事情に応じた検討を行ってください。
7.まとめ:激変する時代に強い契約書を
社会情勢が不透明な時代において、
契約書はもはや、単なる「約束の記録」ではありません。
不測の事態から自社を守るためのリスク回避ツールであると同時に、
事業を前に進めるための戦略的なツールとしての役割も求められるようになっています。
「長年の付き合いだから大丈夫」
そうした信頼関係を前提としつつも、
これからの契約書には、
想定外の変化にどう対応するか、あらかじめ“攻めの視点”で書いておくことが欠かせません。
守るためだけでなく、
変化の中でも事業を止めないために――
今こそ、契約書を見直すタイミングなのかもしれません。
✔ チェックリスト
- 基本契約書に価格改定条項は入っているか
- リードタイムが長い取引で、リスクを負いすぎていないか
- 変更内容を覚書として残せているか

【執筆者】
ビジネス法務コーディネーター®/行政書士 大森 靖之
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