契約書

契約書作成とヒアリング

ビジネス法務コーディネーター®大森靖之です。
日頃は、ビジネス契約書専門(特にIT系に強い)の行政書士として、中小・ベンチャー企業様の成長発展のお手伝いをしております。

1.はじめに

私が講師をつとめるセミナー・研修の受講生の方や、行政書士として「これから契約書業務をやってみたい!」といった方から、
「契約書を作成する際には、何を確認すれば良いのか?」
「ヒアリングのコツは?」

といったご質問をいただくことがあります。

先日、私が所属させていただいている埼玉中小企業家同友会という経営者団体の広報誌チームにて、おこがましくも「取材について」というテーマでお話をさせていただきました。
こちらは、
「私は取材の専門家ではなく、契約書の専門家なので、20年にわたる契約書作成において磨いてきたヒアリング手法をお伝えします。これは広報誌の取材にも応用できるのは?」
という切り口で話をし、メンバーの方々より、わりかし好評のリアクションをいただきました。
あわせて、法務部勤務時代に諸先輩方から教えていただいたことも加味しながら、拙いながらもここでテキスト化しておこうかと思います。

読者の皆さんの何かのお役に立てれば幸いです。

2.契約書作成と「取材」

「契約書作成で『取材』??なんと大げさな」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、「取材」について辞書で引きますと、以下の通りの語釈となっております。

しゅざい【取材】
新聞・雑誌の記事の材料や作品の題材を、ある事件・人から取り集めること。

『新明解国語辞典(第8版)』(三省堂)

「契約書作成=本やネットから雛形を集める作業」
とお考えの方も結構いらっしゃるようですが、これは違います

契約書はビジネス(商売)を言語化したもの。
ビジネス(商売)は人と人が行いますので「人」が起点になっていないと、商売に使える「生きた契約書」にはならないと私は考えています。
雛形というのはあくまで(最大公約数を踏まえた)参考例に過ぎません。
雛形を参考にするとしても、そこに「人」から得た情報を盛り込んでいく必要があります。
したがいまして「そのビジネス(商売)に関する『人』から情報を集めるための取材」が必要となってくるわけです。

3.「きく」

契約書作成における「取材」についての意味合いを解説したところで、ここからは、その「取材」のしかたについてご説明していきます。

「取材」=人からきく

となりますが、この「きく」には、私が調べたところによりますと、大きく分けて以下の3種類あります。
①聞く:here  一般的なもの
②聴く:listen 相手の声にじっと耳を傾ける(傾聴)
③訊く:ask  相手に問いかける

①→③に移るに従って「主体性」の度合いが高くなるという関係ともいえるのではないでしょうか。

とはいえ、前のめりになって「訊く」を多用すると、は一歩間違えれば「尋問」のようになってしまいます(私自身、前のめりになりすぎて、相手の怒りを買ったりと、失敗談は枚挙にいとまがありません…)。

契約書作成の場合、事業構想のことから隠れたリスクまで、様々なことを確認しなければなりませんから、相手にはできるだけリラックスしていただき
・色んな話を引き出し
・深めていく

ことが必要です。
深めていった結果、ポロッと出てくる「本音」の部分にこそ、契約書に盛り込まなければならない「本質」が潜んでいることが多いのです。

ここで、「聴く」と「訊く」の割合ですが、7:3くらいの配分が良いかと思います(あくまで私の経験則)。具体的な聴き方、訊き方のテクニックについては、こちらの本を参照いただければと思います。

4.「引き出し方」「深め方」

・色んな話を引き出し
・深めていく

この「やり方」についての私なりのイメージを図式化すると以下の通りとなります。

おなじみの「氷山モデル」です。

まず、「契約書作成に必要な情報は、海面の中にある」この意識付けが大切です。
「契約書作成において上っ面な情報に価値はない」と法務部勤務時代によく諸先輩方に怒られました…

ここからは、その教えに、私なりのエッセンスを加味したやり方です。

「上っ面な情報に価値はない」といえども、相手がまず「きいて」欲しいのは、上っ面な情報とう場合が多いのです。
逆説的ではありますが、こういう機微が発生するのが人の心でもあるのです。まずは相手の話を否定したり、上から話を被せたりするのではなく、相手の承認欲求を満たすところから見えてくることも多いのです。
また、契約書作成の「取材」となりますと、どうしても尋問チックになりがちです。それを避けるためにもまずは「上っ面を確認する」というのが、再現性の高いやり方なのではないか?と考えております。

その「上っ面を確認する」作業として、私は、まず、
①現在:何のために契約書が必要なのか?
②過去:なぜ契約書を作ろうと思ったのか?それは何をきっかけとしているのか?
③未来:契約書を使って何をしたいのか?

をおおよそこの順番で、大まかにお聞きします。

現在→過去→未来の順番は、楽曲にもなっているくらいなので、「きかれる」側としても心地よい順番なのではないか?という単純な発想です。
もちろん、ケースバイケースでこの順番は入れ替わります。

情報を大まかに把握した後は、
①現在:具体的な問題認識
②過去:具体的なトラブル事例
③未来:具体的な事業展開

と対照させて深掘りしていきます。

ここで最も力を入れるべきは「②過去:トラブル事例」

「契約書を作りたい」いう動機の裏には、過去のトラブル事例や、それに至らぬまでも「苦い経験」があるのがほとんどです。
ここで、
「それは契約書があればトラブルになりませんでしたねー」などと冷めたリアクションをしたり、
あるいは「ここのタイミングで書面を取り交わせばよかったのですよ」とアドバイスをするのではなく、
「えー!」
「それは大変でしたね」
「お辛かったですね」
などと、共感のリアクションをしていくと本音がポロッと出てきます。

例えば、
「損害賠償について制限していなかった」
「保証の取り決めが甘かった」
「高額な違約金を確認していなかった」
「解約の条件があいまいだった」
「契約が自動更新になっていて余計なお金を支払った」
…etc

加えて、過去の事例から、相手の「考え方」の部分まで深掘りをしていきます。

例えば、
「win-winの関係でいたい」
「一線を引きたい(なあなあな関係は嫌)」
「お金に関することだけはハッキリさせておきたい」
…etc
特に「お金に関する考え方」については、契約書作成においては非常に重要であるものの、ダイレクトにはなかなか聞きづらい分、過去の話の深掘りで確認するのがベターなのではと考えています。

これら過去の話から引き出した「本音」から、「本質」の部分を導きだし、を未来の「事業展開」と掛け合わせた上で、適切な契約類型(売買or請負or準委任…etc)を選択し、そのビジネス(商売)において妥当な契約条件を編集していく。

このようなプロセスで、私は、契約書を作っております。

なお、英語の時制と絡めれば「過去完了の部分の深掘り」を意識すると、再現性高く本音が引き出せるような気がしております。

5.さいごに

以上、私なりの契約書作成時の確認プロセスを記してみました。よりよい手法がございましたら、ぜひお教えください!
上記「妥当な契約条件を編集していく」の私なりの編集手法につきましては、また改めてテキスト化したいと思っております。

最後まで、お読みくださりありがとうございました。

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